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「正しいことを言う」日本のリベラルはなぜ遠ざけられるのか

『フェイクの時代に隠されていること』より イラスト:小田嶋隆
『フェイクの時代に隠されていること』より イラスト:小田嶋隆
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『フェイクの時代に隠されていること』 斎藤環、福山哲郎

2016年の米大統領選で、その行方を左右したとさえ言われているのが「フェイク・ニュース(=嘘のニュース)」だ。SNSの隆盛によってデマの拡散が容易になり、真実を見抜く力を持つ必要性がしばしば説かれているが、それでもなぜ人々は嘘を受け入れてしまうのか? 答えは、真実が退屈で、フェイクが面白いから。政界きっての論客である立憲民主党幹事長・福山哲郎と精神科医の斎藤環が、7月13日に『フェイクの時代に隠されていること』を上梓。“ファクト(真実)がフェイクに敗北する構造”について解説している。

 * * *
福山:理屈とファクトで攻めようと思っても、世の中に流布されるスピードが全然違うじゃないですか。

斎藤:それがフェイク・ニュースとかポスト・トゥルースとか言われている問題にけっこう絡んでいると思っています。ファクトはすごい大事なんですけど、結局ファクトやエビデンスというのは多くの人にとっては「退屈」なんですよね、悪いことに。

「それは、理屈ではあんたらが正しいかもしれないけど、つまんないじゃない」みたいになりやすい。なんか「重箱の隅を突っついてる」みたいな扱いを受けてしまって、結局人気が集まらない、嫌われてしまうということになる。そんなんだったら、「人の顔をした噓つきの方が面白い」ということがあるんですよね、やっぱり情緒としては。情緒の方が強いですからね。これがファクト主義になると、分断につながりやすい。

福山:ファクトとかエビデンスって、日本のリベラルの弱さの根底ですよね。すぐにファクトだとか理屈だとか言って、お互いが団結できない。手を組まないで、リベラル内での対立になる。原発で言えば、「今すぐ脱原発」なのか「時間をかける脱原発」なのか。目的は一緒なのに、ファクト、エビデンスにこだわってしまう。情緒ではなくて理屈で言うから人々を糾合できない。

安保法制の頃にも、反安保の人たちから態度や表現がポジじゃないことに対して、いろんな批判を受けました。それで会に呼ばれたときに「どう見ても味方なのに私を批判してどうするんだ」と言ったことがあるんです。

斎藤:それなんだよ、結局ね。また「浅間山荘」になっちゃう、みたいなね。

福山:そうなんですよ。日本のリベラルの悪いところです。

斎藤:必ずなる。小さい違いで大喧嘩になっちゃうんですよね。

福山:身内の抗争が始まるんですよ。「でも、敵は向こうでしょ」と、以前にネットでシンポジウムを実況中継している最中に言ったんです。「敵は安倍政権なんだから、福山を叩いてどうするの」と。

斎藤:私もまったく同じことを、ひきこもり支援のなかで経験してきているんです。支援したい人にはタカ派もいればハト派もいて、互いに叩きあっているんです。くだらない党派性や潰し合いがある。私は相互批判はできるだけしない。タカ派のなかには拉致監禁するのがいるので、これは非合法なので叩きますけれども。

少なくとも医療的な支援に関わる立場としては、多少は考え方が違ってもみんな味方、大同団結、というスタンスを維持しようと思っているんです。すると逆に、私が叩かれるわけですよ。ひきこもりを医療の問題にしたい一派がいてですね、私は必ずしもそうじゃない立場なので、「斎藤のせいで治療対策が遅れる」みたいになっちゃうんですよね。

福山:お医者さんの立場で言えば裏切り者ですよね。

斎藤:医者からすれば裏切りなんですけれど、結局、ひきこもりを一番助けているのは就労支援のNPOですから。医療化しちゃったら、そういう団体の活動は制約を受けるし、かえって困るんじゃない? と言いたいんですけれども。縄張りというか利権争いみたいになっちゃうんですよね。大した利権もないんですが(笑)。同じことがたぶんいろんなところで起こっているんですけれど。

福山:いろんなところで起こっているんですよね。

斎藤:反原発こそそうですよね。ゼロ・トレランス派からLNT仮説批判派、少ない放射能は身体にいいというホルミシス仮説派までいろいろとありますけれども。こうなると本来の敵の方に目がいかない。日本の格差社会とも構図がよく似ていて、富裕層は一切批判されない。低所得者同士で足を引っ張り合う事態に陥ってしまう。ほっといても潰し合ってくれるので、推進派は喜んでいると思いますよ。

日本に限ったことではありませんが、いわゆる「リベラル」の連帯って「理屈」や「言葉」でつながってしまうので、ちょっとした解釈の違いで分裂してしまうんです。保守の連帯は理屈よりも「情緒」でつながるので強いんですよ。だから自民党はヌエなんです。

