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金革(キム・ヒョク)=著
金善和(キム・ソンファ)=訳

この論文は、韓国版『自由を盗んだ少年』に第二部として収録されている、西江(ソガン)大学公共政策学科の修士論文として書いたものを、日本の一般読者向けに編集したものです。日本版書籍では未収録となったこの論文を、当ページでWeb公開いたします。

第5章 コッチェビ研究を終えて

『自由を盗んだ少年 北朝鮮 悪童日記』
著=金革(キム・ヒョク)/訳=金善和(キム・ソンファ)/2017年9月9日刊行

 北朝鮮当局の強力な統制にもかかわらず、コッチェビの数は増え続けている。コッチェビは当局の統制力から脱しており、統制できる効率的な政策や方法は、実質的に不在な状況である。長期間のコッチェビ生活を介して自分自身の生き方と自由な思考の意識を持っている彼らを統制できる方法とは、事実上、体制が変わるか、軍部などを動員して根本的に彼らを除去する方法しかない。これらの方法を動員しない以上、コッチェビは継続して増加するしかない。
 コッチェビは、北朝鮮社会で最も開放的な意識を持って行動する集団だというところに、その存在意義がある。これらの特性を持つコッチェビは、どの国よりも強力な統制社会であり、閉鎖社会である北朝鮮当局の未来を脅かす潜在的な抵抗力を持った存在といえる。
 北朝鮮はこれまで、住民に自由主義的意識が拡がることを防ぎ、規制することにより、体制を維持してきた。北朝鮮の住民は、これらの統制規律に慣れているので、経済危機で飢えている状況でも、むやみに不法とされた行為をせず大量餓死に至ったのである。一方、その過程で生き残って自由主義的意識を持つようになったコッチェビたちは、北朝鮮当局の思想と理念統制に復帰できない程、新しい生活に適応してしまった。
 コッチェビは現在、北朝鮮の非公式領域で最も組織化された集団であり、抵抗的な集団である。北朝鮮社会で当局の統制を受けない組織はどこにも存在しない。コッチェビで構成された組織だけが唯一だ。もちろん、これらのコッチェビ組織が一糸も乱れぬ指揮体系を持っているわけではない。全国的な連携網を備えたものではなく、特定の理念的目標があるものでもない。しかし、すべての組織は、組織のメンバーの共同の利益のために動くものだ。なにか特定の目的意識が、彼らに共有されれば、コッチェビの存在は北朝鮮のいかなる勢力より強力な抵抗勢力に成長する可能性がある。コッチェビの組織化は今後、北朝鮮社会の変化を予想するうえで注目すべき重要な研究対象になるだろう。
 1990年代初めにロシアのマフィアが警護事業に参入し、社会の混乱を落ち着かせる役割を果たしたことがある。アンデシ・オスルンドは『ロシアの資本主義革命』[2010年、ソウル]でソビエト連邦崩壊後の混乱ロシアの社会環境を落ち着かせたのは、腐敗した警察ではなく、むしろマフィアの犯罪集団だったとし、逆説的に、ロシアの実業家たちは彼らに感謝しなければならないとした。
 これを北朝鮮のコッチェビ現象に当てはめてみると、すでに組織化の段階を越えた状況であり、彼らコッチェビたちが北朝鮮社会を変化させ、混乱した状況を落ち着かせる役割もできるのではと考えてしまう。1990年代以後、コッチェビたちが組織化し始め、商人たちを保護するという名目でインセンティブを要求しだした現象もこのような側面と関連して考えることができる。だから、コッチェビたちが北朝鮮当局の崩壊に重要な役割を果たすだけでなく、社会的混乱をある程度抑えることができる集団に成長する可能性も排除できないだろう。
 北朝鮮のコッチェビに関する今回の研究では、事例調査に限界があること、既存の研究が不在であることなどを勘案しても、学術的アプローチとしては不足している面があることは事実である。先に述べた、理論的なアプローチだけでなく、事例の面でも限界があるので、少数の経験的な資料とインタビューなどに依存した傾向が大きい。しかし、これらの制約にもかかわらず、一般的に知られているコッチェビの単純な情報以外の部分を調べてみたという点、これまで興味の対象として浮上していなかった「北朝鮮のコッチェビ研究」を初めて試みたという点に、この研究の意義はあると思う。
 本研究では、今後のコッチェビの変化の可能性について注意深く展望してみる程度だったが、これからはコッチェビについての研究はより具体的で体系的に進行していくだろう。彼らコッチェビの存在が北朝鮮においてどのような勢力に成長していくのかという本格的な問いがこの分野に残された研究課題である。

