小沢健二 都会的で詩的な世界観を読み解く文学作品6選

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今年4月、小沢健二さんがYouTubeで動画を公開し、17年ぶりのアルバム発売が告知されました。彼の作品は音楽はもちろんのこと、都会的で詩的な歌詞も大きな魅力。小沢さんの歌詞や文章に触れる時、彼が通ったであろう文学作品の面影がよぎることがあります。そこで、小沢さんの世界観を読み解くうえで、ヒントをもたらすであろう文学作品を6作紹介しましょう。

●『ローカル・カラー/観察記録:犬は吠える』 トルーマン・カポーティ(早川書房)

ソロデビュー1 st アルバムのタイトル『犬は吠えるがキャラバンは進む』の元ネタであるアラブの諺は、トルーマン・カポーティによるエッセイ集『犬は吠える』で紹介されたものです。ちなみにこの諺、作中では「周囲の批判も気にせず前へ進もう」という意味で用いられます。ソロデビューへのスタンスが窺い知れる、ウィットに富んだサンプリングです。

●『ウォールデン 森の生活』 ヘンリー・D・ソロー(宝島社文庫)

東京大学在学中、小沢さんは翻訳家の柴田元幸さんのゼミに所属し、サリンジャーなど英米文学の研究に専念します。なかでも小沢さんが在学中に触れた『森の生活』は、彼に大きな影響を与えたであろう作品のひとつ。ソロー自身が始めた自給自足生活の回顧を通し、労働や経済などの社会的なテーマを描く『森の生活』は、物語を通して様々な社会問題を浮き彫りにしていく「うさぎ!」(季刊誌『子どもと昔話』の連載)とも結びつきます。

●『ハックルベリー・フィンの冒けん』 マーク・トウェイン(研究社)

「僕はやんちゃで、冒険心旺盛な若者(『月刊カドカワ』93年11月号)。小沢さんは過去に、自身のことをそう称しました。フリッパーズのアルバム『海へ行くつもりじゃなかった』の元ネタ『海へ出るつもりじゃなかった』然り、児童文学は切り離せない存在。歌詞にみる「遠い場所」「未来の世界」への探求心も、彼の中のハックルベリー・フィンが炸裂しているからかもしれません。

●『ブライト・ライツ・ビッグ・シティ』 ジェイ・マキナニー(新潮社)

小沢さんが「嫌いな本」と言及する作品の一つ『ブライト・ライツ~』。雑誌『LES SPECS』92年11月号での柴田元幸さんとの対談によると、この作品と自身が同じ括弧で括られることが「くやしい」のだとか。一方で彼は「今まで読んだ好きな本にも、そして嫌いな本にも、影響を受けている本が色々あります(中略)中でも、嫌いな本は貴重です」(『モンキービジネス』Vol. 6)とも。彼が「嫌い」と言及するものにこそ、歌詞へのヒントが隠されているのかもしれません。

●『レター教室』 三島由紀夫(ちくま文庫)

一般的な「手紙のハウツー本」というよりは、登場人物の手紙を通し、自由な書き方を提示する本作。小沢さんが連載や寄稿でみせるリズミカルなテキストからは、『レター教室』の手紙を彷彿とさせるタッチが匂います。ちなみに小沢さんが雑誌『オリーブ』92年9月号で「私が文を学んだ本」として紹介した、文庫版『レター教室』には「突然話題沸騰 どうやら小沢健二さんのお気に入り本らしい」という帯が。小沢さんの影響力が窺えるエピソードです。

●『流れよわが涙、と警官は言った』 フィリップ.K. ディック(早川書房)

『犬は吠えるが~』収録曲「昨日と今日」の歌詞「男が1人目を覚まし」「俺の未来をきっと変えてくれ」。ひょっとして『流れよ~』の主人公・ジェイソンのこと……? このように小沢さんが好きな小説によって、歌詞に対する新たな“ 深読み”が生まれることがあります。ちなみに本作は彼がF.K.ディックの中で一番好きという作品。吉本ばななさんとの対談(『月刊カドカワ』95年2月号)では、吉本さんの著作『アムリタ』に『流れよ~』が出てくることに「ツボが似てる」と触れていました

◆ケトルVOL.48(2019年4月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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