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柳田光司の「お笑いテレビ裏方稼業」

お笑いテレビ裏方稼業

お笑いテレビ裏方稼業 「明日の朝までに、美容整形手術するブサイクな女をひとり!」

映画監督・黒澤明。
言うまでもなく、日本が世界に誇る「巨匠」である。
その“世界のクロサワ”が遺した作品は全30作。
いずれも黒澤明が描いた“理想の映像”を数秒単位で具現化したものである。

だが、黒澤の作品への熱い思い入れは尋常ではない。
例えば、映画『影武者』のクライマックス。
最強を誇った武田の騎馬軍が織田・徳川連合軍の鉄砲隊に敗れ去り、
倒れる馬や落下する武将、馬の屍が野を埋めるシーン。
18歳にして二科展に入選した黒澤の「画コンテ」は、
色鮮やかな自筆の絵画によって、事細やかに映像化されていく。
但し、この巨匠がくだした“ムチャ振り”に不眠不休で応えてきたのは
黒澤明に招へいされたプロの裏方。通称『黒澤組』の面々である。

もし、「ケトルニュース」の読者がこの窮地に立たされたとすれば…
如何にふるまいこの任務を遂行し、監督を満足させ、顧客満足させられるか?
かつてフジテレビは“楽しくなければテレビじゃない!”というキャッチコピーで全盛を極めたが…俺たちのような裏方稼業はさらに一段上“ピンチを笑い飛ばさなければ仕事じゃない!”が座右の銘。生きる哲学であった。

さぁ、みなさんが黒澤組ならば…どうやってココから笑って生還しますか!?

このシーンを撮るために、北海道のロケ地には130頭の馬が用意され、
15人の獣医師が集められた。まずは原野一面に死体エキストラの兵士が倒れる。そして、わずかに空いた隙間に撮影用の馬をセッティング。だが、馬が眼を開けたまま倒れると、(馬が)砂利で目を傷めてしまうので…現場スタッフが、地面に布が敷かれる。ここで、ようやく御大・黒澤明が登場。高い足場の上から黒澤が、光線の具合をキャメラを覗き確認。トランシーバーで指示を出す。
ようやく黒澤のOKサインが出れば…馬術指導の号令で白衣を着た獣医師が、次々に130頭の馬に麻酔を打ちまくる。馬は次々と倒れていく。
当然、麻酔の効き方は個体差がある。しかも、麻酔が効く時間はわずか30分。

…現場はまさに戦場。
信玄が散った「野田城の戦い」と化す。

――――黒澤組のカメラ班は、あらかじめ割り振りされた位置から、
地面に倒れ身もだえする馬。力尽きる歩兵。膝をつき崩れ落ちる馬を手際よくカメラにおさめていく。それまでの裏方の苦労など一切無視しながら、冷酷に淡々と各々のイメージをフィルムの上に、焼きつけていく。
わずか数十秒のために、映画館にお金を払ったお客を楽しませるためだけに。

…今から俺(柳田)が語る戯れ言は、1990年代の初頭。
滋賀県の田舎町から、頼まれもせずに上京した“嘘のような実話”である。
信じるも、信じないも…もはやどうでもいい。
コンプライアンス(企業活動において、社会規範に反することなく,公正・公平に業務遂行すること)なんて存在しなかった頃の時効話である。

“放送作家見習い”という“存在しない肩書き”を背中に焼き付けられた俺に課せられた任務は『明日の朝までに、美容整形手術するブサイクな女をひとり!』
そして、『そのブスが思いをよせる男前をひとり!』集めて来ること。

『それからよぉ、できればよぉ、その女の出身地は北国の田舎娘。
サブカルに憧れている幸薄そうな奴が笑うよなぁ~!ガハハ!!』

当時テレビ業界で幅をきかせていた“ムチャ振り”発注。
俺の目の前に陣取っていた“斜視の男”こそ…当時のボス『伊藤輝夫』。
後に“テリー伊藤”と名乗るテレビ界の鬼才であった。 

(つづく)

■著者プロフィール/柳田光司
1968年生まれ。本業は『放送作家』
現在『あの頃の、昭和館』という映像・音声ブログを配信中。
その中の音声コンテンツ『現代漫才論(仮)』では企画~出演~編集もやっています。

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