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2パックは共産主義者だった? 丸屋九兵衛が2パックと『キングスマン』を語る

東京都渋谷区のレッドブル・スタジオ東京ホールにて、音楽ウェブサイト『bmr』編集長にして、様々なジャンルで批評活動を行う鬼才・丸屋九兵衛のトークライブが開催された。

隔月ペースで開催されているこのイベントは二部構成が基本。第一部【Soul Food Assassins】では、主にアフリカ系アメリカ人をとりまく文化について、そして第二部となる【Q-B-CONTINUED】ではオタク周辺カルチャーについてトークを展開してきた。今回は、1月14日(日)に行われた最新回の模様をかいつまんでお届けする。

【Soul Food Assassins】2パック外伝! シャクール家とブラック・パンサー

2018年第1回目となる【Soul Food Assassins】のテーマは、伝記映画『オ—ル・アイズ・オン・ミー』で再び注目を集める天才ラッパー・2パック。毎回トークテーマに合わせた衣装で登場する丸屋だが、この日は、2パックと関わりがあったとされるアメリカのストリート・ギャング「ブラッズ」を思わせる赤のワークシャツとパンツというコーディネート。

■実は左翼だった?2パック一家とブラックパンサーとの関わり

全身赤の極悪スタイルで登場した丸屋だが、今回は全身を黒の服で固めるアメリカの黒人解放組織「ブラックパンサー」についても語った。ご存知の通り、2パックこと本名トゥパク・アマル・シャクールは、ギャングスタであると同時に政治的メッセージを発信し続けたラッパーでもあった。その背景に存在するのが、ブラックパンサーのメンバーだった両親や親戚からの影響。なんとシャクール家には現在も政治犯として国外逃亡中の人物がおり、つい最近もトランプ米大統領の対キューバ演説で名指しされて話題となっている。

続いて丸屋は、ブラックパンサーを知る糸口として、ジャーナリスト吉田ルイ子のエッセイ集「ハーレムの熱い日々」を紹介。1960年代半ば、ニューヨークの低所得者向け集合住宅「プロジェクト」に暮らす中で才能を開花させたカメラマン吉田が記した同書には、ブラックパンサーが勃興していく過程が描かれているという。

丸屋によれば、一般的にはアフリカ系のための民族主義組織とみられがちなブラックパンサーだが、実は日系を含む様々な人種の人々が参加しており、マイノリティ全体の権利獲得を目指す組織だったのだとか。ベトナム戦争の最中である1960年代のニューヨークにおいて、マルコムXやモハメドアリと並んで、毛沢東やホーチミンをヒーロー視していたというから、かなり左寄りな集団でもあったようだ。そんなブラックパンサーの思想にかなり遅れてハマったのが、かの2パック。なんと高校時代には「ヤング・コミュニスト・リーグ・USA」なる相当ガチな共産主義団体に所属していたというから驚く。

■インカ皇帝、ブラックパンサー、天才ラッパー…受け継がれる革命の種

さらに丸屋は、2パックによって結成されたラップグループ「アウトロウズ」のメンバーのエイリアス(=芸名)が反米政治家の名にちなんでいることに触れ、「自分の子供にヨーロッパ世界を脅かした非白人の王にちなんだ名を付けたマルコムXに通じる。そしてマルコムと同じくシャクール家も黒人のみに目を向けていたわけではない」と語り、「2パックの本名『トゥパク・アマル』はインカ帝国最後の皇帝にちなんでいる。さらに、その名を受け継いだペルーの政治指導者トゥパク・アマル2世は、植民地支配を行うスペイン政府に反乱を企てたが失敗して処刑された。しかし彼が巻いた革命の種は、やがてシモン・ボリバル(※)へと受け継がれ、南米革命の時代を生み出した。『俺は世界を変えられないが、俺の曲を聴いた人間が世界を変えるだろう』と語った2パックに通じる」と第一部のトークを締めくくった。

※南米大陸のアンデス5ヵ国をスペインの植民地支配から独立に導き、統一コロンビア共和国を作ろうとした革命家。ラテンアメリカでは「解放者」 (El Libertador) とも呼ばれる。

【Q-B-CONTINUED vol.21】再訪、大英帝国の爪痕! レディース&キングスマン

後半の【Q-B-CONTINUED】では、英国スパイを描いたマシュー・ヴォーン監督の最新映画『キングスマン ゴールデン・サークル』の日本公開を記念して、「大英帝国」をテーマにトークを展開した。

■言葉や文化が異なる複数の国からなる英国

丸屋によれば、『キングスマン』シリーズは「ファッションも含めて現代ロンドンの粋な部分をしっかり描写出来ている」のだとか。しかし同作の主人公であるロンドンの元不良少年エグジーを演じるタロン・エガートンは、なんとウェールズ人。言うまでもないことだが「英国」つまり「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」は、現在も地域によって言葉や文化がまるで異なる複数の国から構成されている。その成立過程についてはウィキペディアでも読んでもらうとして、要するに現在も英国内では過去に争った国同士の対立が微妙に続いているのだ。ウェールズ人がイングランド人を演じることの意味をお分かりいただけただろうか。

「Q-B-CONTINUED」ではおなじみの海外ドラマ『ゲームオブスローンズ』に登場する「壁」は、かつてグレートブリテン島(※UKの一番大きな島)を支配していたローマ人が北方民族の流入を防ぐために築いた長城「ハドリアヌスの壁」に由来すると言われている。そのローマ人が去った後、グレートブリテン島を支配したのが、聖杯伝説で知られるアーサー王、そしてガラハット、ランスロット、マーリンを擁する「円卓の騎士」である。いうまでもなく『キングスマン』に登場する諜報員のコードネームは円卓の騎士の名からサンプリングされたものだ。ちなみに、そのボスであるアーサーを演じたマイケル・ケインはワーキング・クラスの出身。「いかにもなロンドンっ子をウェールズ人が、上流階級の親玉であるアーサーを労働者階級が演じているのが面白いですよね」と丸屋は語る。

■ロンドンで誕生した方言「MLE」って何だろう?

ロンドンっ子といえば、「コックニー」と呼ばれる下町方言を話すイメージがあるが、ここ最近は「MLE」(=Multicultural London English)と呼ばれる新たな方言に押され気味。

「Jafaican(=Fake Jamaican)」の別名を持つMLEを使っているのはジャマイカ系移民がメインかと思いきや、実はアフリカ系や南アジア系にも浸透しているという。それもそのはず、MLEはジャマイカだけでなく、他の国々、さらにはストリートの言葉からも強い影響を受けた「多文化方言」。今やロンドンの名物はカレーと点心、市長はパキスタン系、市内の病院にはインド系の医師が多数勤務している文字通りの「マルチカルチャラル(=多文化)」都市となっており、その方言も国籍、文化、人種の壁など軽々と超えているというわけだ。

最後に丸屋は、敬愛する英米文学者・越智道雄氏の言葉「征服者は必ず征服した相手の文化に征服し返される」を引き、「植民地支配が生み出した移民たちはロンドンに多様性という力をもたらしているように思う」と語り、さらに「対して日本はどうか。年齢別人口統計の現状を考えれば門戸を開くべきなのでは?」と移民や難民の受け入れ数が少ないとされる日本の現状に対して意見を述べ、約5時間に渡った特大ボリュームのトークショーを終えた。

なお来たる2月12日、丸屋は「ビーフ(=揉め事)」をテーマとした新たなトークライブ「House Of Beef」を開催するとのこと。スペシャルなゲストを招くべく日々奔走しているとのことなので期待して待とう。

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