「こんなアニメが作りたい」 ハリウッドを嫉妬させた『AKIRA』の功績

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国をあげて推進するクールジャパンの中核を担うのがアニメ。数々の傑作で世界を驚嘆させてきた日本アニメですが、その中でも金字塔として海外で圧倒的な知名度を誇るのが『AKIRA』です。同作が日本のアニメ界に残した功績を、当時の反響をもとに振り返ってみましょう。

〈ルーカスのIL&Mへ行ったとき、スタッフの1人がいきなり「アキラ」をぼくに見せて、「こういうのをアニメにしたいなあ」と言ったのを覚えている。「主人公達のマスクが日本人的ではないのかね」「いや、そんなことは問題じゃあない。要するにこのカミソリのようなタッチですよ。これを動かしたいなあ」。彼はおしそうにつぶやいていた〉

漫画の神様として知られ、日本のアニメに多大な貢献をした手塚治虫さんは、ジョージ・ルーカスのスタジオを訪れた際のエピソードを、1988年発行の『ユリイカ臨時増刊号 総特集・大友克洋』に寄せています。このとき、大友さんによる漫画版の『AKIRA』は、すでに海外でも翻訳出版され、話題となっていました。

ハリウッドの映画人も羨望した『AKIRA』のアニメ映画化は、原作者の大友克洋さん自身によって進められました。制作費10億円、カット数2200、セル画枚数は15万枚にも及ぶ大作です。それだけのスケールで制作された劇場アニメ版『AKIRA』は、1988年7月に公開されるや国内外に強い衝撃を与え、日本アニメ史を語るうえで欠かすことのできないエポックメイキングな作品となりました。

この『AKIRA』以前、日本のアニメの海外での評価はあまり高いものではありませんでした。当時のアメリカでは『鉄腕アトム』『マッハGoGo』『マジンガーZ』などの作品がテレビで紹介されていたものの、登場人物の名前がアメリカ式に変更されたり、一部のシーンが勝手にカットされるなど、作品へのリスペクトが感じられるものではありませんでした。

その原因は、当時の欧米におけるアニメーション作品の評価が、ディズニーやアート系の一部の作品を除き、あまり高くなかったことにあります。基本的には子供向けのカルチャーであり、大人が観るものではないと思われていたのです。そこに登場したのが『AKIRA』の漫画とアニメでした。

当時の海外における反響を、日本文化研究家のスーザン・ネイピアさんは、『Newsweek日本版』(2012年8月15日・22日合併号)でこう語っています。

〈『AKIRA』の野心的テーマは漫画自体のイメージも一変させた。大人向けの漫画になじんだ日本の読者も、若者が軍と科学の犠牲になる『AKIRA』の黙示録的世界観に心を奪われた。外国の読者にとっては、これほど複雑で不穏なテーマを扱う「コミック本」が存在するという事実は衝撃だった。

「アニメは子どものもの」と決め付けていた欧米人にとって、アニメ版はさらに強烈な新発見だった。パワーとイマジネーションあふれる日本発の異色作の噂は口コミで広がり、アニメのクリエイティブな可能性を世界に気付かせた〉

アニメ『AKIRA』は欧米で興行的に成功しただけでなく、ビデオカセットだけで10万本以上が売れました。海外でも「大人向けアニメ」というジャンルが成立すると知らしめたのです。日本製アニメを指す「ジャパニメーション」という単語が生まれたのも、ここからでした。

◆ケトル VOL.35(2017年2月14日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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