ゼロ年代に生まれたボーカロイド文化 急成長を支えた「好循環」

カルチャー
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2000年代の音楽を語る上で避けて通れないのがインターネット。“ゼロ年代”は日本のネットカルチャーが花開いた時代でしたが、音楽業界でいえば、その代表は2007年8月の「初音ミク」発売から始まったボーカロイド文化でしょう。

ブームの勢いを見せつけた同年にベータ版を開設したばかりのニコニコ動画を主なプラットフォームとして、ボーカロイドはあっという間に音楽のいちジャンルといえるほどに成長していき、そこで活躍したクリエイターたちは、テン年代のメジャーシーンで商業的な成功を収めるようになっていきました。2009年3月には初音ミクを使ったアルバム『supercell』がオリコン週間チャート4位を記録しています。

ボーカロイドが成功した理由は、音声合成ソフトにキャラクターという身体性をもたせたことにあります。単なるソフトであれば、音楽制作のためのツールに過ぎません。しかし、そこに「初音ミク」や「鏡音レン」などの具体的なキャラクターを加えたことで、ボーカロイドのリスナー同士が「ボーカロイドが好き」という共通点でコミュニケーションを取りやすくなりました。

どういうことか? 例えば初音ミクであれば、ロックを歌っているミク、ジャズのミク、アニソンのミク……と演奏される音楽性は多様であり得ます。しかし、ここにキャラクターを介した「みんな初音ミク」という共通点が生まれることで、音楽ジャンルの違いを超え、リスナー同士がつながることができるようになったわけです。

それは画面にコメントしながら動画を視聴するニコニコ動画というプラットフォームの特徴とも相性がいいものでした。初音ミクを使って作られた楽曲は、「ボカロP」と呼ばれたクリエイターの音楽性の表現であると同時に、「自分なりのミク」の表現でもあります。それに対してリスナーが自由にコメントし、それぞれの「自分なりのミク」を語り合っていく……。そういう循環がボーカロイド文化を育てたのです。

◆ケトル VOL.44(2018年8月17日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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