映画『クレしん』新作の京極尚彦監督「絵が動くことの喜びを何より大切にした」

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近日公開される「クレヨンしんちゃん」劇場版最新作『激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の注目ポイントの1つが監督。同作は、これまで数々の話題作を手掛けてきたアニメ監督の京極尚彦氏が、初めての「劇場版しんちゃん」を手掛けています。「プレッシャーがないと言えば嘘になります」という京極監督。そのオファーは“寝耳に水”だったそうで、『ケトルVOL.53』(2020年4月15日発売)で、こう語っています。

「これまでの方はわからないですが、僕の場合はいきなり劇場版の監督を依頼されました。正直、びっくりしました。自分にとって『しんちゃん』という作品は遠い存在だと思っていましたから。実はお話を聞いた瞬間はあまりピンときてなくて。帰宅するときに自転車を漕ぎながら、『あれ? さっき劇場版の監督のオファーをもらったような気がする……』と思ったくらい現実味がなかった(笑)

理解したあとは『ぜひやりたい』と思ったんですけど、同時に自分が最近の『しんちゃん』をあまりにも知らないということに気が付きました。だから僕のほうから、映画をやる前にテレビシリーズにも参加させてほしいとお願いしたんです」

そうした経緯もあり、京極さんは2017年から『しんちゃん』のテレビシリーズの絵コンテや演出を手掛ける一方、並行して新作映画の準備も進めていったのだとか。「今のしんちゃん」と「自分の思い出の中のしんちゃん」の違いに戸惑いを感じることもあったものの、やがて最新作のコンセプトは固まっていったようです。

「最初は単純に『絵の世界を具現化できたら面白い』とぼんやり考えていました。そうしたら原作に似たような話(23巻の外伝『ミラクル・マーカーしんのすけ』)があったので、脚本の高田亮さんと一緒に、これを膨らませていくことにしました。

原作にはラクガキの王国は登場しませんし、ファンタジーのような世界は映画オリジナルの要素です。『しんちゃん』は家族ものであって、SF作品ではないですから。物語をイチから僕らで作っていたら、『これをやっていいのだろうか?』と躊躇したと思います。でも、あのエピソードがあったことで、映画の中で大きな嘘をつく勇気をもらいました。原作に背中を押してもらったようなものですね」

しんのすけについて、「昔の自分を思い出させてくれる存在」と語る京極監督。『宝石の国』や『ラブライブ!』など、CGを活用した演出がトレードマークという印象のある京極さんですが、実はCGを使うことにこだわりがあるわけではないそうです。

「CGが得意と思われがちですけど、そこの出身というだけで、CGを使わないとイヤだと思ったことはないんです。むしろ、シンエイ動画さんにはすごい絵を描ける方がたくさんいるので、『ラクガキングダム』ではCGで自分の個性を出すよりも、ハイエンドな作画で突き抜けたいと思いました。場面によってはCGも使っていますが、全体の中の味付け程度です。

とにかく今回は『絵が動く』ことの喜びを大切にしました。そういう気持ちって、アニメの仕事を長くしていると段々なくなってしまうんですよね。絵が動くのは当たり前だと思ってしまう。そこを『ラクガキングダム』では、映像を観た瞬間にテンションが上がるような画面を目指しました。ラクガキがモチーフということもあり、『絵』が持っている本来の力を感じられる作品になっていると思います」

子供の頃から親しんでいる作品に携わったことで、また新たな発見もあったよう。コロナウイルス騒動で公開は延期されていますが、一刻も早く、新しい劇場版しんちゃんを見る日が楽しみです。

◆ケトルVOL.53(2020年4月15日発売)

【関連リンク】
ケトルVOL.53-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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