自由を盗んだ少年 北朝鮮 悪童日記
著者:金革(キム・ヒョク)
翻訳:金善和(キム・ソンファ)
価格:1500円+税
搬入日:2017.9.9
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参考文献(web公開版)

■学術論文
・キム・ヨンス 2003年「脱北者問題の発生原因と現住所」学術研究報告書、ソウル、韓国放送協会
・キム・チャンベ 2006年「中国延辺在留北韓コッチェビに関する研究」ソウル、中央大学修士論文
・キム・チャンスン 2006年「北韓の「全国母親大会」に関する研究」ソウル、北韓大学院大学博士論文
・北韓人権市民連合 1997年『生命と人権』1997年秋号第6号
・イ・クムスン他 2009年『北韓人権白書2009』統一研究院
・イ・ムチョル 2003年「脱北者が語る北韓での生活」『脱北者問題の理解』学術研究報告書、ソウル、韓国放送学会
・イ・ソンロ 2006年「北朝鮮の社会不平等構造の性格と深化過程」ソウル、中央大学博士論文
・チェ・ワンギュ編 ク・カブ他著 2006年『北朝鮮都市の危機と変化』極東問題研究所

■単行本
・『金日成著作集2』1979年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集4』1979年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集5』1980年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集13』1981年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集14』1981年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集24』1983年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集26』1984年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集27』1984年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金日成著作集29』1985年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金正日著作集1』1992年、平壌、朝鮮労働党出版社
・『金正日著作集5』1995年、平壌、朝鮮労働党出版社
・リ・シンヒョン 2002年『江界(カンゲ)精神』平壌、文化芸術出版社
・ソ・ドンマン 2005年『北朝鮮社会主義体制の成立史』ソウル、ソンイン出版社
・イ・チョルウォン 1995年『ピョンコ』ソウル、クンムン書館
・チョン・ギジョン 2001年『閲兵広場』平壌、文化芸術出版社
・アンデシ・オスルンド 2010年『ロシアの資本主義革命』ソウル、戦略と文化(Anders Aslund 2007年『Russia's Capitalist Revolution』アメリカ)

■その他
・KBS1 2004年6月23日放送水曜企画「私の夫はチョ・ジョンホです」
・KBS1 1998年12月20日放送日曜スペシャル「1998年今、北韓で何が起こっているのか」
毎日経済(メイルキョンジェ)新聞「体制不満蔓延、隠語急増」(1992年6月20日9面)
京郷(キョンヒャン)新聞(1995年10月23日6面)「コッチェビ「ピョンコ」の実話小説
ハンギョレ新聞、1997年5月28日「死ねと言う世の中…百姓は犬」
ハンギョレ新聞、1998年12月21日「飢える北朝鮮、これほど残酷なことはない」
東亜日報1999年4月3日「北、浮浪者20万人・・・社会動揺拡散」
東亜日報1946年4月2日社説「少年犯罪問題純愛の訓育と施設要望」
・中央日報2011年5月8日「北の姉妹コッチェビ、列車の中でこんな一芸自慢・・・」
ソウル新聞、2011年6月25日6面
・ソウル経済、2011年5月1日6面 
良い友、「今日の北韓ニュース」126号
・良い友「今日の北韓ニュース」274号、2009年4月14日
良い友「今日の北韓ニュース」131号、2008年5月27日
・良い友、今日の北韓ニュース379号、2010年12月1日
・良い友「今日の北韓ニュース」407号、2011年6月15日
・良い友「今日の北韓ニュース」273号、2009年4月7日
・良い友「今日の北韓ニュース」400号、2011年4月27日
・良い友、「今日の北韓ニュース」296号、2009年9月15日


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