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【丸屋九兵衛トークライブレポ】ブラックカルチャーから実は超絶オタクだったヴィン・ディーゼルまで

 あの水道橋博士が「NEXT 荒俣宏」と激賞する男、丸屋九兵衛(まるやきゅうべえ)。通称「QB」。音楽ウェブサイト『bmr』編集長にして、ライター、作家、編集者、歴史コメンテーター、さらにはBL研究家と肩書きが多い人物だが、それすらも氷山の一角。丸屋の興味の方向性は多岐にわたり、また個々の知識が<セフィロトの樹>のごとく複雑に関連付けられた「QB宇宙」というべき深淵な空間を形成している。

 そんな博覧強記の怪人・丸屋が定期的に開催しているトークライブこそが【Q-B-CONTINUED】である。その内容は、毎回異なるテーマを設定し、丸屋ならではのトリビアをちりばめたお喋りを展開するというもの。7月29日に、渋谷のRed Bull Studios Tokyo Hallにて行われた今回は、【Q-B-CONTINUED vol.18】とブラック・ミュージックやヒップホップ・カルチャーについて語る新機軸のトークライブ【Soul Food Assas-sins】の二本立てとなった。

■第一部【Soul Food Assassins】2パックからマルコムXまで:ブラックカルチャーと命名哲学

 第一部となる【Soul Food Assassins】のテーマは「2パックからマルコムXまで:ブラックカルチャーと命名哲学」。伝説のラッパー、2パックの伝記映画『All Eyez on Me』日本上映決定記念として、アフリカン・アメリカンたちのネーミングセンスについて深く掘り下げた。

 冒頭、丸屋は「これから話すのは、ある種のステレオタイプであり、無害であるとは言い切れない」と前置きし、「とはいえアートや表現というものは、往々にしてステレオタイプに基づいて作られている。まずはステレオタイプを理解しなければ、正しい考えにたどり着く事が難しい」と断りを入れた。この記事も、そうした前提を理解した上で読み進めていただきたい。

◆映画『ムーンライト』日本公開時に起きたミス

【Soul Food Assassins】シリーズ立ち上げは、日本の映画業界における<マイノリティ・カルチャー・リテラシーの低さ>が動機となっている。それを象徴するのが、LGBTQのアフリカ系青年を扱ったアメリカ映画『ムーンライト』日本公開時に発生したミス。主人公<CHIRON>を「シャロン」と表記してしまったのだ。

 この<CHIRON>、実は非常に「アフリカ系らしい名前」で、本来は「シャイロン」と読まなければならない。丸屋はミスの原因を「全てを白人文化の中に回収しようとしたから」と語る。では「アフリカ系らしい名前」とは、一体どのようなものなのだろうか?そして、些細な読み間違いにも見えるこのミスに、なぜ丸屋はここまで憤っているのだろうか?

◆「アフリカ系らしい名前」とは

 名前とは、いうまでもなく人種や民族と非常に関係性が深い。丸屋が、このテーマについて興味を持つきっかけとなったという人物の名も<ニコラス・ユング・ハイム>さん。その名の由来をざっくり説明すると、「ニコラス」はキリスト教由来、「ユング」はドイツ語で「若い」、同じく「ハイム」はドイツ語で「家屋」を意味する。明らかにドイツ系の名前である事がわかるだろう。同様にアフリカ系アメリカ人の名前にも様々な特徴がある。丸屋の解説を要約していこう。

ポイント1~異国趣味

 実業家として大活躍している音楽プロデューサーでラッパーのドクター・ドレー(Dr. Dre)の本名は<アンドレ・ロメル・ヤング/Andre Romel Young>。「アンドレ」といえば池田理代子による名作コミック『ベルサイユのばら』でおなじみ、フランスにおいてポピュラーな名前である。またマルコムXらの活躍によりイスラム教が一般化して以降は、徐々に<ジャマル(Jamal)><ハキーム(Hakeem)>などイスラム系の姓名が一般化。その根底には「奴隷主に押し付けられた白人の名を捨て、本来の名前を取り戻そう」という思想があるのだとか。

ポイント2~綴りを発音通りにする。特定の文字を別の文字に置き換える。

 ラッパーJay-Zの本名は<ショーン・カーター/Shawn Corey Carte>だが、一般的に「ショーン」のスペルは「Sean」。またアフリカ系には「th」を「f」や「v」に置き換えるという文化が存在する。<アンソニー/Anthony>から<アンファニー/Anfany>という名前が生まれたのはその典型と言えるだろう。

