国境を越え、アジアに上陸した「渋谷系」 タイの渋谷系シーンは今

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1990年代に一大ムーブメントとなった「渋谷系」は、当時の若者のライフスタイルに大きな影響を与えましたが、そのうねりが広くアジアにまで浸透したことはご存知でしょうか? それを象徴するのが1枚のトリビュートです。

『flipper’s players ~タイに行くつもりじゃなかった~』と題されたそれは、フリッパーズの1stアルバム『three cheers for our side ~海に行くつもりじゃなかった~』を、タイのインディーレーベル「smallroom」所属のアーティストが曲順はそのままにカバーしたもの。オリジナル盤は2007年発売で、翌年にはカジヒデキのライナーノーツ付きで日本盤も発売されました。

彼らの現在、そして、タイのポップミュージックの今を知るべくバンコクに飛んだところ、現地でうってつけの人物と知り合ったのでした。その人は、名古屋でタイカレーの店「ヤンガオ」を切り盛りしつつ、バンコクでもDJやイベントのオーガナイズなどの活動をされているDJ MOOLAさん。彼が教えてくれたのはふたりのアーティストの近況でした。

「hello」をよりドタバタポップに尖らせたカバーをした『yuri’s nominee』ことMac(マック)さんは、現在、ミュージシャンとしての活動よりデザイナー・イラストレーターとしての活動のほうが忙しいそうです。職業を越境しているのは、なんだかとっても渋谷系的です。

「日本の新しいバンドもかなりチェックしていて、先日会った時は『NEVER YOUNG BEACH』のあるMVのワンシーンを無許可で使ったTシャツを着ていました(笑)」

「Coffee-milk Crazy」をウィスパーボイス入りのエレクトロ・ポップに仕上げたCyndi Seui は、Skytone Music Production という音楽制作事務所を運営し、タイ国内外のアーティストへの楽曲提供やCM音楽などの制作をしているとのこと。

「2014年に発表した傑作EP『Toy Boy』は、日本でも即日完売し、同収録の『Hey You』の7インチシングルを日本の『Production Dessinee』からリリースし、日本デビューも果たしているんです」

そして、タイで今、流行っているのはいったいどういう音楽なんでしょうか。

「POLYCAT は『Smallroom』所属の人気シティ・ポップバンドで、トリビュート盤に参加したアーティストの次世代に当たるバンドです。2017年にリリースされた『80 Kisses』に収録された楽曲はタイのインディ音楽ファンだけでなく、国民的ヒットとなり、今やタイを代表するバンドになっていますよ。中心人物であるナくんは、日本のレコードもたくさん所有していて、先日一緒にDJした時も、山下達郎から安全地帯など、シティポップやAORな楽曲を選曲していました」

渋谷系が、音楽でアジアの国境の壁を取り払い、同時代的な動きを高めていったひとつのきっかけになっていることは間違いなさそうです。

◆ケトルVOL.48(2019年4月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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