伊丹十三監督 入念すぎるリサーチが作品にリアリティを与えた

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昭和から平成にかけて、数多くのヒット映画を作った伊丹十三監督ですが、中でも大きな話題になったのが『マルサの女』です。同作は、仕事一筋の国税女性査察官・板倉亮子(宮本信子)と、脱税を繰り返すラブホテル経営者・権藤英樹(山崎努)の攻防がもたらす悲喜こもごもを描いた物語。今作のヒット以降、「マルサ」という単語が一般的になり、『マルサの女2』『ミンボーの女』『スーパーの女』など、“女シリーズ”も生まれました。

かねてより“お金”をテーマにした映画を撮りたいと考えていた伊丹さんは、『お葬式』の大ヒットによって多額の税金を国に納めたことをきっかけに、国税査察官を主人公にした脚本を書くことを決意。マルサと脱税者、双方の視点を巧みに組み込むことで、お金を巡って必死に駆け引きする人間の滑稽さを見事に描き出しましたが、成功は入念な下調べがあってこそのものでした。

例えば『マルサの女』に登場する脱税の手口は、どれも思わず笑ってしまうほど巧妙、かつ「脱税のプロ」じゃないと到底思いつかないような手段です。それもそのはず、そういったやり口は実際の査察官や税関係者に対して取材を行い、入念なリサーチのもと製作されたものでした。

また『マルサの女』は、国税庁の全面協力のもとに製作が進みました。伊丹さんは資料収集のために国税局や税務署を駆け回ったほか、査察部の大座談会を開いたり、当時の国税庁長官との面会も行いました。

さらに、夕焼けが印象的なラストシーンで、厳しい捜査に半年間耐えてきた権藤を落とそうと板倉が試みますが、その際の台詞は、伊丹さんの知り合いが査察に入られた時の実話を参考にしてできあがったそうです。リアリティのある様々な演出の背景には、伊丹さんのマルサさながらの執着心と血の滲むようなこだわりがあったわけです。

「映画だから」「作り話だから」は伊丹さんにとって甘えで、何事も「●●風」で満足するのではなく、時には本物に勝つつもりで挑むことが重要です。そして本物を凌駕するためには、本物に触れ、本物を知るためのリサーチが基盤となるのです。

◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売))

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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