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精神科医・斎藤環 「今は震災後じゃなくて『災間』だと認識すべき」

『フェイクの時代に隠されていること』より、イラスト:小田嶋隆
『フェイクの時代に隠されていること』より、イラスト:小田嶋隆
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『フェイクの時代に隠されていること』 著:斎藤環、福山哲郎

2011年の東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故は、原発の恐ろしさを改めて世界中に知らしめた。震災から7年が経過し、悲惨な記憶は徐々に風化されつつあるが、今は“震災後”ではなく、次に起こりくるであろう災害との「災間」であることを、我々は認識する必要がある。

日本の政府は、あの事故から何も学ばなかったのか?──政界きっての論客である立憲民主党幹事長・福山哲郎と精神科医の斎藤環が、7月13日に『フェイクの時代に隠されていること』を上梓。安倍政権の原子力政策のデタラメさについて解説している。

 * * *
斎藤:今、原子力に関わる決定機関は「原子力規制委員会」ですか?

福山:規制委員会です。

斎藤:それが唯一のもの。

福山:そうです。

斎藤:事故のシミュレーションみたいな、マニュアルといってもいいですけども、今、そういったものは作られているのでしょうか。

福山:避難計画がないんです。元々シビア・アクシデントに対する対応のルールというのが五層までありまして、四層までが科学技術的な、格納容器に関する、原子炉に関する防護措置です。これはIAEAの防護措置のルールです。そして五層目が避難計画なんです。ひどい話なんですが、日本は3.11まで五層のうちの三層までしかなかった。つまり四層目の、技術的な部分のシビア・アクシデントに対する防護措置については、安全神話で事故がないという前提だから、なかったんです。まずこれが驚きなんですね。三層までしかなかった。

 やっと私らのときに規制委員会をつくって、規制委員会は技術的なものだけですから四層まではできたんです。で、五層目の避難計画ですが、アメリカではアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)とアメリカ原子力規制委員会(NRC)が協力して避難計画を承認して、ようやく五層を埋めて原子力を稼働できるんです。ところが今、日本には五層目がないんです。

斎藤:ないんですか、いまだに? これはびっくりです。衝撃的事実です。

福山:ないんです。いまだに立地自治体任せです。

斎藤:反省していないじゃないですか!

福山:いまだにないのに、安全だと言い続けるわけです、安倍さんは。

斎藤:あんまり安倍さんを中傷すまいと思ってたんですが、これはさすがに容認し難いですね。

福山:国会で私は質問しました。「原子力規制委員会は四層までの技術的な評価をしたと言っているだけであって、避難計画については承認してないはずだ。これで再稼働に向けて安全だと言えるのか」。そう言ったら、田中俊一委員長は私のことをよくご存じですから、ちゃんと答弁で「いや、規制委員会は、安全だということを証明しているわけではありません」って、国会の場ではっきり言われたんです。

「避難計画に関しては規制委員会は責任を持てるのか」と言ったら、「避難計画については、規制委員会の所管ではありません」って、はっきり言うわけです。「ということは、安全じゃないじゃないか。何が世界一安全なんだ」と言うと、安倍総理はもう「世界一安全だ」と強弁しまくるわけです。

田中委員長に「世界一安全なのか」って聞いたら、これも「世界一安全かどうかはわからない」って、田中委員長は安倍総理が横にいてもちゃんと正直に答えるんですけど、国会でそういう答弁があろうが、お構いなしなんです。さすがに最近は「安全」というフレーズは使わなくなり、「世界でもっとも厳しい水準」とぼかしています。

斎藤:なぜそういう態度がとれるのか、本当に謎ですよね(笑)。

福山:謎なんですよ。いまだに避難している人がいっぱいいるんですよ。

斎藤:そうですよね、いやもう本当にダメだ、日本人に原発管理は無理ですね。技術力がどうのという以前に、国民性として向いていない。私がもう一点聞きたかったのは、原発事故対策という貴重な経験をなさったわけじゃないですか。一連の経緯のなかで、反省点もあれば、これをやって良かったってこともあるでしょう。そういう記録に基いた、政府の対応のフローチャートみたいなものってあるんですか?

福山:もちろんありますし、規制委員会や緊急対策本部について新たに決められたこともありますが、シビア・アクシデントのときにどのように対応するのか等々については、事故の前のシナリオとはあまり変わってないです。

斎藤:今回の反省はあまり反映されてないってことでしょうか。

福山:いちおう反映はされているんですけど、しょせん組織としては同じなので。

斎藤:たとえばアメリカの協力をとりつけるときに連絡会議をつくるとか、縦割りを横につなぐ工夫をいろいろされたわけじゃないですか。だから組織自体は変わってなくても、そのときはこういうのをつくってやった方がスムーズにいきますよとか、そういう反省点が反映されてないんですか?

