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『BL進化論』電子書籍化記念トーク なぜ、わたしたちはBLを愛するのか

イラスト:中村明日美子
イラスト:中村明日美子
Amazonより
『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』 溝口彰子

男性同士の恋愛を軸にした一大エンタテインメント・ジャンルである「BL」(ボーイズラブ)の歴史と本質に迫る『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(溝口彰子/太田出版)の電子書籍化が実現。これを記念して、溝口氏が“BL研究の師匠のひとり”と仰ぐ柿沼瑛子氏と対談した。

柿沼氏は、1970年代末から1990年代初め頃まで、広義のBL史を牽引した『JUNE(ジュネ)』誌上で英米ゲイ文学や映画を数多く紹介してきた翻訳家。BLはいつ生まれ、どのように進化してきたのか? 『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』電子書籍版に特典コンテンツとして収録されているインタビューから、その一部を紹介する。

◆ふたりの馴れ初めは……

溝口(以下、「溝」):柿沼さんとは、私がロチェスター大学大学院に留学してBL研究を始める前に、東京のレズビアン&ゲイ・コミュニティで知り合っていました。柿沼さんご自身は異性愛者ですが、英米ゲイ文学の翻訳家として。25年前くらいですね。そのおかげで、私、BL研究活動と愛好家活動を始めたのが大学院1年目1998年の秋でしたが、年末の一時帰国時から、つまり、研究のほぼ初めからご指導を受けることができてラッキーでした。「あら、あなたがそっち(BL研究)に……」っておっしゃったのをよく覚えています。

柿沼(以下、「柿」):そんなこと言ったかしら(笑)。

溝:はい(笑)。そして人を紹介してくださったりいろいろ教えてくださったり。とくに、今回電子化される『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』の第5章の、「性的嗜好/指向の詳細を相互開示する仲間──ゲイ男性との類似点」のセクションは、柿沼さんが、BL愛好家(当時の言葉では「やおい」とか「JUNE」と言っていたと思いますが)は「自分の好きなタイプのキャラクターをはっきり持っている人が多くて、その意味ではゲイ男性に近い」と教えてくださったことから論じることができました。

そこから次の「レズビアンとゲイの友情よりも、BL愛好家同士の関係性は根本的に性的である」ということと、BL愛好家は「ヴァーチャル・レズビアン」といえる、という一連の『BL進化論』のかなめの議論の起点となるヒントを柿沼さんにもらったわけです。

そんな風に『BL進化論』では柿沼さんのお名前は何箇所も出てくるのですが、そういえば歴史の証言というか、『JUNE』の初期から1980-90年代にかけての、一番盛り上がっていた時代のことを詳しくうかがったことがないことに気づきまして。今日はそのあたりのことをたっぷりうかがおうと楽しみにしてきました。

柿:初期の『Comic JUN』の時から知ってますからね。

◆『JUNE』の誕生と変遷

溝:ということは、一番最初からですよね。1978年に最初、『Comic JUN』を出したけれどいったん休刊して、『JUNE』として刊行を始めた、そのころからということですよね。

柿:そうです。早稲田大学のサークル、ワセダミステリクラブで後輩だった佐川(俊彦)くんが、「こんなの出したんですけど」と知らせてくれて。「なにこのポルノみたいなの」って最初は驚いたんだけど、だんだん文学的にソフトになっていったんですよ。

溝:佐川編集長が、創刊した『Comic JUN』を柿沼さんに見せに来られたんですか。

柿:いえ、買いましたよ。かわいい後輩が出した本ならと思って。佐川くんは二代目の編集長ですね。初代はもともとサン出版にいた方です。

溝:なるほど。佐川さんとは早稲田のサークルの先輩後輩だったのですね。

柿:あのころは「24年組」の少女マンガを愛でる男子たちが多かったんですよ。みんなで読み回したりしていました。

溝:ワセダミステリクラブで、ミステリではなく「24年組」をみんなで愛でていた?

