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稀代の知識人・丸屋九兵衛が恒例のトークショーを開催 テーマは「差別用語」

9月23日(土)に渋谷のレッドブル・スタジオ東京ホールにて、音楽ウェブサイト『bmr』編集長であり、幅広い分野において評論活動を行なっている丸屋九兵衛のトークライブが開催された。

今回のイベントは、「第一部+第二部+交流会」という構成。前回と同様、合計6時間に及ぶ特大ボリュームとなった。その第一部は、日本におけるブラック・カルチャー・リテラシーを底上げすべく企画された新トークライブ・シリーズ『Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)』の第2回。ツイッター投票にて決定したテーマである「差別用語の基礎知識」についてトークを展開した。

ご存知の通り、ラップであれ、コメディであれ、ブラック・カルチャー周辺のコンテンツには人種関係の話題が多い。「とりわけ90年代以降のヒップホップの世界では、あえて直接的な表現を行う事で路上のリアルを表現しようという動きが広がっていったため、差別用語や放送禁止用語の意味やニュアンスをしっかりと理解していないと、作品が持つ意味合いが分からなくなってしまう」と丸屋は語る。

話題は「差別用語とは何か?」へと移っていく。日本においてはまだまだ良い意味で使われがちな<オリエンタル>という言葉だが、アメリカでは既に差別用語。「もしあなたがアメリカ人に<オリエンタル>と言われたら、それは侮辱されている事に他ならない。<エイジアン>だろ?と言い返さないとナメられます」と丸屋は断言。言葉のニュアンスを知らないがために、自分たちが蔑視されている事に気付かないという事態も起こりうるわけだ。

また、「差別用語か否か」という判断を下す上で重要となってくるのが、「誰が誰に対して言っているか」だ。ジャッキー・チェン主演の劇場映画『ラッシュアワー』には、アフリカ系の人々に<ワッツアップ! ニガ!>と挨拶したジャッキーが酷い目に遭いかけるシーンがある(実際は返り討ちにしてしまうのだが、まあジャッキーなので…)。これはアフリカ系の前でどう振る舞えば良いかわからないジャッキーに対して、アフリカ系俳優のクリス・タッカーが「俺の真似をしてれば大丈夫」とアドバイスした事がきっかけに発生した事態。要するに仲間内では親愛の情を込めると言葉である<ニガ>も、当事者や仲間以外が使うと、単なる差別用語に変化してしまう事を表現しているわけだ。

事ほど左様に、言葉のニュアンスというものは、時代の流れや使う人の立場によって大きく変化する。丸屋は「言われた側が差別だと感じたら、それは差別。更に敵対的な以心伝心があると世間が判断すれば、その言葉は差別用語となっていく」と語った。

第二部となる【Q-B-CONTINUED】のテーマは「エイリアン」。ここからは芸人のサンキュータツオが登場し、トークに参加した。

第一部のテーマとは大幅に違っているようにも思われるが、「外国人嫌悪」を意味する「Xenophobia (ゼノフォビア)」の「xeno (ゼノ)」はラテン語で「異質」を意味し、英語の「エイリアン」と非常に意味が近い。丸屋は冒頭で、まず古代中国人が辺境に住む人々の姿を描いた地理書『山海経』について触れると「99.9%妄想。我々人間はまだ見ぬ人々について妄想せずにいられない」と語った。

今ではSFフリークとして知られる丸屋だが、SFへの目覚めは小学館の『なぜなに学習図鑑』。架空の宇宙人を大胆な言い切りという形で掲載している、このオルタナティブな図鑑を「子供ながらに子供騙しだとわかっていた」という丸屋少年は、さらに本格的なSFにハマっていく。

ところがSF小説というものは、図鑑と異なり、宇宙人のイラストが出てくるとは限らない。しかし、ここで消えかけた丸屋の異星人愛(?)を復活させてくれたのが、親戚がプレゼントしてくれたという『Barlow’s Guide To Extraterrestrials (バーロウズの宇宙人ガイド)』だ。この本は、宇宙人好きのイラストレーターで、映画監督ギレルモ・デル・トロの映画でクリーチャー・デザインを担当しているウェイン・ダグラス・バーロウが、古今のSF小説小説に登場する宇宙人をビジュアル化した一冊。このパートではバーロウのイラストを交えつつ、丸屋お気に入りのSF小説と、そこに登場する個性豊かな宇宙人たちを紹介していった

ここから丸屋はハードSFに話題をシフト。フェイバリットとしてハル・クレメントの『窒素固定世界』『二十億の針』『重力の使命(挑戦)』、ロバート・L・フォワードの『竜の卵』『スタークエイク』などを紹介しつつ、科学的でありながら、とんでもなくブッ飛んだ世界設定の面白さについて語った。

さらに話題は、第一部の大きなテーマである「差別」へとリンクしていく。丸屋はSFが持つ寓話的要素にスポットを当て、劇場映画『第9地区』『エイリアン・ネイション』など、異民族嫌悪を異星人嫌悪に置き換えて描いた作品を紹介。更に「元々は海兵隊を舞台とする連続ドラマの製作陣が、人種差別を描いた途端に番組を打ち切られたため、“それならば架空の世界で差別を描こう”と考えて企画したのがかの『スタートレック』」と、名作SFの誕生秘話を語った

丸屋は「SFは自分の度量を図るもの。“異なる存在を受け入れ、理解して楽しめるか”と問いかけてくる。いつでも人類は、まだ見ぬ存在に憧れ、同時に怖れてきた。自分ひいては人間の本性を見つめ直す意味でも、過去の書物やエイリアンについて触れる事は有意義である」と締めた。

おそらくここ数十年で、もっとも外国人への差別が過熱している日本。とりわけインターネットの世界では移民や難民へのヘイトスピーチが過熱し、地獄絵図さながらの様相を呈している。そんな中にあって、「差別」という重いテーマを誠実な視点で、分かりやすく、また面白く語る事の出来る丸屋のような人間は、非常に貴重な存在と言えるだろう。

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丸屋九兵衛トークライブ
9月23日(土)

■会場
Red Bull Studios Tokyo Hall

■トーク内容
13:00~14:30
丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins】ブラック・ミュージック解読講座:差別用語の基礎知識

15:00~17:00
丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.19】 秋分の日のエイリアン! 怒涛の異星人狂想曲
with サンキュータツオ

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