ポイント3~希少名の持ち主が活躍した結果、定番に

「ザビエル」は、宣教師フランシスコ・ザビエルが有名になった事で広まった名前である事をご存知だろうか。今ではアフリカ系の間で一般的となっている<ラトーヤ/Latoya>という名前も同様で、由来はマイケル・ジャクソンの姉<ラトーヤ・ジャクソン/La Toya Yvonne Jackson>から。「彼女がいなければ、デスティニーズ・チャイルドの<ラトーヤ・ラケット/LeToya Luckett>は存在しなかったはず」と丸屋は語る。

ポイント4~政治性を帯びた名前

 ここでようやく映画『All Eyez on Me』の主人公でラッパーの2パックが登場する。彼の本名は<トゥパク・アマル・シャクール/Tupac Amaru Shakur>。「トゥパク・アマル」は、スペイン帝国に滅ぼされたインカ帝国の皇帝の名だが、植民地支配に抵抗して南米の脱植民地化闘争の先駆者となり戦った<トゥパク・アマル2世>という革命家も存在する。「ブラックパンサー党のメンバーで、ビル爆破未遂で逮捕された事もある2パックの母親が革命家から名前を取っているのは興味深い」と丸屋は話す。

 ご存知の通り、アフリカ系アメリカ人の祖先の多くは、奴隷としてアメリカに連れてこられたというルーツを抱えている。しかし母語や姓名といった土着の文化を奪われてしまったからこそ、他民族とは異なる自由度の高い、ある種クリエイティブなネーミングカルチャーが生み出されたとも言えるのではないだろうか。『ムーンライト』の主人公は、<シャロン>でなく<シャイロン>でなければならない。とりわけ同作のようなマイノリティと差別を扱った映画では、この手の表記ミスは許されてはならない。彼らの名前に隠された悲しくも重厚な背景に、いつも以上の敬意を払うべき作品であるからだ。


■第二部 丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.18】 ヴィン・ディーゼルに捧ぐナード・プライド再起動!

 続く第二部のトークライブ【Q-B-CONTINUED vol.18】では、丸屋の相棒である芸人のサンキュータツオが登場。トークのテーマは、先ごろ公開されたアメリカのスパイアクション映画『トリプルX:再起動』で主演、プロデューサーを務めたアクション俳優のヴィン・ディーゼルにスポットライトを当てるという内容だ。

◆ヴィン・ディーゼルとは何者なのか?

 サンキュータツオが『トリプルX:再起動』について「最高のジャンク映画。映像のキレが筋肉質」と激賞(?)すると、普段は冷静な丸屋も「アカデミー賞には絶対にノミネートされない最高の作品。一般的な映画の良し悪しで判断してはいけない」と興奮気味に同調した。

 ヴィン・ディーゼルの芸風といえば、いうまでもなく筋肉(とアクション)。「似たような内容の作品が多くて、今年公開された『トリプルX:再起動』と『ワイルド・スピード ICE BREAK』もほとんど同じ話。どの映画を見てもハードな犯罪者かハードな鬼軍曹をやっている。で、車に乗って猛スピードで走ってるか、スケボーやってるか、宇宙を飛んでるか」丸屋はそう語る。

 ヴィン・ディーゼル。本名マーク・シンクレア・ヴィンセント。白人の母親と黒人の父親を持つ彼は、ニューヨーク大学で演劇を教えていたという義父を通じて、演技の世界へと入っていく。その後、ラップグループのバックダンサーを経て、ヒップホップ・クラブ「トンネル」のバウンサー(用心棒)となるわけだが、この時についた通り名が「ディーゼル」。苗字が「ヴィンセント」である事から「ヴィン・ディーゼル」という芸名が生まれたという。

◆元用心棒、現筋肉俳優なのに実は超“濃い”オタク、ヴィン・ディーゼル

 元バウンサーの筋肉系アクション俳優という事もあり、強面のイメージが強いヴィン・ディーゼル。しかし意外な事に、趣味はテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ(通称『D&D』)』。あの巨体にもかかわらずダークエルフになりきってゲームを楽しむ彼は、なんと『D&D』の30周年記念本で序文まで担当している筋金入り。丸屋によれば、アメリカのオタクたちは親愛の情を込めて、彼を「D&ディーゼル」と呼んでいるのだとか。稀代の筋肉俳優ヴィン・ディーゼルは、超ド級のゲームオタク(しかも厨二病)でもあるというわけだ。

