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鬼才・丸屋九兵衛、黒人英語と、“人生の師”『ゲド戦記』作者を語り尽くす!

トークイベントは二部構成で行われた
トークイベントは二部構成で行われた

港区のエキサイトカフェにて、音楽ウェブサイト『bmr』編集長にして、幅広い分野で活躍を続ける怪人・丸屋九兵衛によるトークライブが開催された。隔月ペースで開催されるこのトークイベントは二部構成となっており、第一部では、主にアフリカ系アメリカ人をとりまく文化、第二部では、オタク周辺カルチャーについての講義を行っている。

6/23(土)に白金高輪のエキサイトカフェにて行われた第一部【Soul Food Assassins】のテーマは、「ちゃんとした英語」の一段下に見られがちな「黒人英語」。しかし丸屋は「スラングとして蔑むのも、逆に露悪的にありがたがって楽しむのもおかしい」と主張する。

■黒人英語は最強のクレオール言語
丸屋曰く、黒人英語は独自の文法と語彙を持ち、世界に影響を与えてきたパワフルな言語。その特徴として、まず最初に挙げておきたいのが、発音の独自変化だろう。以下の例などは、ヒップホップファンにとっては馴染み深いのではないだろうか。

濁音thのd化(例:「In The Club」→「In Da Club(※1)」)
※1:バレットプルーフなラッパー50Centのヒット曲

静音thがf化(例:「Smith&Wesson」→「Smif’n’Wessun(※2)」
※2:バックタウン(=ブルックリン)を代表する2MCユニット。

濁音thのv化(例:「Cocoa Brothers」→「Cocoa Brovas(※3)」)
※3:Smif’n’WessunがSmith&Wesson社とモメた後に改名。

また黒人英語は、文法においても「ちゃんとした英語」とは、大きく異なっている。が、そもそも英語は、激動の歴史をたどったブリテン島において、常に進化を続けて来た言語。ローマ帝国、アングロサクソン人、北欧のデーン人、フランスのノルマン人と、海の向こうからやってきた支配者との意思疎通を容易にするため、文法を簡素化して来た歴史を持っている。そして今回テーマとなった黒人英語もまた、侵略をきっかけに生まれた言語と言っていいだろう。言うまでもなく白人によるアフリカの植民地支配だ。

アフリカ各地から強制連行された黒人奴隷たちは、異なる言語を話す他部族出身者とコミュニケーションをとるため、英語をベースとしたカタコトのオリジナル言語「ピジン」を作り出していく。さらに彼らは先輩奴隷や白人たちのコミュニケーションの中で、より「ちゃんとした英語」に接近し、彼らの「クレオール言語」(=ピジンから生まれ、洗練され第一言語になっている言葉の総称)である黒人英語を生み出していった。

丸屋はこんな言葉でトークの第一部を終えた。

「英語は様々な侵略と支配の時代を通じて生まれたクレオール言語なんです。それをさらに一歩先に進めたのが黒人英語。つまり黒人英語はとてもイノベーティブな存在なんです」(丸屋九兵衛)

次々に生まれる流行語や最新の言い回しを忌み嫌う向きは少なくない。しかし歴史を振り返れば、どんな言葉も変化を続けた結果、現在の形に至ったとは言えないだろうか。こうした事実を頭の片隅に置いておけば、新しい言葉に対して、少しだけ寛容になれるはずだ。


後半の【Q-B-CONTINUED】のテーマは、2018年1月22日に惜しまれつつこの世を去ったSF~ファンタジー作家のアーシュラ・K・ル・グインについて。「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズ、「ゲド戦記」などの作品で知られ、数多くの傑作を世に送り出してきたル・グインは、丸屋にとって最も敬愛する小説家にして「人生の師」とも呼ぶべき存在なのだそうだ。

アメリカ西海岸ベイエリアの多様性に満ちた空気の中、少女時代を過ごしたル・グインは、『ペガーナの神々』の作者であるロード・ダンセイニ、『ウロボロス』で知られるE・R・エディスンのファンタジー文学を好む一方で、詩情あふれる作風で知られるSF作家コードウェイナー・スミスの作品を並行して楽しんでいたという。こうした背景もあってか、彼女はSF~ファンタジーという二つのジャンルで数多くの名作を生み出していく。

■無政府主義、環境主義、文化人類学…丸屋とル・グインの共通点とは

丸屋がル・グインを敬愛するのは、「無政府主義」「環境主義」であること、自分の価値観で他文化を判断しない「文化人類学的視点」など、自らと共通する部分が多いからなのだそう。また一見穏やかそうに見えるル・グインだが、実は対立を恐れない人物として知られており、先日ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロも論争でフルボッコにされた被害者(?)。こうした「ビーフ上等」な態度についても、名指しディスで物議をかもす丸屋と共通していると言えるだろう。

最後に丸屋はアーシュラ・K・ル・グインに捧げた自らの文章を引用し、この日のトークショーをしめくくった。

「アーシュラ・K・ル・グインが描く世界には人種や惑星の違いも、性的傾向の違いもある。だがそれらは単なるあり方の違いと受け止められている。もしくはそう受け止められる社会を読者が目指したくなるような物語となっている。その意味で、アーシュラ・K・ル・グインはその前の世代よりも、あるいは模倣者よりも事実上どんな作家よりも、何光年も先を行っていた。アーシュラ・K・ル・グインは、恐怖と憎悪のスモッグから我々を連れ出してくれる。相違点はチャンスであり、正義は存在し、星々が瞬く、そんな宇宙へと」(丸屋九兵衛)

時折声を詰まらせながら、偉大なビッグシスターへの愛を語る丸屋の右腕には、次元転移を扱ったル・グイン作品『なつかしく謎めいて』にオマージュを捧げた、こんな追悼タトゥーが彫り込まれていた。

「アーシュラ・K・ル・グイン(1929生まれ)
現在次元を移動中」

惜しまれつつ世を去った今も、新たなファンを生み出し続けている天才アーシュラ・K・ル・グイン。しかし彼女は、自らが遺した作品や思想とともに、我々の心の中で永遠に生き続ける。亡くなったのではなく、異なる世界に旅立ったのではないだろうか。そんな風に考えずにはいられない。

<開催情報>
■場所
「エキサイトカフェ」
東京都港区南麻布3-20-1 Daiwa麻布テラス4F

■日時
2018年6/23(土)

1 丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins vol.6】黒人英語講座! ただスラングだけでなく。
2018/6/23(土) 13:00~14:30

2 丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED】アーシュラ・K・ル・グイン祭:左手の合言葉は空飛び猫カミングホーム
2018/6/23(土) 15:00~17:00

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