柿:みんな、ではなく一部です。正確にいえば、一部の男子。私が大学に入ったころはちょうど『トーマの心臓』(萩尾望都、1974)の連載が始まったころで、この次はどうなるかとかたずをのんでいました。当時わりと少女マンガを読んでいる男子って多かったんです。

溝:「24年組」の少女マンガを一緒に読んでいた佐川さんが『Comic JUN』を作ったらエロ本みたいだった、のですか。

柿:版元のサン出版が、エロマンガ、つまり男子が「ヌく」ためのマンガを出しているところで、そこで、「24年組」の「美少年同士もの」の流れで何か出してみませんか、ということだから、エロ中心になるのはしょうがなかったのだと思います。ただ、表紙はたしかもう竹宮恵子さんに描いてもらっていたと思います。

『密やかな教育』(石田美紀、2008)の巻末のほうのインタビューで佐川くんが言っていたんだけど、『Comic JUN』への反応がすごく賛否両論だったと。「下品だ、やりすぎだ」という手紙も山のように来て、それを社長に見せて初めて、もう少し佐川君の望む形、よりソフトにすることができるようになったと。そこからいわゆる『JUNE』が生まれたわけですね。

◆アメリカでのゲイ文学・ルネッサンス

溝:「JUNEテイスト」については、栗原知代さんが「傷ついた子供が愛によって癒される」と定義されています。それにプラスして、「魂の救済のためには肉体の死もありうる」という意味でのアンハッピー・エンドもしばしば見られるのが後年のBL作品との違い、というのがありますよね。ところで、私は1999年から柿沼さんにBL作家さんを何人か紹介していただいたんですが、みなさん、柿沼さんのことは『JUNE』で活躍していた「素敵なお姉様」的に思っていらっしゃる感じがすごく伝わってきました。誌上に登場されたのはいつからですか?

柿:何年かははっきり覚えていませんが、1980年代はじめごろだと思います。『JUNE』の初期からかかわっていた中島梓さんが、JUNE文学ガイドの日本篇と西洋篇を載せてらして、英語圏の翻訳・未訳のゲイ小説とかもザーッと出して紹介して、それに対して読者からも「わたしこういうの知ってます!」「こういうのもあります!」みたいな反応がたくさん来て、栗原知代さんや八木谷涼子や織田杏奈さんが芋づる式に洋書を紹介されたりしていました。読者による紹介投稿を中心としたJUNE文学ガイドはそのあと江上冴子さんが中心になって連載が始まりました。

溝:後年、『耽美小説・ゲイ文学ブックガイド』(1993)に寄稿している方々ですね。

柿:そう。その特集のころ、1978、9年くらいは、エドマンド・ホワイトとかフェリス・ピカーノを輩出した「ヴァイオレット・クィル・クラブ」(1970年代後半から80年代初頭にニューヨークで活動していたゲイ作家のグループ)が盛んになっていて、アメリカでのゲイ文学のルネッサンスのようなことが起こっていました。そういった本が日本の洋書屋さんにも入ってくるようになったので、いろいろ読んでいたんです。

で、佐川くんとの雑談から、当時『JUNE』に連載されていた栗原知代さん翻訳の『愛の叫び』(1990。原書1970)がすごく人気があったので、じゃあ別の作家も紹介して下さいという話になり、1回書いてみて「あー終わった、よかった」とほっとしていたら、佐川くんから「次はいつ書くの?」と。最初は1回のつもりだったのが連載になったんです。

◆「JUNEっていうのは心の不良だ」

溝:なるほど。翻訳家デビューは1984年ですよね。

柿:そう。そうしたらデビュー後数年でゲイ文学ブームが来たんですね。『モーリス』の映画が公開されたり(日本公開は1988)。

溝:1988年に出たハードカバーの和訳版は、全体にピントが甘いし誤訳も多かったですが、10万部単位で売れたとききました。今年、光文社古典新訳文庫から新訳(翻訳:加賀山卓朗)が出たのは良かったです。

柿:そうね。で、ブームが来たので、そのジャンルに興味のある男性の編集者と組んでいろいろ翻訳して紹介できました。あの頃の「ゲイ文学ブーム」がどれくらいすごかったかというと、エドマンド・ホワイトの『ある少年の物語』(1990。原書1982)を翻訳して出したとき、発売の日は私はイギリスにいたんだけど、編集者からエアメールで「すごいです、一日で重版が決まりました」って。

一同:すごーい!

