クリストファー・ノーラン監督 大学で学んだ文学がインスピレーションの源に

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9月に公開された『TENET テネット』が大ヒット中のクリストファー・ノーラン監督。彼の作品の娯楽性が“迫力あるリアルな映像”にあるとするならば、その作家性は文学をインスピレーションの源にしている点にあります。

というのも、7歳で映画を撮り、将来の夢を映画監督に定めていたノーランですが、意外にも大学で専攻したのは英文学。「映画と関係のないものを学ぶことで、物事の別の見方を得たかった」と語っているように、彼は文学の知識をハリウッド大作に活用することで、独自の作風を磨き上げていったのです。

例えば、『インセプション』は幻想的な作風で知られるアルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『円環の廃墟』や『隠れた奇跡』といった短編小説から着想を得ていますし、『ダークナイト ライジング』はチャールズ・ディケンズの『二都物語』が物語のベースとなっています。

また、ノーラン映画の主人公は、しばしば観客に対して事実と異なることを語ります。それは本人が間違いを信じてしまっているためですが、これは文学理論における「信頼できない語り手」として有名な手法。『フォロウィング』や『メメント』といったノーランの初期作品には、このテクニックが特に効果的に使われています。

ノーランは少年時代からの映画ファンだけあり、作中にさまざまな映画作品へのオマージュをちりばめています。その意味ではクエンティン・タランティーノとも似ていますが、タランティーノに対して、ノーランがよく「難解」だと言われるのは、アイデアの参照元が映画だけでなく、古今東西の文学にも及んでいることが大きいでしょう。

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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