太田出版ケトルニュース

現在のページ(パンくずリスト)
トップ > NEWS > 丸屋九兵衛が語る「意外と知らないイスラムの世界」

音楽

丸屋九兵衛が語る「意外と知らないイスラムの世界」

港区のエキサイトカフェにて、HipHop、R&Bを中心とした音楽情報サイト『bmr』編集長にして、博覧強記の賢人・丸屋九兵衛のトークライブが開催された。ほぼ隔月ペースで開催されているこちらの催しは、第一部でアフリカ系アメリカ人をとりまく文化、第二部では、オタク周辺カルチャーを含む様々な文化について語るという内容。

■丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins vol.9】ブラック・ムーヴィ・セダクション

第一部は、かつては雑誌であり現在はWebサイトとなったブラックミュージック専門メディア『bmr』編集長の丸屋が、プロフェッショナルならではの視点から、黒人史やヒップホップ・カルチャーなどについて語るトークライブ「Soul Food Assassins(ソウルフード・アサシンズ)」。今回は、ストリートで暮らす黒人の青少年たちの姿を描写した映画ジャンル「フッド・ムーヴィ」について語った。

◆“ブラックスプロイテーション・ムーヴィ”、スパイク・リー作品がフッド・ムーヴィ流行の下地に

さて70年代までのフッド・ムーヴィといえば、『黒いジャガー』(1971)、『スーパーフライ』(1972)に代表される“ブラックスプロイテーション・ムーヴィ”。カーティス・メイフィールドやアイザック・ヘイズが手がけるご機嫌なインスト曲に乗って、モテモテの黒人が事件を解決するのがお約束の展開だった。

しかし80年代前半、黒人映画は冬の時代を迎える。この流れを変えたのが、最新作『ブラック・クランズマン』(2018)で、第71回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した巨匠スパイク・リー監督。80年代後半に活躍を始めるや、自らの大学時代の思い出を元に制作した『スクールデイズ』(1988)、ブルックリンを舞台に人種差別を描いた『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)などで注目を集め、90年代に巻き起こるフッド・ムーヴィー人気の下地を作った。

◆大ブレイクしたフッド・ムーヴィ~2パックとジャネット・ジャクソンが険悪に

こうして迎えた90年代、フッド・ムーヴィはいよいよ黄金期を迎える。ラッパーのアイス・キューブが主演した『ボーイズ’ン・ザ・フッド』(1991)、同じくアイス・キューブが主演したコメディタッチの青春映画『フライデー』(1995)、ラッパーのアイス-Tが出演したギャング・アクション『ニュー・ジャック・シティ』(1991)、低予算ながら約3千万ドルもの興行収益を記録した『ポケットいっぱいの涙』(1993)など、数多くの名作フッド・ムーヴィが公開され、その人気は日本にも波及。ラッパーが出演するケースが多かったことも手伝って、特にヒップホップ・ファンからの人気を集めていた。

その後、話題はラッパーの2パックとジャネット・ジャクソンの共演が話題を呼んだ『ポエティック・ジャスティス』(1993)に。実は撮影中に出演者間のトラブルが多かったことでも知られる作品で、ジャネットが2パックにHIVテストを要求すると、2パックはジャネットに冷たくあしらわれたファンをLAに招待して全力で歓迎するなど、舞台裏はロマンティックな作品からは想像もつかない険悪なムードが漂っていたという。

トーク終盤はゼロ年代以降のフッド・ムーヴィについて。丸屋は、その特徴を「爽快に悪役が死ぬ結末が多い」とした上で、目を伏せつつ以下のように語った。

「爽快ではあるんですけど、悪役が死んだ後に警察が来ないんですよ。それでハッピーエンドみたいな感じになるんですが、それで良いのだろうか、と。ただ現実の世界で黒人が黒人を殺したとしても、アメリカでは警察は来ない事があるんですよ。だから事実といえば事実なんですが…。現実的なモラルが無視されるようになってしまったんではないかと感じるんです…」(丸屋)

とりわけ90年代のフッド・ムーヴィに対して「貧困、暴力、ドラッグまみれで暗い」というイメージをもっている方も少なくないはず。しかし、それらはアフリカ系アメリカ人を取り巻く過酷な現実を反映した描写でもある。ギャングスタ・ラップやフッド・ムーヴィを観た後は、少しだけその背景にある社会問題にも目を向けてみて欲しい。作品の見え方が変わってくるはずだ。

■丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.26】イスラムとは何か。

同日開催の講座【Soul Food Assassins】に続くトークは、語られざる世界史の真実を明かし、多様性と共存を目指す2時間。今回は「イスラム」という到底2時間で語り尽くせそうもないテーマということで「時間が許す限り」語りまくるというスタイルを取ることになった。

◆清潔がモットー!立派なヒゲのために植毛をする人も!