柿:あれはびっくりしました。

溝:1980年代から1990年代にかけて、英米ゲイ小説を翻訳しつつ、『JUNE』誌上では「JUNE洋書ガイド」として未翻訳のゲイ小説を多数紹介されていたころ、『JUNE』の読者さんたちの反応はどうでした?

柿:なぜ自分が男性同士の恋愛物語に惹かれるのか、理由を知りたいという人が多かったと思います。私自身も漠然としていて、はっきりとは定義できなかったけれど、「もしかしたら怒りが私をそこに向かわせたのかもしれない」というふうなことをちらっと書いたら、どどっと手紙が来ました。

……ただ、私はそこまで怒っていたわけじゃなくて。歌手の戸川純さんが「ロックって、最初に歌い始めたころは、怒ってないと歌っちゃいけないんだと思っていた。でも実際歌ってみたら、怒ってなくても歌えるんだ、自由になれるんだと思った」というようなことをおっしゃっていたんだけど、それに近い感覚ですね。

溝:なるほど。

柿:だから、私自身はその時点ですごく怒っていたわけではないけれど、『JUNE』やゲイ文学を必要とした根底に怒りがあったことは確かなんですよね。だって私が大学を卒業して社会に出た1970年代後半って、女性には本当に選択肢がなかった。お勤めを3年くらいして結婚するか、卒業と同時にお見合いをして結婚するかしかなくて。電車に乗れば痴漢にあうし、会社に行けば嫌なセクハラおじさんはいるし。そういう鬱々としたものを抱えていたことに怒っていたのかもしれない、と書いたら、すごい反応でした。

溝:共感のお手紙が寄せられた、と。

柿:そう。ただ、私の感覚としては、中島梓さんが『マンガ青春記』(1986)のなかで書いていた「わたしは普通の女の子でいなければならなかったあいだ、とどのつまり苦しかった。結構陽気に楽しくやってきたけど、ずっと私は何かが変だとは感じていた」、まさにこれでした。佐川君は「JUNEっていうのは心の不良だ」という風に言っていたけど、私は心の不良として『JUNE』を必要としていたのだろうなと思います。あのころは隠していて知られたくないというよりは、「てめーらにわかられたくなんかねーよ」って感じでしたね。

溝:「ふつう」の人たち、「一般人」にはわかられたくない、ですね。

柿:まあでも、「JUNE洋書ガイド」やゲイ文学の翻訳をしていくうちに、わかられたくないもへったくれもないわ、と変わりましたけど。

溝:プロとしてひろく世に作品を送り出すわけですものね。

柿:ただ、あの頃身内に、「こんな気持ち悪いこと考えてたって知らなかった」と言われたのはショックでしたね。

溝:それはショックですよね。

柿:ただまあ、最終的には支持してくれました。その人も英語で身を立てたかったのが戦争でダメになったので、「もうなんでもいい、英語で身を立てられるなら」って感じで。……私の場合、ショックを受けてもそこで対決はしないのよね。「ちょっと何かが変だ」。だからまさに中島梓さんの言葉通り。

◆学園ものの起源『タクミくん』シリーズと、愛の定義を再検討する『間の楔』

溝:当時はオリジナルJUNE小説とかマンガも読んでいましたか? 投稿作品が多かったわけですが。

柿:もちろん。たぶん、「小説道場」への投稿小説で一番ヒットしたのは『富士見二丁目交響楽団』(フジミ)シリーズ(秋月こお、1992-2012。外伝は継続中)でしょうけど、私たちのころは何と言っても吉原理恵子さんの『間の楔(あいのくさび)』ですね。あれは先のない愛なのよね。そこにSMやパワーバランスが強調されていて。

