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初出:『Quick Japan』vol.124 Text:磯部涼 photo:荒木経惟
*「ぽこぽこ」公開当時の記事を再掲載しました。

荒木経惟との撮影が終了し、誰もいなくなったスタジオで「去年の夏と似ている。人生から試されているみたいな」と奥田は言った。国会前デモが終わり、今、自分が置かれている状況について思うことは山ほどあるだろう。ポジティブとネガティブの間を揺れ動きながら、それでも前に進もうとする奥田の今の心境とは。

「SEALDsに求める
ハードルが高くなっている」

──では、続いてSEALDsの現状について聞きたいのですが、安保法制を巡る議論が盛んに行われた昨夏は、日本全体がある種の躁状態にあったと思うんですね。それが今現在、どうなっているかというと、凪の状態ですよね。いや、逆風と言ってもいいかもしれない。昨夏に最低を記録した安倍政権の支持率は、すっかり、SEALDs結成時の値にまで回復している。そして、個人的には、そのことは安保法制よりもさらに恐ろしく思える。今の日本国民の冷めやすさ、あるいは、流されやすさ。

奥田 メンバーはみんな次の一手をどうするか、悩んでると思いますよ。やるべきことはやっているんだけど、どうもそれが結果に結びつかない。安倍さんが軽減税率とか言い出すと、支持率が上がるわけです。全然理解できないですよ、消費税を一部8%を維持するわけですけど、そもそも8%に税金あげたのは今の首相なわけでっていう。こうなってくると、段々と勘ぐってきちゃいますよね。最近のTVなんかでの、評論家のSEALDsについてのコメントも「まぁ、昨夏は良いことをしたとは思いますけど、これから先が問われますよね」とか、「おまえ誰だよ!?」みたいな(笑)。「そりゃそうだけど、おまえも国会前来てただろ」っていう。実際、去年の夏はテンション高く安倍さんを批判していたのに、今は「野党がだらしないからだ」って話しかしなくなっちゃった人がけっこういて。それに関しては、やっぱり、「つまんねーこと言ってんじゃねーよ」と思いますよね。だって、野党がだらしないのは去年の夏だって一緒じゃないですか。まるで選挙が近付いてきて、みんな、負けた時の言い訳を探しているみたいですよ。「ほら、言ったでしょ」って言いたいがために。そんな感じの雰囲気が去年の10月ぐらいからある。だから、サポートしてくれる人が少なくなってきているのにも関わらず、SEALDsに求められるクオリティが高くなってきていて、メンバーは辛いと思いますよ。あと、SEALDsに関して、「自分の言葉でスピーチするのがすごい」とかよく言われるけど、最近、感じるのは、そのハードルがどんどん上がっていることで。

──それは、なにかというとアンチに揚げ足を取られるからということですか?

奥田 それもあります。で、揚げ足を取られることを恐れて精査すると均一的なものになってしまう。そしたらつまんなくなるんですよね。ただ、なんでも批判しようと思ったらできてしまいますからね。Twitterもそうですよね。以前だったら、フォロワーが1千人とかしかいなかったから、気軽につぶやけた。それが、今はなにを言ってもアンチから批判とも言えない批判がくるし、それに対してこっちのフォロワーもめちゃくちゃ反論するし。でも、「これそもそも、大した話じゃなくね?」って感じることも多くて。以前とは違うんだから覚悟を決めなきゃなって思うのと同時に、こんなことで悩んでいるのも変だなって。

──ただ、Twitterもそれこそ躁的な熱を帯びやすい場所なので、世間の空気と乖離しがちですよね。

奥田 そうそう。ネットではそんな感じだけど、たとえば大学で会う子たちからは、普通に「国会のスピーチ、めっちゃ良かったよ」って言われたり。しかも、最近、年末年始の忘年会やら新年会やらで、それまで、1回か2回ぐらいしか喋ったことがないような子らが声をかけてくれて。「今のメディアについてどう思う?」とか。いきなりだなっていう(笑)。で、「いや、良くないと思うよ」って話になったり。あと、大学の喫煙所で、予備自衛官のやつとよく一緒になるんですよ。そいつが、ある日、煙草吸いながら「SEALDsが言ってることもわかるんだけど、自衛官の立場からするとさ……」って言い出して。それに対して、オレが「憲法を変えたいなら国民投票をするのが筋ってもんでしょ」って反論して。そうしたら、「まぁ、それはそうだよね。ただ、やっぱり、奥田はもっと体を鍛えて、刺される時はうまく対処するぐらいにしないと。今度、自衛隊の護衛術教えようか?」「あ、ありがとう」みたいな謎の連帯感が(笑)。政治信条云々は別として、国会に立ってリスクを負って喋っているのを観て、「筋通ってるよね」って言ってくれるひともけっこういますよ。

