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文=柴那典 ※本企画はcakesで公開された記事を再録したものです。

ゼロ年代のインターネットから生まれた熱気とエネルギーをドキュメント、エモーショナルに描き切った話題沸騰のボーカロイド音楽史『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』の大ヒットを記念して、著者・柴那典さんが本書の読みどころを"音源"付きでご紹介! ニュー・オーダーの名曲「ブルー・マンデー」からryo(supercell)の「ODDS & ENDS」まで、もう読んだ人もこれから読む人も、本書に登場する名曲たちを爆音で聴きながらお楽しみください!!

第6章
電子の歌姫に「自我」が芽生えたとき
 × ryo
 × BOOM BOOM SATELLITES
 × halyosy

chapter6-index
キャラクターからクリエイターへ 148
「メルト」が変えた風景 152
ルーツにあった「強度」 156
「歌ってみた」とエレックレコード161

ika-moryo「メルト」
BOOM BOOM SATELLITES「KICK IT OUT」
halyosy『「メルト」を歌ってみた(男性キー上げVer.)』

 そして2008年。この年は、前年の初音ミクの登場で生まれたボーカロイド文化が一気に成長し、拡大した年になりました。

 代表的な楽曲はryoが投稿した「メルト」。この曲はその後一年間で300万回再生される大ヒットとなり、彼を中心にイラストレーターやデザイナーが集ったクリエイター集団「supercell」が結成。初音ミクが生み出した創作の連鎖を象徴するような一曲になります。

 そんなryoが最も影響を受けたアーティストが、1997年にデビューしたロックユニットBOOM BOOM SATELLITESでした。この本の中では、筆者が行ったBOOM BOOM SATELLITES × supercell対談の記事を元に、そのアーティスト性の背景を探ります。

 そして、「メルト」のもう一つの大きな意味は、ニコニコ動画に生まれたもう一つの文化「歌ってみた」の端緒になったことでした。その一翼を担ったのが歌い手・ボカロPのhalyosyです。

 吉田拓郎や泉谷しげるを輩出し、70年代のフォーク文化を支えた「エレックレコード」とhalyosyの数奇なつながりも、この章では書かれています。

第7章
拡大する「遊び」が音楽産業を変えた
 × ハチ
 × wowaka

chapter7-index
ヒットチャートを侵食する新たな波 166
カラオケと著作権の新しい関係 173
三次元に舞い降りた歌姫 181

ハチ「マトリョシカ」
wowaka「ワールズエンド・ダンスホール」

こうして、ニコニコ動画や同人イベントを拠点に拡大してきたボーカロイド文化は、2009年から2010年に一つのターニングポイントを迎えることになります。それは本格的なJポップシーンへの進出と、商業化への流れでした。

その端緒となったのが、前章で書いたsupercellと、やはり初期の代表的なクリエイターlivetune。いち早くメジャーデビューを果たした彼らに続く形で、次々と新たな才能がシーンに登場します。

代表的なクリエイターが、いまは本名の米津玄師として活躍するハチや、その後バンド「ヒトリエ」を結成したwowaka。フックの強いフレーズと高速のリズムが特徴のロックな曲調が大きな人気を博していきます。

この頃からライヴイベントが行われるようになったり、カラオケで歌われるようになったり、ボカロPにとっても、ネット上での楽曲の自由な利用を制限することなく、それまでのミュージシャンと同じように、クリエイターとして「音楽の道で食っていく」イメージが描けるようになっていきます。2010年には、カラオケJOYSOUNDの年間総合ランキングの上位10曲のうち4曲をボーカロイド楽曲が席巻。minato(流星P)の「magnet」は4位に入る人気となりました。

第8章
インターネットアンセムの誕生
 × livetune
 × ryo(supercell)
 × イーグルス

chapter8-index
「世の中が動くかもしれない」 188
初音ミクがウェブの「日本代表」に 194
「ヘイル・トゥ・インターネット」 198
二〇一二年の「ホテル・カリフォルニア」204

livetune feat. 初音ミク 「Tell Your World」
ryo(supercell) feat. 初音ミク「ODDS&ENDS」
イーグルス「ホテル・カリフォルニア」

2011年は、初音ミクが生み出した現象が、一つのピークポイントに達した年でした。それまでニコニコ動画を中心としたネットコミュニティの外側にはなかなか伝わらなかったボーカロイドシーンの熱気が、いよいよ世の中全体を動かし始めるようになります。その象徴となったのが、グーグル「chrome」のCMに初音ミクが起用されたこと。その楽曲「tell your world」を手掛けたのが、シーンの初期から活躍するクリエイターkzによるユニットlivetuneでした。CMを手掛けたクリエイター本山敬一氏の狙い、そして“インターネット・アンセム”として楽曲を作ったkzの思いを紐解きます。

また、この曲に対してのアンサーソングとして、ryo(supercell)が、もう一つのアンセム「ODDS&ENDS」を生み出します。

この曲は、メジャーデビューを果たし、傍目には華々しい成功を収めているように見える数々のボカロPが抱えている葛藤や悩みにも踏み込んだ楽曲になっています。いわば、変わってしまったシーンと時代について歌った曲。実は70年代の大ヒットナンバー、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」もそういう曲でした。

シーンの幸福な熱気と、それが過ぎ去ってしまう寂しさから生まれたアンセムについて、重ね合わせて語っています。


〈プロフィール〉

柴那典

しば・とものり。1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンで『ROCKIN’ON JAPAN』 『BUZZ』 『rockin’on』の編集に携わり、その後独立。雑誌、ウェブメディアなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー・記事執筆を手掛ける。主な執筆媒体は『ナタリー』 『Real sound』 『ミュージック・マガジン』 『クイック・ジャパン』 『CINRA』 『NEXUS』など。本書が初の単行本となる。

ケイクス(cakes)

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