溝:今読んでも、業(ごう)や執着、身分差、拉致監禁……そういうような要素がつまったBLの大傑作だと思います。架空の惑星を舞台に展開する一種のSFですよね。「現実にリンクして、現実よりもホモフォビアを乗り越えていく」といった、私が「進化形BL」と呼んでいるタイプではなくて、「二者が互いを必要とするとはどういうことか?」を追求する、「愛の定義の再検討」をする作品です。それも極限まで。

柿:当時、並行して人気があったのが「タクミくん」シリーズ(ごとうしのぶ)なんですよね。あれがたぶん、その後の学園ものBLの「もと」かなという気がします。

溝:そうですね。

◆『BL進化論』の功績

溝:あの、これ、面と向かって初めておうかがいするので緊張しますが、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』をお読みいただいて、いかがでした?

柿:全体的に、長年もやもやしていたことに答えをもらった気がした本でした。もちろん、100%じゃないけれど。それは個人差や年齢差もあるから。

溝:はい。

柿:とくに、そう、231ページあたりで論じていたことで、「BL愛好家たちが誇りと恥をもって自分たちを『一般人』と区別し、いわばBLセクシュアリティの持ち主であることをたがいの間で表明し、」からのところ。なるほど確かに、って思いました。

溝:まさに柿沼さんが「BL愛好家は好みがはっきりしているという意味でゲイ男性に似ている」と言われたことがヒントになって考え抜いたところです。

柿:あと、3章の「やおい論争」のところも。ずっともやもやしていたから、「そういうことだったのね」とやっと理解できました。あの当時って、栗原(知代)さんの言い方が強いからすごく影響を与えている部分もあって、彼女が「やおいから抜け出すために戦え」と言っていたことで、傷つく人もいるわけだし、そこまで言わなくても、と思ったりしていたんです。

でも、3章を読んで、抜け出せない人のことを全否定しているわけではなかったんだなと思いました。それは、最初に問題提議した佐藤雅樹さんの投稿にしても、「ヤオイなんて死んでしまえばいい」っていう過激なフレーズが一人歩きしていたけど、全文を読んだ上で溝口さんの分析を読んで、彼も全否定が目的ではなく対話を求めていたのね、と腑に落ちるところがありました。

溝:佐藤さんの全文掲載はこだわったところです。彼のエッセイは、もとが『ショワジール』というミニコミに掲載されたものなので、原文を読んでいないのに孫引きして、「ゲイがやおいに文句をつけた」とばかり書かれていたので。

柿:あとは、同性愛の当事者がちゃんと分析し評価してくれた、というのは嬉しかったですね。それまでは異性愛女性の「おかず」扱いはゴメンだ、同性愛当事者には迷惑でしかない、という論調が多かったので。

溝:セクシュアリティというものを、「現実に誰を性愛の対象とするか」という現実の性的指向に絞って考えれば、異性愛女性とレズビアンとは別カテゴリーだけど、レズビアンでも「24年組」もBLもまったく読んできていない人よりも、脳内のセクシュアリティの部分では、BL愛好家友達の異性愛者とのほうが近いよね、という気づきがあって。

私自身がBLの祖先によって「レズビアンになれた」ともいえるな、というところから、BL愛好家は現実には異性愛女性であってもレズビアンであっても、両者ともにある意味「ヴァーチャル・レズビアン」だ、というところはとくに重要なんですけど、うまく伝えるために編集者さんに意見をうかがって何度も書き直しました。

担当編集:さっき柿沼さんが言ってくださった、「もやもやと言葉にできなかったことを、この本を読むことで言語化できた」という感想は、読者の方からも多くもらいました。何も気にせずにBLが好きで読んできたけれど、じゃあなぜ異性愛者の自分がBLを欲するのかを考えるヒントができた、と。

柿:今の若い読者もBLを純粋に楽しんでいるだけじゃなくて、やっぱり、どうして自分はそういうものが好きなのだ、という問題意識はあって、それは老若を問わないのね。

溝:もちろん、そんなことは気にせず楽しんでいるだけのライト層も増えていると思いますが、若い子でも気にしている人も確実にいます。大学で教えていることもあって、二十歳くらいのBL愛好家との出会いも多いのですが。
(協力:的場容子)

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