政治危機の本質を解明する『公開性の根源 秘密政治の系譜学』刊行

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財務省による決済文書改ざん、陸上自衛隊によるイラク派遣部隊の「日報」隠蔽など、情報公開の前提そのものが覆される事態が相次いで起きている。まさに、公開された情報そのものの真偽がわからなくなり、存在するはずの情報さえなかったことにできる、「ポスト真実」に政治が翻弄される状況だ。

しかし、これは官僚という行政の執行機関が、たまたま規範を踏み越えた「例外状態」にすぎないと言っていいのだろうか。こうした問題を根源的に考える際に参考になるのが、先ごろ刊行された『公開性の根源—秘密政治の系譜学』(大竹弘二著/太田出版)だ。

同書は、2012年から5年間に渡って雑誌『atプラス』で連載された原稿に、大幅な加筆を施したうえで単行本化されたものだ。著者の大竹氏は、南山大学国際教養学部准教授で、専門は現代ドイツ政治理論、政治思想。著書は『統治新論—民主主義のマネジメント』(國分功一郎との共著、2015年)から約3年、単著としては9年ぶりの刊行となる。

「例外状態」について、大竹氏はこう説明する。

「本書の出発点となっているのは、例外状態が今日の政治のパラダイムになりつつあるという認識である。(中略)今日の政治は、執行が規範を踏み越える例外状態の常態化という観点から考察できるのではないか」(序論より)

さらに、同書によれば、政府や官僚といった行政機関が、法や規範を蔑(ないがし)ろにするのは「例外状態」だけではなく、近代政治が生まれた当初の「原初状態」に回帰しているとも指摘する。

なぜなら、近代国家が誕生した16世紀にまで遡れば、あらゆる国家活動の始まりは行政であり、まずは行政による秘密の権力技術がさまざまに生み出された。そのあとようやく公開性を担保する近代主権概念が生まれ、行政から立法と司法が分離した。つまり、国家誕生時から行政による秘密政治の系譜は連綿と続いているのだ。

また同書は、近代国家の官僚制における文書の意味についても、メディア論的な視点から考察しており、この本を読めば、公開性とはけっして自明のものではないことがわかる。公開性とは、ともすれば法や規範から逃れ、秘密政治をおこなおうとする行政との闘いの歴史のなかで獲得されてきたものであり、その闘いの歴史のなかにこそ、現代の混乱を読み解き、乗り越える知恵がつまっているのだ。

『公開性の根源—秘密政治の系譜学』(大竹弘二著/太田出版)は、2018年4月18日発売。定価4600円+税。

【関連リンク】
『公開性の根源 秘密政治の系譜学』

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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