福山:会議をつくるというようなルール化はされてないです。原子力災害対策本部をつくって、というのは今までと同じです。そこから先、たとえばアメリカとの調整連絡会議なんていうのは、本当にアドホック(限定目的)につくったものなので、あれが制度化されているとはとうてい思えない。

斎藤:でもそれが役に立ったわけでしょ、けっこう。

福山:すっごく役に立った。

斎藤:なんで制度化しないんですか(笑)。それがわからない、私には。

福山:たぶんそれは「事故を前提としているんだろう」と、また言われるからですね。

斎藤:事故対策なんだから、前提にするに決まってるじゃないですか(笑)。事故を想定したら縁起が悪い、みたいな話ですかね。

福山:いやいや(笑)。だから、そこは「新・安全神話」復活のプロセスなんです。

斎藤:全然懲りてないじゃないですか(笑)、恐ろしいなあ。恐ろしすぎる。今は震災後じゃなくて「災間」だと認識すべきですよね。震災と震災の間。次に来る想定をしないってこと自体が、本当に信じ難い。こんな貴重な経験が活かされれば、次に起きたときにもっとスピーディに動けるじゃないですか。

福山:いやいや。たぶんもっと動かないですよ。なぜかっていうと……。

斎藤:自民党だから(笑)。民主党のやったことは参考にしない、と(笑)。

福山:はい、そうです。

斎藤:そうだろうなあ。それでも非常時には藁をもすがるというか、先人の教訓があったら飛びつくしかないでしょう。党派性を超えて、あの教訓は活かされるべきだし、単なる失敗で片付けるのはあまりに惜しい。そのためにも評価すべきは評価しなきゃと思う。私は菅さんが乗り込んで良かったと確信しています。たとえば東電との疎通性もね。連絡が来ないと思ったらすぐ乗り込んでいくぐらいの。そうすれば、「テレビ電話の回線をこっちに回せ」とか言えるわけじゃないですか。

福山:でも、政治家と東京電力との間で今の状況について意思疎通しているなんてニュースはほとんどないでしょ。皆無でしょ。

斎藤:どっちも反省してないわけだね。

福山:ええ、どっちも。東電はたぶんなめていると思うんです。

斎藤:だって誰も処分をくらってないじゃないですか。これだけのことやらかして、なんの処分もなく逮捕者も出ていない。保安院の逃げ出した職員も処分されてないし、東電の責任者も処分されてない。2016年2月になってようやく幹部三人が検察審査会で強制起訴されましたけど。

福山:東電の責任者の処分は、民間ですから、なかなかそれは。法律的な違反をしたわけではないので。

斎藤:なるほど。保安院は、罰則の規定がなかったということですか。

福山:そうですね、クビにはならなかったです。クビにはできないですね。

斎藤:できないですか。

福山:なんらかの瑕疵があるわけではないので。ましてやそこで「自分の命を守るために逃げました」と言われたら、「自分の命を守るために逃げるのがなんでダメなんだ」って言われます。

斎藤:えっ、逃げてもいいんですか?

福山:いや、良くないけど。でもそうした規定はありません。

斎藤:そりゃ「逃げるべきではない」とか明文化できないでしょうけども(笑)。でも、逃げたら仕事にならないじゃないですか。

福山:一般的な職務専念義務との関係はあり得ますが。

斎藤:はあ~、なるほど。

福山:だからそこが難しいところですよね。よく「東電をなんで潰さなかったんだ」っていう議論で怒られたんですけど、そこは簡単でしたね。東電を潰したら誰も賠償する主体がいなくなるからです。

斎藤:うん、そりゃそうですよね。

福山:賠償する主体がなくなるからですよ。感情的な恨みで東電を潰したら、賠償と廃炉の作業をする人がいなくなる。

斎藤:いや、本当にそう思います。感情論で潰しちゃったらあとが続かないですよね。それはまったくその通りだと思います。

福山:だけど、そういう冷静な議論もなかなか成り立たなくて、「福山とか枝野とかは東電に籠絡されて潰さなかったんだろう」ってよく言われたんです。でも、それは真逆です。むしろ東電にとっては、変な話ですが、潰して別法人をつくって知らん顔してやった方が逃げられたと思います。そういった歴史的な評価というか、なぜ潰さなかったみたいなことについても、非常によくわからない議論が続いてます。本当に難しい問題です。

 * * *
経済的合理性や電力不足への懸念を理由に原発再稼働を主張する人は、果たしてこういった事実を知っているのだろうか。それとも資源の乏しい日本に生まれた我々は、原発という“時限爆弾”と共に生きていかなければいけないのか……。

同書ではこの他、忖度がなぜ暴走したのか、真実よりもフェイクが氾濫する理由、最悪の法改正案、増え続けるひきこもり、続く貧困と差別など、「政治の現場」と「精神分析」の視点から、この時代の裏で起こっていた事を解説している。『フェイクの時代に隠されていること』は、2018年7月13日(金)に発売。2200円+税。

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