鳥でも飛ぶのに失敗して墜落することはある? カラス先生が回答

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子どものみならず、誰もが一度は抱いたことがあるのが、「鳥はなぜ空を飛べるのか」という疑問だ。悠々と大空を舞う鳥を見て、人は「自分も空を飛びたい」と思い、飛行機を開発したが、鳥も時には飛ぶのに失敗して墜落することはあるのだろうか? 動物行動学者の松原始氏が動物観察についてつづった『カラス先生のはじめてのいきもの観察』(太田出版)で、松原氏はこう解説している。

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鳥が墜落するというのは(飛び方を練習中のヒナでもなければ)めったにないが、皆無というわけではない。

夏の終わり、河川敷で鳥を観察していた私は、1羽のアオサギが川岸に下りて来ようとしているのに気付いた。この日はものすごい強風だった。アオサギは翼を広げて旋回しながら下りて来るが、突風に煽られてフワッと浮き上がった。慌てて頭を下げると、今度は風がやんでスッと降下する。地面にぶつからないように頭を上げて羽ばたくと、また強風にさらわれて横転しかけ、バタバタと上空へ逃げる。風による姿勢変化が激しすぎて、安定して降下できないのだ。

特にサギ類は着地寸前の動きがデリケートである。飛行中は首をS字に曲げて縮めているが、着地する時には首を伸ばして、下を見ながらタッチダウンする。この時の体の起こし方と進入角度に加え、重心の変化がなかなか微妙なようだ。体の模様がはっきりしないので、どうやらこのアオサギは若い個体らしい。

恐らく、今年生まれの幼鳥で、独立したはいいが、まだこんな厳しい条件下での飛行は経験したことがないのだろう。よし、もうちょい……ダメだ、また吹き飛ばされた……そう思って、内心応援しながら見ていたら、アオサギは大きく旋回して仕切り直した。対岸近くまで行って深くバンクし、急旋回を……その瞬間、横から突風が襲った。

慌てて立て直そうとしたアオサギだが、間に合わなかった。アオサギは翼を90度立てて滑り落ちるように高度を下げ、さらに風に押し流されて、背中から対岸のヨシ原に突っこんだ。簡単に近づける場所ではなかったので確認に行けなかったが、あの落ち方はかなり危険な気がした。下手をすると、命を落としたかもしれない。

もう一つ、これはカラス同士の喧嘩なのだが、カラスが相手を「撃墜」するシーンを見た事がある。それは、ハシボソガラスのペアのナワバリに入りこんでしまった、1羽のハシブトガラスだった。さっさと抜け出せば良かったのだろうが、多分、餌を探してぐずぐずしていたのだろう。ハシボソガラス2羽に前後を挟まれ、完全にマークされてしまった。おまけに小学校のグラウンドに入りこんでしまい、周囲を囲むネットに阻まれてうまく逃げられないらしい。

ハシブトガラスは上空20メートルあたりまで上昇したが、後ろからハシボソ1羽が蹴り飛ばしに来る。これをかわそうとすると、もう1羽が上から襲って来る。ハシブトガラスはサッと体を90度横転させ、ヒラリと滑り落ちて蹴りをかわした。お見事。蹴りをかわされたハシボソガラスはそのまま旋回して上昇、だがその間にもう1羽が再びハシブトガラスを蹴りに来る。相手の頭上に占位し、交互に降下して攻撃をしかけるという無敵のコンボ技だ。しかも、ハシブトガラスはかわすたびに速度と高度を失い、だんだん追い落とされて行く。

ついに高度がゼロになった。ハシブトガラスは避けようとしたが高度がないことを悟り、咄嗟に足を出して急ブレーキ。つんのめるように、学校のグラウンドに滑りこんで止まった。「ガララ!」と威嚇の声を上げようとした途端、再びハシボソガラスの蹴りが頭をかすめ、ハシブトは首をすくめたまま、「ガア!」と鳴いた。

ハシブトガラスは直接的には攻撃されていないけれども、2羽がかりで墜落せざるをえないように追いこまれたのである。見事な連繋プレーと体さばき。猛禽に比べれば飛行術の劣るカラスでも、これくらいの芸当はできるのだ。

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「猿も木から落ちる」とは言うが、これらはさしづめ「鳥も空から落ちる」とでも言うべきか。条件が限られるとはいえ、墜落することはあるようだ。このほか同書では、「双眼鏡事始め」「図鑑の使い方」「空飛ぶものへの憧憬」「台風の夜」「足もとの昆虫学」「水たまりの生態系」「獣道の見つけ方」などについてつづられている。

【関連リンク】
カラス先生のはじめてのいきもの観察

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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