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手に取って調べることのできない鳥の名前 達人はどうやって覚えた?

『カラス先生のはじめてのいきもの観察』松原始(太田出版)
『カラス先生のはじめてのいきもの観察』松原始(太田出版)

夏休みを利用してバードウォッチングを始めた人がぶつかるのが「鳥の名前が分からない」という問題だ。昆虫のように手に取ることが出来れば、図鑑と首っ引きで調べることが可能だが、鳥ではそうはいかない。パッと見ただけで鳥の名前を言い当てる達人たちは、どのようにして鳥を見分けられるようになったのだろう。動物行動学者の松原始氏が動物観察についてつづった『カラス先生のはじめてのいきもの観察』(太田出版)で、松原氏はこう解説している。

 * * *
子供の頃、双眼鏡と並んで鳥を教えてくれたのは、古い鳥類図鑑だった。写真ではなく、背景を入れたカラーイラストで、雄雌がペアで描いてあったりした。絵のタッチがちょっと寂しげで、秋を題材にした絵本のようだと思ったのを覚えている。

今になって理解したが、あの絵は西洋の博物画の流れを汲む、きわめて正統なものだ。雄雌を一緒に描いてあるのは色や模様の違いを示すため、背景が描いてあるのは生息環境や生態がわかるようにだ。オーデュボンの描いた博物画など、まさにそういう描き方である。

何度も何度も読んだが、鳥を覚えるのはなかなか難しかった。それに、野外で見る時に昆虫とは全く違う困難がある。昆虫なら捕まえて手に取ってじっくり見られるが、鳥は捕まらない。遠くから見ると、絵に描いてあるようには見えない。といって、窓辺に来る鳥をカーテンの隙間からこっそり見たりすると、今度は近すぎて印象が違う。羽毛1枚まで見分けられる距離で見ると、ヒヨドリなんて全然違って見えるのである。近くで眺めると、「こんなに顔が茶色かったっけ?」と思ってしまうし、胴体も鱗状の模様に見える。

この時に案外役に立ったのが、図鑑の見返しに描いてあった「いろいろな鳥のシルエット」だった。双眼鏡がボロくて色がちゃんと見えなくても、シルエットなら見える。しかもこのシルエットが絵合わせで名前を答えるゲームみたいで、つい試してみたくなるのだった。私が鳥の種類を覚え始めたのは、ここからである。

最初は「これはどう見てもカラス」「これはスズメ」などと覚えていったのだが、スズメとカワラヒワとホオジロの区別がつかない。よーく見たら、カワラヒワのシルエットには、風切羽の途中に白抜きした斑点が描いてあった。そうか、これがあるのがカワラヒワだ。

ホオジロは? ああ、これは顔に模様がある。しかも上を向いて口を開けている絵だから、きっと鳴いているところだ。こっちの、地面に立っているのは? そうだ、頭にチョコンと冠羽が立っているから、きっとヒバリだ。同じように地面に立っているけど、「ふんっ」と胸を張った感じなのは、ツグミ。もっとずんぐりして頬が白くて足が赤く描いてあるのが、ムクドリ。ま、これを覚えたところで、野外ですぐ見分けられるというものではない。なんとかわかったのはスズメとハトとカラスだった。

もっとも、庭先にさえ、スズメに似ているがスズメではない鳥がぞろぞろ出て来て、さんざん混乱させられた。しばらく悩んだ後、庭にいるスズメっぽい小鳥はスズメ、アオジ、カシラダカの3種と判明した。スズメは雌雄同色だが、アオジとカシラダカは雌雄で模様が違うので、合計5パターンである。

その後、セキレイやカラワヒワも追加された。セキレイは尾が長くてスマートで、隣家の屋根に止まっているのをよく見かけた。カワラヒワはシルエットと違い、緑っぽくて、カナリアみたいな鳥だったが、翼にある黄色い模様は、まさに図鑑で覚えた通りだった。

カラスにはハシブトガラスとハシボソガラスがいると書いてあったが、最初はどっちがどっちだかわからなかった。よく見るとおでこの出っ張り方が違ったが、見ているうちに区別できない場合がでてきた。これは当然のことで、カラスの「おでこ」は羽毛しかないので、羽を寝かせてしまえばペタンと平たくなるのである。

最初は図鑑を見てもなんだかわからない。次に、実際に見ているうちに、図鑑に書いてあった通りだと気付く。さらに見ていると、図鑑とは違う姿も見るようになる。何かを覚えようとすると、こんな風に、わかったりわからなくなったりしながら進んで行くものらしい。

もちろん、自分の見たものがなんだか図鑑と違うからといって、図鑑が間違っていることは滅多にない。図鑑というのは最大公約数的な書き方をするので、「ああ、もちろんそういうこともありますが、そこまで書いていると文字数がいくらあっても足りないのでねえ」という場合がほとんどである(ごくごく稀に、本当の大発見があるけれど)。

とはいえ、「ひょっとしたら自分は大発見をしたのではないか?」というドキドキ感は大事だ。そういうモチベーションがないと野外の探検なんてできないからである。……まあ、多分に中二病的であるにしても。

 * * *
達人と言えども、やはり最初は悩み、戸惑い、試行錯誤を重ねてようやく「あれは○○」と言えるようになったのだ。このほか同書では、「双眼鏡事始め」「図鑑の使い方」「空飛ぶものへの憧憬」「台風の夜」「足もとの昆虫学」「水たまりの生態系」「獣道の見つけ方」などについてもつづられている。

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