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人はなぜ悲しい音楽を求めてしまうのか? そのメカニズムを分析

悲しい出来事に出会えば、必ず不快な感情に陥るはずなのに、なぜ人間は悲しい音楽を求めてしまうのか? そんな現象を研究しているのが、理化学研究所の客員研究員・川上愛さん。もともと「感動体験」に関心を持っていた川上さんが、この研究を始めたのは、自身の身近な体験がきっかけだった。

「数年前に母が大腸がんの手術で入院したとき、母は私のピアノが好きなので、入院中の気晴らしになればと私が演奏したクラシック曲を数十曲録音したテープを渡したんです。『手術前で気分が落ち込んでいるから明るい曲のほうが良いのかな?』とは思っていたのですが、結果は反対。退院した母から『一番気に入っていたのはバッハの短調の曲だった』と言われたんです」

短調の曲は全体的に暗く、悲しい曲調だ。辛い心境にいる母がなぜあえてその曲を選んだのか不思議に思った川上さんは、短調のクラシック曲を18~46歳の男女44人に聴いてもらい、感想のヒアリング調査を実施。すると、多くの人が、短調の曲を「強い悲しみの曲である」と認識したにも関わらず、「この曲を聴くとロマンチックな気分になる」と回答した。なぜ、人は悲しい音楽を聞きたがるのか?

「悲しい曲を聴いた被検者たちが抱く感情は、日常的な生活の中で感じるものとは少し違うことを、この現象が示していると考えられます。そこで私たちは被験者たちが抱いた感情に『代理感情』という名前を付けました。『代理感情』とは、芸術が表現している感情を、受け手が代理的に体験する感情のこと。感情研究では、悲しみは不快な感情であると分類されています。

実際に自分が遭遇した悲しい出来事から生ずる感情は不快であるはず。でも『作品』を媒介するなど直接自分の身に悲しみが降りかからない場合ならば、人間はその感情を楽しむことができるのではないでしょうか」

「今後は絵画や映画、舞台など、ほかの芸術において人はどのような代理感情を感じるのかも興味あります」と語る川上さん。3歳からピアノを始め、第49回全日本学生音楽コンクール入選などの入賞入選歴も持つ彼女は、「ゆくゆくは、かつて私の母が体験したように、辛い状況にある人々を悲しい音楽で癒やす音楽療法として、発展させられるように研究を続けていければ嬉しいです」と、意欲を述べている。

◆ケトル VOL.14(2013年8月13日発売)

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