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聞き手:編集部
*この対談はネタバレを大いに含むので、ご注意ください。
*「ぽこぽこ」公開当時の記事を再掲載しました。

TAGROさんの『イキガミ様』が、4年半の歳月を経て、堂々完結...!! コミックス刊行を記念した、ネタバレ必至の赤裸々対談を公開します!! 生き神とはいったいなんだったのか、ジェーニャは何しに海野辺に来たのか...。みなさんの疑問に、TAGROさんと初代担当編集がお答えします。

カタストロフについて

――最終話で「災厄を回避した」と死に神がいって去りますが、これはどうしてですか?

『イキガミ様』p.66

TAGRO 漣と会ったことで、ジェーニャがもたらす災厄を回避できた。具体的にいうと、ふたりで神社にお参りするところで、ジェーニャは漣を気に入ったんですね。単にそれだけです。

――死に神が去ったあと、イキガミ様が、次のカタストロフは「すぐ来る」という話をしています。それはどういう意味ですか?

TAGRO いま世の中には、いろんな不安がありますよね。地震もそうだし、テロとか戦争とか。ジェーニャとは無関係に、そういうことが起きるということです。
ぼくのなかで辻褄を合わせずに終わらせてしまっているところがあって。ジェーニャが初めて来たとき、何をしゃべっているのか生き神はわからないんですね。それというのも、自分の管轄外というか、知らない世界から来ているからなんです。でも、死に神は予見して来ている。死に神がわかっていても生き神がわかっていないのはどうしようと思っていたんですが……。

小原 まったく気がついていませんでした(笑)。

TAGRO 最終話で「我らの理の及ばぬ」といっていますからね。ジェーニャは、翻訳こんにゃく的なもので、町のひとに話が通じているに過ぎない。

小原 純恵の台詞で、「細かいこと気にしたら負けだと思うな」とありますが、まさにそういう気持ちでした。漫画だから、と済ませていました。

TAGRO ジェーニャを出すときに、海の向こうから侵略者がやってきてみんな死んでしまうというラストは考えていました。小原さんには止められていましたけど。

小原 ジェーニャが出てきたところで軌道修正しています。というのも、英恵が来てからシリアス系の話が続いていたので、最初のおもしろ系の話を増やそうという話をしていたんです。ジェーニャがコメディぽい登場の仕方をしているのは、そういうことです。

震災以降の漫画

――社内でも、ジェーニャが謎だという声が大きかったんです。どういうことかというと、ジェーニャと震災を重ねて読むひとが多かった。つまり、震災という現実のカタストロフが、漫画ではそれをもたらす人間としてジェーニャが具現化されている、というふうに。なぜジェーニャが侵略をせずに去ったのか、震災との対比で考えると、わからないわけですね。

TAGRO なるほど。震災というのは、テーマではありません。震災の気分の影響は受けていますけど。ただ、そういう読まれ方をされるのは大歓迎です。
いまネタバレ的な話をしていますけど、ぼくがいったように読んでほしいと思っているわけではないですし。誤読をしてもらえたんであれば、むしろ不思議な読後感を残すことに成功しているんじゃないかなと思ったりもします。

小原 もともと話の流れをきっちり決めていたわけではないんですね。打ち合わせでも、キャラの動きとか台詞とかを中心に相談していました。
ただ、ぼくはTAGROさんの筆には震災の影がさしているとは思っています。震災だけじゃなくて、救いようのない殺伐とした世の中というか、そういう状況のなかで、神様にすがりつきたいひとは多いと思うんだけど、きっと神様は救ってくれない。神様に頼れないなかで生きていくにはどうしていけばいいんだろう、ということが描かれているという意味では、「震災以降の漫画」だと思っています。

TAGRO 震災がなかったら、ほんとうに怖いことが起きてひとが死ぬというファンタジーというか、ギャグにしかできなかったと思います。震災があったせいで、ほんとうにひとが死ぬんだなあ、危うい世界でほそぼそと漫画を描いてるんだなあという不安をすごく感じました。
なんだろう、ちょっとうまくいえないんですけど。震災が関係しているのは、ぼくのリアルな生活とかであって、この漫画のなかには関係していないというか。

小原 最後まで読んだ感想で思い出しました。TAGROさんに最終2話のプロットを見せてもらったときに「すごいです。まるで前から考えていたみたいですね」といったんでした(笑)。回収されていなかった伏線がうまく回収されていて、最初から緻密に仕掛けていたように見える。

TAGRO 『変ゼミ』の担当さんに聞いたんだけど、ある漫画原作者の方が「背景にものを足すだけでもいいから、何かひとつおまけを入れろ」といっていたそうです。そうすると、あとで読み返して、「あ、これ使える」ってなる。
それでいうと、英恵の母親が病気だという台詞もあとでいかしてるし、匡士だけじゃなくて蒼という存在を入れたことも最終回でちゃんといかせたし。いまはわからないけど、入れておくという、そのへんは意識していました。
今回長いスパンで考えていたかのような決着がつけられたけど、ぼくは昔からそうでした。24ページくらいの読み切りをぶっつけ本番で描いて、オチがちゃんとつけられたんですよ。それを5年かけて1冊の本でやったということですね(笑)。

作品情報

イキガミ様
著者:TAGRO
発行:太田出版
価格:680円+税
搬入日:2016.5.23

「わたしの町には生き神様がいます」
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〈プロフィール〉

TAGRO

「ヤングキングアワーズ」誌上にて『MISSION OUTER SPACE』でデビュー。多彩な画風・作風で読者より強い支持を集める。2010年に『変ゼミ』がアニメ化。代表作に『変ゼミ』 『宇宙賃貸サルガッ荘』 『マフィアとルアー』 『Don't trust over 30』 『パンティ&ストッキングwith Gaterbelt』等。