 そのオタク(厨二)魂は、プロデュース作品にも、しっかりと注入されている。『ピッチブラック』といえば、ヴィン・ディーゼルが残忍な囚人リディックを演じて高く評価された出世作。この作品、元々はアイザック・アシモフ『夜来たる』を下敷きにしたSF作品だったのだが、続編『リディック』からヴィン・ディーゼルが制作に参加した事で、荒唐無稽なファンタジー作品にトランスフォーム。絶対零度を下回る「マイナス300度」という科学法則を完全に無視した設定が登場するわ、リディックの強さがエスカレートしてティーカップで人を殺すわと、とんでもなくハチャメチャな内容となった。その結果、映画批評サイト<ロッテン・トマト>では、承認率わずか29%という驚異の数字を叩き出し、自身は最低の映画に送られる<ゴールデンラズベリー賞>で最悪主演男優賞を獲得するという快挙(?)を成し遂げる事に。しかしここで奇跡が起こる。映像ソフト発売と同時に、オタクを中心に再評価の声が高まり、まさかのサプライズヒットを記録したのだ。こうしてヴィン・ディーゼルは、まったく懲りる事なく自らの厨二スタイルを貫いて行く事となった。

◆ヴィン・ディーゼルが作品に忍ばせる(?)オタク(厨二)魂に注目せよ!

 ヴィン・ディーゼル作品人気の要因となっているのが、作中におけるオタクへの目配せ。さりげなく『スタートレック』に登場するクリンゴンの刀を登場させた『リディック』をはじめ、彼の作品にはオタク向けのネタが散りばめられている。例えば『トリプルX:再起動』では、自身が経営するゲーム制作会社「TIGON STUDIO」が手がけたオンラインゲーム『バルカBC』のロゴが入ったパンツを使用しているほか、自分がゲームで使用するハンドルネームを主人公が入れているタトゥーのデザインに取り入れたりと、まさにやりたい放題。

 キャスティングにおいても、公私混同はとどまるところを知らない。プロデュースを担当した2015年公開の劇場映画『ザ・ラスト・ウィッチ・ハンター』では、ファンタジー映画の金字塔『ロード・オブ・ザ・リング』で主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドを起用。またHBOのファンタジーTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンであるディーゼルは、同作の出演者をやたらに自作に出す事で知られている。

 丸屋曰く「『トリプルX:再起動』は、世界を滅ぼすかもしれないガジェットをめぐる戦いを描いた作品。つまり、そもそも『ロード・オブ・ザ・リング』と似ている」との事。

◆ただのオタクじゃありません!ヴィン・ディーゼルの功績とは?

 そんな厨二マインド全開のヴィン・ディーゼルだが、実は社会派な一面も併せ持っている。自らが白人にも黒人にも見えるルックスの持ち主だったために、役に恵まれなかったという体験も影響しているのだろう。非白人のマイノリティをフックアップすることに命をかけているのだ。事実『トリプルX:再起動』には、広東系、香港人、タイ人、インド人、そしてアフリカ系の伝説のヒーローの俳優が出演している。そう、ヴィン・ディーゼルはアメリカのダイバーシティ(多様性)を底上げしている男でもあるのだ。

 またドミニカの大統領に「映画産業の確立」を相談されたディーゼルは、自らの制作会社<One Race>をドミニカに送り込み、映画を撮影しまくっているのだとか。さらに現地出身の映画人を育てるために、ハリウッド映画で大儲けした資金を使って<One Race Global Film Foundation>なる基金を設立。演技や映画制作などの指導を行うとともに、実際に自分の作品に出演させているという。丸屋は「それで作っているのが、あのバカ映画。最高でしょ」と笑顔で語った。

 ハリウッドが軽視していたインド系や中華系に目を向け、マイノリティに寄り添ったキャスティングで大きな市場をつかんだヴィン・ディーゼル。丸屋は「オタクならではの公私混同を繰り返してるけど、それが全て上手くいってるんですよ。世界に目を向けているアメリカ人って中々いないんです」と締めくくった。

■イベント名
13:00~14:30
丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins】
2パックからマルコムXまで:ブラックカルチャーと命名哲学

15:00~17:00
丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.18】
ヴィン・ディーゼルに捧ぐナード・プライド再起動!

■会場
Red Bull Studios Tokyo Hall

■出演者
丸屋九兵衛
サンキュータツオ(【Q-B-CONTINUED vol.18】のみ)

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