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トマト缶の闇 なぜ中国産トマトが「メイド・イン・イタリー」に?

ジャン=バティスト・マレ著『トマト缶の黒い真実』 (田中裕子訳、太田出版刊)
ジャン=バティスト・マレ著『トマト缶の黒い真実』 (田中裕子訳、太田出版刊)

中国産食品の安全性が問題視されるようになって久しいが、もし中国産の食品が「メイド・イン・イタリー」と表記されているとしたら? トマト缶の生産と流通の裏側を初めて明らかにしたノンフィクション『トマト缶の黒い真実』(ジャン=バティスト・マレ・著 田中裕子・訳/太田出版)では、トマト缶に関する衝撃の実態をリポートしている。なぜ中国産食品が“合法的に”メイド・イン・イタリーになってしまうのか。同書によれば、こんなカラクリがあるという。

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「南イタリアに到着した中国産濃縮トマトの一部は、ナポリ近郊の工場で缶詰にされて、ヨーロッパの市場に供給されます」と、税関職員のグラナートが言う。

「でも大半は、ヨーロッパ内では流通されず、再加工されてまた輸出されていきます。行き先は世界中あちこちです。ヨーロッパに入ってきて再加工後に再び輸出される濃縮トマトには、“再輸出加工手続き”という関税法が適用されます」

欧州連合(EU)では、商品の輸入に関して複数の関税制度が存在する。もっとも標準的な関税はEU圏内で消費される商品に適用され、圏外から圏内に入る国境を通過する際に課せられる。ちなみに、トマト加工品の税率は14.4パーセントだ。その一方で、関税を支払うことなく商品をEU圏内に輸入できる方法がある。それが、「一時輸入」や「一時通過」とも呼ばれる「再輸出加工手続き」だ。EUによると、この特別制度は、輸入した商品を加工・修繕してから再輸出する事業者の経済活動を促進するために設けられているという。

簡単な例をあげよう。たとえば、EU圏内のある香水メーカーがアジアから原材料を輸入し、それを使って香水を作り、その香水をEU圏外へ輸出する。その場合、この原材料にかかる関税は「再輸出加工手続き」によって免除される。そう考えると、確かにこの制度は、その香水メーカーの競争力を高めるのに役立つだろう。だがその一方で、同じ原材料を生産するヨーロッパの会社には大いに不利になる。こうした会社のライバルであるアジアの会社は、関税というバリアを飛び越えて、いつでもヨーロッパ市場に乗りこんでこられるからだ。

こうした関税制度は「比較優位論」を実用化したものだ。イギリスの経済学者、デヴィッド・リカードが提唱した経済理論で、商品を自由に流通させる「自由貿易」の有益性を説明している。自由貿易のもとで、各国が生産性の高い商品の生産に特化すれば、互いに高品質の商品と高い利益を得ることができ、結果的にそれぞれの国の社会が豊かになるというのだ。

これはつまり、「誰もが自由貿易の恩恵を受けられる」という、グローバリゼーションの肯定的見解にもつながっている。ところが実際は、少なくとも加工トマト産業においては、誰もが同じように恩恵を受けているとは言えない。

この「再輸出加工手続き」制度を利用することで、ドラム缶入り三倍濃縮トマトも、関税を支払うことなくEU圏内に輸入することができる。だが、これらの商品が税関で「一時通過」と認められるには、いったんEU圏内に入ってから必ず加工されて再輸出されなければならない。大量の中国産濃縮トマトは、そうやって南イタリアのナポリ港とサレルノ港からEU圏内に入ってくるのだ。

ふたつのいずれかの港に到着した濃縮トマトは、そこから車で一時間もかからない加工工場に輸送され、水分を加えられ、再パッケージングされる。つまり、巨大なドラム缶から、イタリア国旗の緑・白・赤の「トリコローレ」に彩られた缶詰に詰め替えられる。こうして加工された缶詰は再び港へ運ばれて、EU圏外へ輸出されていくのだ。

イタリア税関の公式な貿易統計によると、2015年、9万トンの外国産三倍濃縮トマトが「再輸出加工手続き」によって輸入された。南イタリアで加工された後、主にアフリカと中近東に再輸出されている。同じ年、標準的な関税制度で輸入されて再輸出された濃縮トマトは、10万7000トンだった。これらはイタリアに輸入されてから、フランスやドイツなどほかのEU諸国に輸出されている。

関税を支払うことなく、「再輸出加工手続き」によって輸入された中国産三倍濃縮トマトは、水で希釈されてわずかな塩を加えられただけで、「メイド・イン・イタリー」の商品に生まれ変わる。こうして付加価値がつけられて高い値段で売られていくのだ。ラベルには濃縮トマトの原産地は記載されない。それどころか、ほとんどの商品にイタリア産と書かれている。缶の上に印刷されるのは「中国」ではなく「イタリア」という文字だ。ヨーロッパには原材料の原産地の表示を義務付ける法律が存在しないからだ。

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このような習慣的に行われている「産地偽装」のほか、大量の添加物が使用されるトマト加工工場、腐ったトマトが再出荷される「ブラック・インク」の実態、奴隷的に安価で働かされる労働者など、さまざまな問題をこれらの“現場”に潜入した著者が暴露する。フランスでも話題沸騰のノンフィクション『トマト缶の黒い真実』は全国書店で発売。

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