唐突だが、イスラム教徒といえば立派なヒゲである。イスラム教の開祖であるムハンマドの言行録『ハディース』に、「あご鬚はのばしたまま、口髭は剃らずに刈ること」と書かれているためなのだが、やはり「立派な髭を生やしてこそ一人前の男」的なノリもあるようで、イスラム世界では髪の毛をヒゲに移植する自毛植毛が流行っているのだそう。

また清潔をモットーとしているのもイスラム教の特徴だ。その証拠にかつてオスマン帝国領土だった地域には多数の公衆浴場が残されている。また清潔思考からなのか、実は男性の除毛も盛ん。胸毛を抜く男性も少なくないそうで、あの『千夜一夜物語』にも、君主たちが脱毛にハマるエピソードがあるんだとか。

◆王様はみんなBL好き? イスラム世界の同性愛

「髭のない若者に注意せよ。心を惑わせること、若い乙女より甚だしい」(ムハンマド)

「女性が連れている悪魔が1匹だとすれば、美青年が連れている悪魔は17匹だ」(公衆浴場で美青年に心を奪われそうになって、現場から走り去ったシーア派の神学者)

昨今のイスラム教国は、同性愛に対して非常に厳しい態度をとっている。しかし歴史を遡れば、オスマン帝国の全盛期を築いたメフメト2世も、美しい少年を小姓に集めていたという。かつての日本と同じくイスラムの君主たちはバイセクシャルが基本であり、民衆もまた決してホモフォビック(=同性愛者への偏見を有すること)はなかったのだ。丸屋はイスラム世界の同性愛について次のように語る。

「イスラムには同性愛を褒め称える伝統があったんです。キリスト教は、それを批判する立場だった。ところが現在のイスラム世界は同性愛に大変厳しくなっており、国によっては同性愛者であるというだけで死刑になることもある。しかし、これはここ2~300年の間に欧米化したことが原因になっているような気がするんです。つまり欧米の悪いところを真似してしまった」(丸屋)

◆実は多様性に満ちたイスラム教~2050年にはキリスト教と同じ数に

「排他的で偏狭」というイメージを持たれがちなイスラム文明だが、実際は他の宗教に寛容で、非常に多様性に満ちた集団だった。またイスラム帝国の歴史を振り返れば、クルド系、テュルク系、トルコ系など様々な民族が君主となっている。2015年の調査によれば、イスラム教徒の人口は18億人。イスラム教徒が多数派の国は57を数える。イスラム教徒が多いアフリカ地域の人口が増えていることも手伝って、2050年にはキリスト教とほぼ同数になっていると言われている。

世界中でイスラム教徒の排斥が盛り上がりを見せる一方、アメリカで先ごろ行われた中間選挙では、初のイスラム教徒議員が誕生した。どんな国にも心ある人は存在し、声を上げることで少しずつではあるが、世の中を良い方向に変化させている。丸屋はこんな言葉でこの日のトークを締めくくった。

『この2~300年続いた西欧による圧迫の時代を経て、いまイスラム圏は地位回復しつつあるように思います。イスラム教徒が増えることって悪いことなんですか?私はそうは思わない。彼らと尊重し合い、理解し合えないと思いますか?私はそうは思わない』(丸屋)

<開催情報>
丸屋九兵衛トークライブ

■場所
「エキサイトカフェ」(東京都港区南麻布3-20-1 Daiwa麻布テラス4F)

■講演タイトル
丸屋九兵衛トークライブ【Soul Food Assassins vol.9】ブラック・ムーヴィ・セダクション
開催日:2018/12/2(日) 13:00~14:30

丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.26】イスラムとは何か。
開催日:2018/12/2(日) 15:00~17:00

おすすめ記事

新着記事

SNSでも「ケトルニュース」更新情報を受け取れます。
Twitter:

Facebook:

不定期配信メルマガ「太田出版Club OH」でも新刊・更新情報をご案内中です。
RSSフィード
太田出版ケトルニュース RSS

CATEGORY

ARCHIVE

人気の記事