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「中村明日美子デビュー15周年 中村明日美子11冊連続刊行フェア」では、
リブレ出版から最新BL作品3作が、
太田出版から初期作品8作の新装版が刊行されました。
今年は明日美子さんが「マンガF(のちにマンガ・エロティクス・エフ)」(太田出版)でデビューしてから15年。
デビューから今回新装版となった8作品が発表されるまでの歩みを、
「エフ」歴代担当編集者3名とのトークで振り返ります。
それぞれの作品を描かれていた時の思い出話や裏話が満載です。
ぜひ作品をお手元に準備してお楽しみください。

ポールの視線を求め続けるモーガンの魅力

「ばら色の頬のころ」モーガン
「ばら色の頬のころ」モーガン

――ではU村さん、モーガンについてどうぞ。

U村 私は『ばら頬』でモーガンの過去を読めることが本当に嬉しくって。その時、散々言ったと思うんですけど(笑)、私にとっては「なりたい系男子」なんですよね、モーガンは。憧れなんですよ。「見守り孤独系」って呼んでるんですけど、誰より孤独を抱えているんだけど、愛を失っていない。人を見守る人なんですよね。

M角 わかるかも。

U村 とにかくすごく優しいの。落ち込んでるJをね。

M角 そっぽ向きながらこうやって、背中に。

U村 いいんですか、私の萌え談義で。

――大丈夫です(笑)。

U村 でも傷付いてるモーガンを、やっぱり誰かが救ってあげて欲しいとずっと思っていたので。『ばら頬』ではモーガンがずっとポールを見続けるんですね。これって、ポールの視線を求め続ける話でしたね。

中村 まあそうですね。

U村 ずーっと、ポールを見てて見てて、気持ちが届かないんですよね。眠ってる姿にキスをしたりとか、見てもらえない時には正直な気持ちを出せるんだけど、目を見る時には常に対決しちゃうんですよね。こういうのがずっとあって、すごい切なくて、最後!

一同 最後!(笑)

U村 もうこの箇所だけにしますので。

一同 (笑)

U村 最後ね、決定的に、睨み合って対決で終わるんですよね。こんな至近距離で見てはもらえるんだけど、心は完全にすれ違って。でも!十数年後!大人になって!優しい瞳で見つめ合っています!

一同 (笑)。

M角 これが「エフ」名物、U村さんのイタコ。

U村 私はこの最後のモーガンで一番泣いたかもしれない。ありがとうございました。

中村 思いは伝わりました。

T中 モーガンにこんなにBL的な設定があるとは知らなかった。

中村 わりとプラトニック的な気持ちの恋慕というか。『J』を描いてた時に、なんでモーガンってこんなにポールにつっかかるのかなっていうのがあったので。自分で描いてるんですけど。

U村 『J』でつっかかる図を描いた時は、決めてなかったんですか?

中村 決めてないですね、最初は。描いていくうちに、きっと因縁があったんだろうなって。これは悲恋……って言ったらあれだけど、悲恋で終わるって決めてたから、最後を描くのをすごく楽しみにしてた。

一同 (笑)。

M角 明日美子さんはSだから。

U村 ドSだから。

中村 ギリギリのところで全部ダメになるっていうのが描けると思って。でもそれは、後々のハッピーエンドがわかってるから大丈夫。

「トースト考」のギャップの魅力

「トースト考」の1コマ
「トースト考」の1コマ

――M角さんはどうですか?

M角 メガネが好きなので、ビジュアル的にはポールなんです。明日美子さんの黒髪メガネは本当に最高で……! でも、『ばら頬』を読んじゃうとモーガンに肩入れせざるを得ない。担当していると視点が読者側にいようとするから、余計にモーガンに感情移入してしまうんですよね。

中村 そうですね。メガネが好きって聞いたなあ。

M角 明日美子さんはあんまり最後まで考えてないって言いますけど、読んでいるとその人自体は悪い人じゃなくて、何かしらそうなっちゃう理由があるんだろうなっていうのが伝わってくるので、どのキャラクターも好きになっちゃう。性善説な感じがしますね。

中村 ああ、基本はね、性善説派なんです。でも、「ということは悪い部分があるってことなので……」という感じ。なので本当は、100%いい人もあんまり描きたくない、とは思います。

M角 あと、話が逸れるんですけど、「トースト考」もすごく好きです。

一同 ああ(笑)。

中村 これ、T中さんにも褒められた覚えがあるんですよね。「これ雑誌に載せても良かったな」って言われて。

T中 単純に面白かった。トーストの旨さが店によって違うよってだけの話なんだけど。

――これは本当に人気があって、新装版にも新しく「ポテトチップ考」が載るんですけど、明日美子さんファンの社員からも待望の声が高まっています。

M角 明日美子さんががっつり『ばら頬』とかを描いている中で、ひょろっと「トースト考」みたいな半分エッセイ的なものが入ってくるのが、このギャップがすごく好きなんですよね。

明日美子さんの源流に触れる

――明日美子さん、最後に新装版に出すに当たって一言お願いします。

中村 なんでしょうね。まだ描き下ろしが全然終わってないんですけど。

T中 描き下ろしも入るの?

――全部に入ります。

M角 楽しみです。

中村 描きたくて描いてなかったのもあるので、入れちゃっていいかなって。描かせてもらう形です。でも、改めてゲラで昔のマンガを読むと、よく描いたなあって。

一同 あはははは(笑)。

U村 「オレ頑張った」って感じですか?

中村 いや、こんな話描いたんだっていう。ドラマチックだねーって思う(笑)。

U村 いいじゃないですか、ドラマチックなんて。 

中村 もっとこうなんか、さらっとした、彩度の低いのが格好いいみたいなことはできないのかやっぱり。この源流を見ると(笑)。

M角 変わらないものを感じてしまった。

中村 そうそう。「やっぱりこういうところなのかー」って思った。

T中 普通の人はこういうのは描かないよ。こういう題材が出てこないよ、普通は。

U村 本当ですね、これだけ骨太な。

中村 いやーちょっと恥ずかしいですよね、改めて。ドラマ過ぎて。

一同 (笑)。

中村 なんかもうちょっと体温の低いやつらが出てくるようなのは描かないのか。

M角 体温の低いのを描いてみたい気持ちはあるんですか?

中村 うーん。あんまり低くならないですよね。結局情熱的になっていくんだよね。

――とても良いと思います。

M角 これがルーツですし。

中村 (笑)。いやでもまあね、この歴々の担当様あっての作品ですって、思いますよ、本当に(笑)。

U村 最後にくっつけてくれました。

一同 あはははは(笑)。

――ありがとうございます!

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