「働きアリの2割はほとんど働かない」のメカニズムを発見者解説

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12月15日発売の雑誌『ケトル』は、特集のテーマとして「学者」をピックアップ。「1万匹のダンゴムシ」「火星のレントゲン写真」「ヘビの“利き腕”」「不老不死」「好かれる匂い」など、興味深い研究に取り組んでいる学者と、その研究成果を紹介している。今回紹介するのは、「働かないアリ」の研究に取り組んでいる北海道大学の長谷川英祐准教授。長谷川さんは、シワクシケアリの観察により、働きアリの中に“働かないアリ”がいることを発見しました。

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働きアリの2割は、実はほとんど働かない──。北海道大学農学部の長谷川英祐さんは、働きアリを長期にわたって観察した末、2004年にそんな驚きの結論を発表した。「しかも、2割の働かないアリを隔離すると、今度は働いていたはずのアリから、また2割が働かなくなる」ことも確認した長谷川さん。彼は、その理由について“きれい好き同士のルームシェア”を例に、こう説明する。

「5人のきれい好きが同居したら、部屋を真っ先に掃除するのは誰か? それは5人のなかで一番きれい好きな人ですよね。その人が掃除し続ける限りは、残った人は何もしなくていい。結果、本当はみんなきれい好きなのに、その4人は怠け者のように見える。アリも事情は同じで、敏感なアリが率先して働く結果、比較的反応が鈍いアリが『働かない』というワケです」

長谷川さんによると、「すべてのアリが必死に働くよりも、働かないアリがいる場合のほうが、平均して長く集団を存続できる」というシミュレーション結果が出ているのだとか。もし8割の働きアリが動けなくなると、今度は残り2割の“働けなかった”アリが、いきいきと働き始め、そうやって誰かがずっと働くので、組織の労働力がゼロにならないという。

この研究が初めて新聞記事になった時には、読者から『この人たち暇だよね』という投稿も寄せられたそうだが、実際の研究内容はかなりのハードさで、学生のひとりは過労で点滴を打ちながら研究を続けたのだという。長谷川さんは、それほど研究に打ち込む理由として、

「あえて言えば、そもそもどんな知識が役に立つのかは、問題が起こってみないとわからない。だから学者は多様な研究をしておくことで、“備える”必要がある。それこそ働かないアリのようにね」

と語っているが、「もっとも、研究自体が面白いというのが一番の条件ですが(笑)」とも。アリ同様、人間にもちょっと余裕があったほうがいいようだ。

◆ケトル VOL.010(12月15日発売/太田出版)

【関連リンク】
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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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