──やたらと総括を求めるとか左派の悪い癖だと思うし、敗北主義みたいなものも気にする必要はないと思いますけど……そんなこと言ってたら何もできなくなっちゃうから。一方で、自分たちの行動をいかに意味付けていくかということも重要で。たとえば、先日、香港のいわゆる雨傘運動の中核を担った学生団体〈学民思潮〉の周庭さんとSEALDsの対談をやりましたが、彼女たちが先導したオキュパイについても賛否両論があるし、それは、周庭さんもよくわかっていると思う。ただ、彼女は「オキュパイをどう振り返るか」という質問に対して、恐らくあえて、ポジティブなことしか言いませんでしたよね。いわく、「あの場所で、私たちは初めて民主主義を生きているという実感を持った」と。もちろん、SEALDsは、振り返るどころか、夏の選挙に向けてさらに活動を盛り上げていかなければいけないわけですけど、昨年の夏がなんだったのかということは、今が凪の状態だからこそ、考える機会が多くなったんじゃないですか? あるいは、奥田くんだったら昨年の夏をどう総括しますか?

奥田 今だったら、国会前抗議を終えた直後よりも落ち着いて評価できると思いますね。まぁ、単純に言うと「すごく時間がかかることだよね」って。そんな簡単には変わらないし、変わったこともある。実は僕的には、国会前をオキュパイしようとか思っていたりもしたんですよね。8月30日に10万人集まった人がそのまま路上で居座ったらどうなっただろうかな、と。ただ、それをしなかったのは、周庭さんにはちゃんと言えなかったけど、香港のオキュパイの終わり方が市民に受け入れられにくかったのを見ていたから。いつ解散するのか見計るのってめちゃくちゃ重要ですよ。その点、台湾のひまわり運動は上手かったけど、香港はなかなか難しい状況になってしまった。それも踏まえた上で日本ならではのリスクを考えて、僕たちは「オキュパイをしない」っていうことになった。台湾みたいにオキュパイをしたからといって、政治は動かないって判断したんです。僕は2、3日くらいやっても良かったんじゃないかと今でも思ってるし、実際、テントも持っていったんですけどね。でも、みんな普通に帰っちゃって。「また、明日、集まればいいじゃん」って。

──運動としてカタストロフィみたいなものを求めるのではなく、しぶとく持続させていくことを選んだ。

奥田 そう。実際9月14日にも人が集まりすぎて車道にあふれて、あの道路全部埋まってるんですよね。有言実行(笑)。逆に言うと、また今年も、去年の夏の国会前ぐらいの「絵」を作らなきゃいけないんですけどね。でも、2012年(首相官邸前で行われた政府の原発政策に対する抗議運動に、最大20万人が集まった)にあって、次が15年だから。たった数年のうちにこんなことが2回も起こってる。その次が2000何年かわからないけど、またあると思うんですよね。なにか大きな問題が起こった時に。

──SEALDsは名前に〝学生緊急行動〟と入っていることが象徴するように、限定されたタームの運動であるわけですが、当然、日本の状況を変えるにはもっと長いタームが必要だとも考えていると。

奥田 だから、SEALDsをどう解散するかっていうことについてはすごく考えますよ。香港の学民思潮が雨傘運動のあとに選んだのは、政治団体になって、政治家を輩出し、メンバーを雇用し、直接的に香港の政治を変えるっていう方法で。あるいは、周庭さんはタレントとしてメッセージを発信していく。

──彼女の、有名人であることを楽しんでいる様子は奥田くんと対照的。

奥田 やばいですよね。オレは恥ずかしいから絶対できない(笑)。まず自分で著名人の枠でFacebookページ作るのが恥ずかしいですもん。でも、人から見られることが楽しい人って羨ましいなって思います。

──周庭さんはアイドルになりたい人だから、人から見られることがストレスではなくて、エネルギーになるタイプですよね。

奥田 オレはなるべく見ないで欲しい。Twitterも今、名前変えてますからね。インスタも、鍵垢だし。まぁ、自分の性格はどうあれ、学民思潮と同じようにSEALDsも今後が問われていると思うんですよ。たとえば、最近、公式のアドレスにめちゃくちゃメールが来る。内容は「こういうものを作ってください」とか「どこそこで市議会選挙があります。応援してください」とか「最近、Twitterのアカウントが動いてません。大事な時期なのに」とか。「うるせー、こっちはテスト期間で勉強してんだ!」って思うんですけど(笑)。ただ、すでに一般企業とか政治政党と同じように、ほぼフルタイムで動くことが期待されてるんですよね。それに対して、「やりたいことやればいいんじゃね?」と思っている反面、周庭さんなんかと喋ると、やっぱり、覚悟がいるよなって。自分たちの実力が足りない部分と、一方で期待の大きさも感じます。

──太田出版のホームページに掲載されて賛否両論の反響を呼んだ、奥田くんと小林よしのりさんの対談がありますが、少なくともあの時点では、小林さんはSEALDsを応援すると言っていましたよね。直後、掌を返すものの、あそこで彼が評価していたのは、SEALDsが集合離散型の運動である……小林さんが『脱正義論』(96年)で理想として描いたような、「運動にはある時点でけりをつけて日常に帰る」「運動を自己目的化しない」ということを体現している点でした。

