コロナ禍の中で映画製作の上田慎一郎監督 「映画を撮ることで、自分がまず救われた」

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外出自粛要請が続く中で、全国のミニシアターが閉館の危機にさらされています。それらを守るためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」が立ち上がったのが、4月13日のこと。わずか3日間で当初の目標であった1億円を突破し、最終的には3億3000万円以上の支援金が集まりました。

そんなミニシアター・エイド基金の賛同人に名を連ねているのが、『カメラを止めるな!』の大ヒットが記憶に新しい上田慎一郎監督。緊急事態宣言が発令された4月7日から遡ること4日前の4月3日、自身のTwitter 上で製作を発表した『カメラを止めるな!リモート大作戦!』の未公開映像と監督・キャストのメッセージ動画を寄せました。

この『リモ止め!』は、『カメラを止めるな!』と同じく濱津隆之さん演じる日暮隆之監督が主人公。ステイホームの状況が続く中で、再現ドラマを製作してほしいという無茶な依頼に応えるため、リモートで撮影に挑むというメタフィクション作品になっています。つまり、『カメ止め!』のキャストが、私たちと同じ世界で生きているかのような演出が施されていますが、なぜ『カメラを止めるな!』の続編を撮ろうと考えたのでしょうか? 『ケトルVOL.54』で、このように語っています。

「周りの映像クリエイターたちの仕事がストップしたという声を聞いていたんです。実際にカメラが止まっている現実がある、だからこそ『カメラを止めるな!』シリーズの続編を撮る意味があると思いました。しかも現実に寄り添った物語を描くならば、同じような状況下でリモート撮影をしろ、と無茶振りされている人を描きたいなと。

それに、僕は単純にクリエイターが好きなんですよ。日暮がドタバタしながら再現ドラマを製作する過程を見てもらうのと同時に、その作品に関わっているキャストや製作陣といった実在する作り手たちの物語にも触れてほしい。『カメラを止めるな!』シリーズは、フィクションであると同時に作り手に迫るドキュメンタリーでもあるんです」

◆映画を撮ると決めたことで、上田監督自身がまず救われた

国からの休業要請を受け、ミニシアターだけでなく、全国の映画館が休館を余儀なくされました。また、映画の撮影が中断したり、新作映画の公開日が順延になったりと、新型コロナウイルスが映画界へ与えた影響は計り知れません。そんな中で撮影に臨んだ上田監督は、こんな気持ちを抱いているそうです。

「エンターテインメントに携わる人間にとって苦しい状況が続いていますが、それでも明るい気分でいることが重要な気がします。そして考えることを止めず、工夫を凝らせばできることがある気がするんですね。今回の短編映画についても、リモートで撮影なんてやったこともなかったですし、成功する根拠もありませんでした。それでも、とにかく動き出すしかないなって思ったんです」

それは映画監督としての使命感のようなものでしょうか? この質問に、上田監督は首を横に振ります。

「ミニシアター・エイド基金の賛同者の一人として、映画業界の一助になればという想いはあります。でも、そうした使命感だけではなく、単純に面白いものを製作したかったし、映画が好きな人たちに『リモ止め!』を楽しんでほしかった。そして何より、僕自身が映画を撮るぞと決めてからの方が元気になれたんですよ。自分自身が救われた感じがあったというか。

この先、映画業界にとって暗いニュースが増えるかもしれないですが、そうならないようにチャレンジすること。そして、面白い作品を作り続けること。それが重要なのかなって。僕はエンターテインメントを作る側の人間なので、深刻な声だけでは届かないところにも届けたいんです。それがエンターテインメントの力ですから」

5月1日に公開された短編映画『カメラを止めるな!リモート大作戦!は、再生回数が80万回(6月29時日時点)を突破。「自身が救われた」と語る上田監督ですが、同作が、コロナ禍で楽しみを失った映画ファンの大きな力になったのは、言うまでもないようです。

※このページの画像はサイトのスクリーンショットです

【関連リンク】
ケトルVOL.54
短編映画『カメラを止めるな!リモート大作戦!』本編-YouTube

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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