『クレヨンしんちゃん』 作品の根っこにある「もともと大人のマンガですから」

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国民的マンガ『クレヨンしんちゃん』がスタートしたのは1990年8月のこと。1992年4月にはアニメ放送がスタートして人気が爆発し、アニメの劇場版は1993年以降、年1回の恒例行事になっていますが、最初に連載された『アクション』は大人向けの雑誌で、もともと『しんちゃん』も大人向けの要素がある作風でした。

アニメをきっかけに子供の読者が急増し、今ではファミリー向けの印象が強いのですが、読者層の変化を臼井儀人先生はどのように捉えていたのでしょうか。担当編集を務めた双葉社の鈴木健介さんは、『ケトルVOL.53』でこのように語っています

「読者や視聴者の変化は意識されていたと思います。でも、臼井先生が『もともと大人のマンガですから』とおっしゃるのは何度か聞いたことがあって。作品の根っこには、それがあったんじゃないかな」

「大人向け」を象徴する原作のエピソードといえば、幼稚園のまつざか先生と恋人の徳郎をめぐる物語。恐竜の化石を発掘するために訪れた外国でテロに遭い、徳郎が帰らぬ人となる展開は大きな反響を呼びました。

「あの話は先生も悩みながら書かれたと思います。珍しく事前にネタの相談がありましたから。当時の編集長と、増尾(担当編集者)と僕が大宮の喫茶店に呼び出されて『こういう話にしたい』と言われたときは驚きました。でも最終的には先生の『書きたい』という気持ちを一番に尊重しました。ちゃんと書くべきことは書くというか、『人生にはそういうこともある』という先生の姿勢が反映されていると思います

◆やっぱり『クレしん』は笑いがないとダメ

鈴木さんが『しんちゃん』の「大人向け」としての魅力を感じたというエピソードが、コミックス40巻に収録された「泣いたいたずらカラス」。シロ(野原家で飼われている犬)のエサを奪ったり、騒音でひろしの安眠を邪魔したりするいたずらカラスがケガをしてしまい、シロが助けるというお話です。

「初めて臼井先生からいただいた外伝の原稿だからかもしれないけれど、すごく印象深いんです。カラスとシロの交流がギャグも交えつつ描かれるんだけど、ちゃんとメッセージが込められているんですよね」

このカラスの回にコミックスでは「ハートウォーミングな話でしんみりさせちゃうゾ!!」というコピーが添えられています。

そして「感動」といえば、続けて公開された劇場版『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と『アッパレ!戦国大合戦』の2作。これによって“しんちゃん映画”は「泣ける映画」と高く評価され、大人からも注目されるようになりました。そんな反響を受けて、制作陣の間でも、映画シリーズの立ち位置を議論したことがあったそうです。

「『感動させなきゃいけないんじゃないか?』と話し合ったんですが、最後は全員が『クレヨンしんちゃんは、笑いがないとダメ』というところに行き着きました。テーマ性も大事ですけど、あくまで笑いが一番なんです。原作もギャグマンガなので、そこは同じなんじゃないでしょうか」

今年は連載30周年ということで、読者への感謝企画も考えているのだそう。新作映画も近日公開が予定されており、まだまだ末永く作品は続いてきそうです。

◆ケトルVOL.53(2020年4月15日発売)

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ケトルVOL.53-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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