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「中村明日美子デビュー15周年 中村明日美子11冊連続刊行フェア」では、
リブレ出版から最新BL作品3作が、
太田出版から初期作品8作の新装版が刊行されました。
今年は明日美子さんが「マンガF(のちにマンガ・エロティクス・エフ)」(太田出版)でデビューしてから15年。
デビューから今回新装版となった8作品が発表されるまでの歩みを、
「エフ」歴代担当編集者3名とのトークで振り返ります。
それぞれの作品を描かれていた時の思い出話や裏話が満載です。
ぜひ作品をお手元に準備してお楽しみください。

座談会メンバー

中村明日美子
中村明日美子
2000年に『マンガF(のちにマンガ・エロティクス・エフ)』より『コーヒー砂糖いり恋する窓辺』でデビュー。以後、美しく艶やかな描線で、官能的なストーリーから爽やかな青春もの、ドラマチックなボーイズラブまで魅力あふれる作品を数多く生み出している。主な著書に『ウツボラ』 『Jの総て』 『同級生』 『ノケモノと花嫁』など。今年2015年の11冊連続刊行フェアをはじめ、『同級生』の劇場アニメ化、『卒業アルバム』増補新版の刊行など、今後の展開からも目が離せない。
T中
『コペルニクスの呼吸』から『Jの総て』まで明日美子さんのデビューを見守った初代担当。後に『ダブルミンツ』も担当。元「メロメロ」「月刊ヒーローズ」編集長。現在はアイプロダクション編集長。明日美子さんいわく「正体不明。立場が変わっても偉ぶったりしないんだけど、夏に坊主にしてきたりするのを見るとツッコミを入れる必要のある人なんだろうなって」。
U村
『Jの総て』の最後から『ばら色の頬のころ』まで、明日美子さんの飛躍の時期に立ち会った2代目担当。現在はフリーの編集者として活動。明日美子さんいわく「カルチャーに一目惚れすると完全に周りが引くくらい盛り上がって、その情熱の角度の厳しさがすごい」。
M角
『ばら色の頬のころ』後期から『ウツボラ』の立ち上げまで、明日美子さんのダークな魅力全開の作品を担当した3代目担当。現在はフリーのコミック編集者として活動。明日美子さんいわく「テニミュのチケットを束で持っていたと聞いて『オレの知っているM角じゃない!』と思った。まだ可能性に気づけていない部分がある」。

(新宿某所にて。集まって早々に思い出話が始まる)

――あっ、待ってください、録音します!

中村 (初代編集者の)T中さんと初めて会ったのが、向ヶ丘遊園。

T中 そうだったと思う。

中村 私、エロマンガ雑誌の人と会うからエロい格好をして行かなきゃいけないと思って。

T中 覚えてないや。そんなエロい格好してたっけ?

中村 そうそう。赤地に黒いレースみたいな、アクアガールで買ったキャミソールの上に一応なにか着て行って。

U村 セクシー路線で?

中村 そうそう。そしたら眼光鋭いおじさんが来たので。

――(笑)。それは、おいくつの時だったんですか?

中村 21ぐらいですね。

T中 だよね。僕が30半ばぐらいの時だったかな。服装とかは覚えてないや。

中村 まあそうでしょうね。服装なんて関係ないって、当たり前だけどね。

T中 そこは見てなかった。その前に、原稿の使い方を間違えているとか、そういう話をしなきゃいけないなあって。多分そっちの方に頭が行っていたんじゃないかな。

中村 今回の新装版作業でも、なんか(原稿の)比率が違ってたり。

――そうなんです。『鶏肉倶楽部』『コペルニクスの呼吸』の1巻だけ。『コペルニクス』の2巻からは問題なかったので、1巻の途中で気づきがあったんだと思うんですが。

T中 最初、断ち切り線を内枠にして描いてて、「ん? でけぇー」みたいな。

中村 そうなんですよ。最初はなにもかもが間違っている。

T中 でも面白さの方が大事だから、いいんだよ。本にする時、縮小すればいいだけだから。

中村 懐かしい。

――では明日美子さんは、2000年に太田エロティック・マンガ賞をとってから初めてT中さんに会われたんですか?

中村 そうですね。

T中 そうそう。

中村 「エフ」に投稿していて、マンションに帰ってポストを見たら、こう、封筒が差し込まれていて。

U村 突然受賞作が載った「エフ」が来たんですか。

中村 まあ。

U村 電話とかで受賞連絡は……

中村 電話はなかった気がするなあ。

T中 いや! そんなことはない! 連絡しないってことは多分ないと思うんだよね。

中村 本当ですか? 私、賞の黎明期だから連絡がなかったのかも。第3回の太田エロティック・マンガ賞だから。

T中 いや、でも一通り受賞者には連絡してると思うけどなあ。

中村 そうか。でも、まあとりあえず、ささってたんですよ。「あ、本当にきた」という感じだった気が。

T中 載せる前に会いに行ってなかった? 初期の「エフ」って季刊だったじゃん。だから、入賞作を3カ月も放置してないと思うけど。

一同 (笑)。

U村 みんな記憶があやふや。

――15年前の話ですからね。

投稿作は「圧倒的にいいなあ」

「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」
「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」
「緑色のすべすべした美しい身体」
「緑色のすべすべした美しい身体」

中村 T中さんはね、食べながら喋れるっていう芸当があってね。

一同 (笑)。

中村 パスタとか口の端に寄せながら、ネームのダメ出しができる。

T中 それってみんなできないの?

一同 できません!

中村 だいたい食べ終わってから。こんなことできるんだなあって思って、よく覚えてる。

――賞をとられたら、すぐに掲載するためのネームの打ち合わせを始めたんですか?

中村 そのあとは、「オタク2000」と「緑色のすべすべした美しい身体」(『鶏肉倶楽部』収録)がもう投稿してあって、それを随時載せてもらった。

T中 賞をとったあとから投稿したんだっけ?

中村 とるかわからないから、連続で投稿してました。畳み掛けるように送ってやろうって思ってたんでしょうね。

T中 宝島の「CUTiE Comic」に送ろうとしたやつ、僕がダメ出しして、送らなかったことがあったよね。あの窓から飛び降りるやつ。

中村 そうそう。今思うと、あれはもう一回やりなおせば使える。

T中 や、よく描けてたんだけど、ちょっとわかりにくいかなあって。あとは「CUTiE Comic」にとられちゃうとやだなあって。

一同 (笑)。

M角 15年ごしの本音が。

――T中さんは、最初に明日美子さんの投稿作を見た時はどう思いましたか?

T中 当時の「エロティクス」ってちょっと変わった感じの作品を投稿する人が多くて。近くに青林工藝舎があったので、そっちに寄ってから来るみたいな。そういう中ではすごく安定しててきちんとしててわかりやすいって思った。投稿でこのレベルだったら、もう圧倒的にいいなあって。審査委員長の山本直樹さんは「普通だね」みたいな顔してたけどね。

中村 そうそう。それで、あー山本さんにいつか評価されたいって思いながら今に至る。

U村 もうとっくにそれは。

中村 私のマンガが好きっていう人とそうでない人がいるから。

T中 投稿作は、わりとオーソドックスに描いてたじゃない。多分山本さんは、賞を見る時はオーソドックスなものよりも異色なものを見たいっていうところがある方だと思う。いつも「自分とは違う、刺激されるものを選びたい」という。

中村 講評ではいつもいいことを書かれてた。

T中 プロ目線で見ちゃったんじゃないですか、ある意味。「ああ、よく描けてる」みたいな。

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