奥田 ひとつ難しい問題は……そりゃあ、小林さんが言うように、それぞれ、会社員になったり、官僚になったり、教授になったりして、内側から社会を変えていくっていうことができたら理想ですよ。ただ、そもそも「今の日本がそういう社会じゃないんじゃないの?」とも思う。ちゃんといい子にして、リクルートスーツ着て、面接通ったからといって、この先、安定した生活が送れるんだろうか。あるいは、安定した収入があったとしても、忙しすぎてなにも考えられなくなっちゃったら辛いよねって。今の日本は、仕事っていうものに希望を見出せるような社会じゃないように思えるんですよ。だから、帰るべき日常でも戦わないといけない時代なんだなと。大変ですけどね。

──奥田くんは大学院に進もうとしているわけですけど、SEALDsの他のメンバーは将来についてどう考えているのでしょうか?

奥田 就活で困っているヤツもいれば、全然余裕で大企業に受かっちゃったヤツもいて、いろいろです。でも、SEALDsってほんといろいろなヤツらの集まりなんですよ。確かに、前線に出てる子の割合としては、大学院生とか、あるいはオレみたいに大学院に進みたい子が多いんですけど、写真やってる子は写真展を開いたりしてますし、週刊誌に就職した子もいますし、地元で就職した子もいる。そういうふうにちょっと専門的な仕事をやってみて、「おまえら甘いよ、社会人になったらな……」みたいに先輩風を吹かせはじめるヤツもいたり(笑)。運動に関しては、やっぱり、「選挙が終わったら1回は離れて考えたい」って言ってるヤツが半分くらいいます。それは、やっぱり、自分のスキルを磨くためで。「また『今やるべき時だ』ってなったら、お互いのスキルを持ち寄ろうぜ」って。それまでの間は、しばし解散。オレ、牛田くんから「SEALDsやってちやほやされてるからって、いい気になってるんじゃねえぞ、ぶっとばすぞ」ってよく言われるんですね(笑)。「おまえもアルバム出して、いい気になってんじゃねーぞ、ぶっとばすぞ」(最近、牛田はリーダーを務めるラップ・グループ“The Bullshit”でファースト・アルバム『FIRST SHIT』をリリースした)って言い返すんですけど。でも、そんなふうにディスり合いながら、どこかでリスペクトしている。スキルがちょっとずつ上がっているから。それは、牛田くん以外を見ていても思うし。すごい頑張ったヤツはやっぱり成長しているし、そうでもなくて、ぶらぶらしているヤツもいるし。まぁ、社会では当たり前のことがSEALDsの中でも起こっているという感じですね。数百人いますからね。

──昨年末に周庭さんと会った際、「昨日はSEALDsの忘年会だった」と言っていましたけど、その時はどんな空気だったんですか?

奥田 クリスマスってことで、プレゼント交換とかしてました(笑)。あとは、自然と「今年の夏、おつかれさま」「長かったね」って話に。それから、「来年、どうなるんだろう?」って。そこは、「余裕で次の選挙勝つぜ」みたいなイケイケの人と、それこそ「スキルがないとだめだから、ちゃんと仕事をしようね」みたいな行儀のいい人とに分かれましたけど。でも、みんな、「やったー!」みたいな感じはなくて、「もっと新しいことをしていこう」みたいな雰囲気でしたね。

──「達成感を味わっている暇はない、前に進もう」というポジティブな雰囲気。

奥田 それこそ、「Daijoubu」じゃないですけど、「ネガティブになっててもしょうがないから、ポジティブに」っていう感じです。やっぱり、先を思うと不安にはなりますから。

──今の話を聞いていると、SEALDsは学生ベンチャーでもあるのだなと思います。そう言うと、SEALDsを支持している人は反発するでしょうが。

奥田 いや、実際、僕はベンチャー的な感覚があったんだと思います。個人的には大学1年の時に、震災支援とかCSR(社会貢献)をやっている企業を調べて、資金調達とかビジネスモデルについてプレゼンをしたこともありましたし。一方で、そういったものを馬鹿にしていたところもあって。ただ、結果的にSEALDsではそのスキルが活きた。日本って、起業家は社会運動に対してネガティブなイメージを持っているし、逆に運動家は起業に対してネガティブなイメージを持っているじゃないですか。でも、反原発運動だって、ドイツとか、新しい電気の作り方、売り方を模索してたりするんですよね。みんながそうならなくてもいいけど、もっと、ビジネスライクな人たちが出てきてもいいし、社会的なことをする起業家がもっといてもいいんじゃないですかね。


〈プロフィール〉

奥田愛基

平成4年、福岡県生。現在、大学4年生。SEALDsの中心メンバーのひとり。
SEALDs webサイト