80年代に到来した「マンガのローマ字ブーム」 いくえみ綾の“SNS的利用法”

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日本語の特徴の1つが、様々なタイプの文字が存在すること。ひらがな、カタカナ、漢字に加え、アルファベットが混ざるパターンも多く、表現に広がりと深みを与えています。マンガの世界では、1980年代~90年代にローマ字ブームが到来。いくえみ綾さんをはじめ、水沢めぐみさん、紡木たくさん、矢沢あいさんといった人気マンガ家が、コマの内外に暗号のごとくローマ字を記していました。

ファンに向けた「ARIGATO」のメッセージが記されることが多いなか、特徴的だったのは、いくえみさん。「IMA KINJO DE“KAJI”NANDA(今近所で火事なんだ)」(『うたうたいのテーマ』)、「MENKOKU WAKAMEHAJIMETE TABETA NOYO(めんコクわかめ初めて食べたのよ。※「めんコクわかめ」は日清から1984年に発売されたカップ麺)」(『POPS』)のように、まるで現代のブログやSNSのような内容なのです。

特に『以心伝心のお月さん』の1巻には注目。背景の模様に「DeFORMER NO POSTER O KAITANO WA MIKARIN DESHITA(DeFORMER のポスターを描いたのはミカリンでした)」と書いてありますが、「DeFORMER(デフォルメ)」とは、日本のエレクトリック・ヴァイオリニストであり、ROVOや渋さ知らズなどのバンドに参加する勝井祐二さんが所属していた札幌のバンド。「JOY RECORDS」から1983年に音源をリリースしており、作中のバンドマン・コージもバンドのロゴTシャツを着用しています。

「じゃあミカリンは誰?」とローマ字テキストを追い続けたところ、『以心伝心のお月さん』で百子が持つ雑誌の表紙に書かれた名前から「堀内三佳」さんであると判明……って、まさか家族モノのエッセイマンガでおなじみのマンガ家・堀内三佳先生(※釧路出身)のこと!?

ちなみに『エンゲージ』ではいくえみさんと「ミカリン」が一緒に駅のキオスクをスケッチしに行き、『わたしは夢みる少女』では「ミカリン」がどうやら上京した模様。ローマ字暗号では、他にも「MAYU NAMAE TSUKAWASETE ITADAKIMASITA(マユ、名前使わせていただきました)」「AMI HA IMAGORO…CHANTO HOKOKUSURUYONI(アミは今頃…ちゃんと報告するように)」(『POPS』)と、いくえみさんのご友人らしき名前が次々と登場します。チェックすべきは背景や枠外のほか、学校の壁紙やTシャツ、映画館のポスター、新聞・雑誌など。ファンの皆さんなら当然見逃してないですよね?

◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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