「クセ字」は直すより伸ばす時代? 日本初の「クセ字コンテスト」開催

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11月中旬を過ぎ、年賀状が気になる季節。書くのが面倒なのか、はたまた字に自信が無いのか、昨今の年賀状は、宛名や住所から文面まで100%印刷の年賀状が増えました。確かに世の中には、汚い字だったり、クセ字で手書きすると相手に失礼という風潮はありますが、友人の手書き文字を見る数少ないチャンスが年賀状。それが印刷に代わり、今では友人がどんな字を書くのかわかりません。そんなにクセ字はいけないものなのでしょうか?

11月16日から東京・池袋の東京芸術劇場で開催される『和様の書展』では、クセ字を個性と捉え、逆に伸ばしていこうという発想から生まれた企画「クセ字コンテスト」が開催されます。書展を主催する「わよう書道会」(文京区湯島)の代表・うどよしさんに話を聞いてみました。

──なぜこのようなコンテストを企画したのですか?

「1970~80年代に起こった『丸文字ブーム』は、教育業界や一部メディアの批判で衰退しました。今、実用面の文字はデジタル化されたことで、手書きは楷書・美文字である必要はなくなりました。企画自体は2015年頃から検討していたのですが、手書き文字の多様性が許容される社会デザインが整ったと判断して『クセ字コンテスト』を企画しました。クセ字ブームは水面下で起こりつつあるようで、今回のコンテストには、三菱鉛筆、セーラー万年筆の筆記具メーカーも協賛しています。

──一口に「クセ字」と言っても、人によって解釈に差はありそうです。クセ字の定義はどのようなものになりますか?

「メインとなる『和様の書展』は、日本初の『筆記体禁止』の公募書展です。これは、『日本の書道が日本人に読めない』という書道業界のタブー? に挑戦している書展です。だから、学校で教えない筆記体を禁止して、現在の活字体だけの書展を開催しています。その背景があるので、クセ字も筆記体禁止ですが、一般の方は、一般人が読めないほどの筆記体を書けないので、ほぼ関係ありません。

楷書(美文字)も禁止ですが、楷書しか書けない人はいないと思います。日常使っている手書き文字をクセ字と考えています。

──ただ基本的にクセ字はマイナスのイメージです。「クセ字を直したい」「手書きが恥ずかしい」と言う人について、どう思いますか?

「クセ字にコンプレックスを持ってしまい手書きを苦手にしている人は『私は“クセ字党”だから』と切り替えていけばいいと思います(来場者の方には、スマホなどに貼れる“クセ字党”シールを配布予定とのこと)。

そもそも、デジタルが得意なことで人が悩むってもったいない。どうせ悩むなら『デジタルが追随できない文字って、どんな文字だろう?』と考えた方が前向きだし、文化貢献になります。クセ字コンテストを通じて、そういう方が増えたらいいなと思います。今回は、募集終わりましたが、ぜひ、来年、参加してください!」

──逆にクセ字を伸ばすには、どうすればいいですか?

「楷書や美文字の教則本はたくさんありますがクセ字はありません。でも、今はスマホが普及しているので、好みの手書き文字を見つけたら撮影して、あとで気に入った文字だけでもマネをして書いて練習するのがいいです。これは書道では『臨書』と言われる王道の勉強方法なので鉄板です」

──今回のクセ字コンテスト作品は7cm×7cmの正方形なのは理由がありますか?

「まず企画段階で、誰もが思う『はがきサイズ』を外しました。そして、今、インスタグラムなど正方形がかわいいので、大きすぎず、小さすぎない7cmの正方形サイズとしました。額も15色から選べるようにしました。作品1点1点を集めて展示したら、全体が1つの作品になる想定です」

──筆記具メーカーからは、どのようにして協賛を得たのですか?

「筆記具メーカーさんには『楷書・美文字以外の多様性のある日本語の書き方を育成したいから協力してほしい』と伝えました。最初は『“新しい日本語の書き方”なんて考えたことがない』という反応でした。日本の筆記具は世界でもトップの品質とバリエーションを誇ります。こんなにハード面の筆記具の充実に対して、ソフト面の書き方が、楷書・美文字以外を認めない状況はもったいないと思うのです」

『第8回 和様の書展&クセ字コンテスト』は、2018年11月16日(金)~18日(日)まで、東京芸術劇場 ギャラリー2(5F奥 池袋)にて開催。開場時間は16日が15時~19時、17日と18日が11時~17時。17日には、美術評論家の黒瀬陽平氏による講演会「書家のための現代美術入門2」が開催されるほか、17と18日の13時と15時にはギャラリートークが行われる。また随時、和様体験ワークショップも開催。

【関連リンク】
第8回 和様の書展&クセ字コンテスト(後援 豊島区)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。