月亭可朝、松鶴家千とせ、毒蝮三太夫… レジェンド芸人の現在を綴る『全身芸人』

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レジェンド芸人たちの現在に密着したノンフィクション『全身芸人 ──本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて』(田崎健太・著/太田出版)が、11月23日(金・祝)に発売される。

〈担当編集者の中山が取材を申し込むと、彼(月亭可朝)は取材には乗り気ではなかった。とにかく一度会いませんかと中山は電話で食い下った。すると映画の撮影で関西から静岡へ出てくる予定があるという。そこで撮影が終わる夕刻、三島駅で落ち合うことになった。2015年11月のことだった。

改札に現れた可朝は、大きな丸い目、どす黒い顔色が印象的だった。横には30代とおぼしき、小柄な女性が立っていた。「娘や」 可朝は右手で女性を指した。

「たまにマネージャーをやってもらっている。今日は本業の会社員の仕事が休みやから、こっちまで付いてきてもらった」

彼女はぺこりと頭を下げると、可朝の身体に隠れるように後ろに下がった。「後でな」 彼女に向かってさっと手を挙げた。すでにとっぷりと日が暮れており、喫茶店の類いは開いていなかった。そこで居酒屋で酒を飲みながら話をすることになった。

「ワシを取り上げてどこが面白いんや。酒がどうの、オンナがどうのって言っても、ワシは評判ほど強くない」

三枝と比べると女の話は少ない、ワシはイメージばっかりやと口の端を上げて笑った。このとき、三枝──桂文枝の女性問題が写真週刊誌を賑わせていた。

「金はなんぼ払える? そんなに安ないで」

可朝は大きな目でこちらをじっと見た。その笑っていない目を見て、一筋縄ではいかない男に取材するのだと、はっとした〉(「まえがき」より一部抜粋)

この本は、日常と非日常、聖と俗、その境界線を歩き回る“芸人”の現在に密着したノンフィクションだ。世間を席巻した笑いはあっという間に風化し、使い捨てられるのが運命で、爆発的に売れる以上に、売れ続けることは難しい。不発弾のような狂気を抱えた彼らの人生がどのように始まり、そして収束していくのか──『W杯に群がる男たち─巨大サッカービジネスの闇─』(新潮文庫)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談文庫)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)など、話題の書を次々と発表する田崎健太が、彼らの姿に迫る。

今回密着したのは、月亭可朝、松鶴家ちとせ、毒蝮三太夫、世志凡太・浅香光代、こまどり姉妹の5組。「ギャンブル中毒の男」(月亭可朝)をはじめ、「元祖・一発屋の現在」(松鶴家ちとせ)、「日本一の毒舌男」(毒蝮三太夫)、「芸能界最強の夫婦」(世志凡太・浅香光代)、「最後の門付芸人」(こまどり姉妹)と、いずれ劣らぬレジェンドたちの生き様が綴られている。

『全身芸人 ――本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて。』(田崎健太・著/太田出版)は2018年11月23日(金・祝)発売。2000円+税。

【関連リンク】
全身芸人 ──本物(レジェンド)たちの狂気、老い、そして芸のすべて-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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