昔の自民はリベラル寄りからウルトラ極右まで幅がありましたが、なんかまとまっていたのは、そういう文言にこだわらないという強みがあるから。民主党も幅がありますけど、自民党ほど融合していない印象があります。あっちが「ヌエ」なら、こっちは「サラダボウル」といいますか。情緒的に融合せずに共存している。

福山:なるほど、情念でつながっているんですね。

斎藤:そういう連帯があると、多少の主義主張の違いは飲み込んでしまって、それこそ太い絆でまとまれる。一方、ファクトにこだわると分断しやすい。だから「どうせなら皆が面白がれる噓の方がいいんじゃない」みたいな、かなり自暴自棄な選択になってしまいやすいところがあると思いますね。

ファクト主義には、正しさだけを追求していれば事足れり、みたいな自己満足に陥りやすいという問題があります。正しさを人々がどう受け止めるかということに対する配慮が足りないんですよ。福田赳夫さんが言ったといわれている「正しいことを言うときは気をつけなさい。正しさは常に人を傷つけるから」という言葉があります。これは、古き良き保守の発言だと思っているんです。

福山:そうですね。

斎藤:ファクト主義者には、正しいことを言っていれば皆がついてくるに違いないという幻想がある。これは完全に幻想なんですよ。「正しさは逆に人を遠ざける」という場面が多々あるということが、今回のことではっきりしたわけです。

福山:なるほど。歴史は正しいことを言っている人が常に勝つわけではない、「正しいことを言っている人が敗北する歴史」ですよね。

斎藤:そうなんですよね。だから正しさを伝えるときの配慮をどうするかってことが大事だと思います。正しさで傷つく層がいて、その人がどんな気持ちになるかということを考えて言わないといけない。誰かに「正しさ」を伝えるには、時として誰かをだますのと同等かそれ以上のスキルが求められる(笑)。「正しいことが強いに決まってんじゃん」みたいな幻想はいい加減に捨てないと、リベラルは負け続ける時代になってしまう懸念がありますね。

福山:かつて民主党は、女性に人気がなくて、理屈ばかりこねてる優等生の集まりだとよく言われていたんですけど、まさにそういうところが問題だったんですよね。「よっしゃ、よっしゃ」と太っ腹を叩いて「オレに任しとけ」と言っているイメージのあった、かつての自民党との対極的なイメージで語られていたんです。正しいことをファクトで言えば国民はわかってくれるんじゃないかという傲慢さみたいなものは、やっぱり人を遠ざけるんでしょうね。

斎藤:もっと悪いことに、「わからない方が悪い」と言いかねない雰囲気があって、それはすごくまずいんですよ(笑)。「わからないという人の事情」っていうのをこちらがわかる必要があります。情緒主義だと反知性主義になるし、理屈が勝ちすぎるとまとまらなくなる。なかなか大変なことではありますけども。そういった配慮が見える出し方をすることによって、むしろ人々は正しさに対するまさに「耐性」がついてくるのかなと思うんですけど。

福山:いや、本質的ですね。だから、野党の我々が言うのではなく、前川(前川喜平・前文部次官)さんとか東京新聞の望月(衣塑子)記者が言うことによって、正しいことがどちらなのかについての「空気」が変わったというのは……彼らは配慮していたかどうかはわかりませんけど、そういう役割であったということですね。

斎藤:あと、立場の問題があって。彼らは政治家ではないし、一方は現場にいた人で、一方はメディアの人。メディアには検証の役割がありますよね。基本的には「メディアは正しいことを言っていればいい」で、私はいいと思うんですよ。人々が自発的にそれを読んで、情報を利用すればいいわけですから。

しかし政治家は主張する存在であってほしいし、主張する際には正しさだけでは足りないということだと思うんですよね。前川さんのは「証言」ですから、正しいことを言ってもらわなければ困りますからね。ただそれをどう活用するかというときに、「前川さんが唯一、絶対の真実を握っているんだから、それしか真実はない」みたいに持っていきすぎると、やっぱり反発がきたりしますよね。

福山:ですよね。社会を動かす上で、ファクトとエビデンスをどう活用するか、どう使うかというのは、政治の手法としては非常に重要な要素ですよね。

 * * *
フェイク情報を流す者や、それを信じる者を批判するのは容易いが、福山氏が指摘するように「理屈ばかりこねてる優等生」が必ずしも支持されないのは、誰しも思い当たる節があるだろう。

同書ではこの他、忖度がなぜ暴走したのか、最悪の法改正案、増え続けるひきこもり、続く貧困と差別など、「政治の現場」と「精神分析」の視点から、この時代の裏で起こっていた事を解説している。

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