富山市が世界で「先進都市」と評価される秘密とは?

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富山県富山市をモデルケースとして、識者・研究者が客観的に評価・議論し、今後のまちづくりにつなげるシンポジウム「市民目線のまちづくり~富山市の都市経営にみるヒント~」が2月15日、東京・文京区の東京大学本郷キャンパスで開催された。

富山市は昨年6月、政府から「SDGs未来都市」と先駆的な事業に取り組む「自治体SDGsモデル事業」に選定された。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続可能な開発目標」を意味する言葉。国連が2015年に採択した、先進国と途上国が一丸となって、取り組むべき経済、環境、都市など17の項目で構成する目標のこと。政府はSDGsの全国的な達成のために、「地方自治体」の積極的な取り組みに期待を寄せている。

富山市はというと、2007年から持続可能なまちづくりを推進してきた、いわば他の都市にとってはロールモデルともいえる存在。その評価の高さは、日本のみならず経済協力開発機構(OECD)のお墨付きで、2012年にメルボルン、パリ、ポートランド、バンクーバーなどとともに世界の先進5都市として取り上げられた。

そんな“先進都市”富山市のまちづくりの重要施策が「コンパクトシティ(集約都市)」。人口減少と高齢化に直面している昨今、持続的な成長と住民の生活の質を高めることが求められている。その解決策の一つが、社会インフラや居住、商業施設などを効率的に集約させる都市構造「コンパクトシティ」というわけだ。富山市では、公共交通「LRT(次世代型路面電車)」の沿線に、拠点を集中させるまちづくりを実践している。

2回目となる今回のシンポジウムでは、ファシリテーターに事業構想大学院大学の田中里沙学長を迎え、ハード(公共施設や交通機関など)よりも、市民の生活の質を高めるソフト(市民サービスなどの政策)の評価に重点が置かれた。

登壇したCSR・SDGコンサルタントの笹谷秀光氏は、富山市の政策について「いろいろなライフステージに即して展開する施策の体系がすばらしい。SDGsの基本である『誰一人取り残さない』という理念が生きた政策」と総合的に評価する。さらに笹谷氏はこう続ける。

「富山市は互いに関係を築き合える場を意識的につくり、政策も効果的に組み合わせている。多くの政策が他の自治体でも応用できる普遍性を兼ね備えていると感じる」

それもそのはず、富山市では、65歳以上の高齢者を対象に市内各地から中心市街地までの乗車料金を1回100円にした割引制度「おでかけ定期券の取り組み」を実施している。中心市街地では、歩行者とLRTだけが通行できる「トランジットモール」の社会実験を行い、停車駅付近の道路空間を利用して、飲食、物販、音楽などのイベントを開催した。

子育て世代にうれしい制度もある。産後の心身の回復を目的とする市直営の施設「産後ケア応援室」、さらに保育園に預けた子どもが体調を崩した際、保護者の代わりにお迎えと病児保育室での看病を行う「お迎え型病児保育」を設置。どちらも全国初の試みだ。

東京大学都市工学専攻の中島直人准教授は、「リバブルシティを追求してこそのコンパクトシティ」だと指摘する。

「都市構造がコンパクトシティになっても、暮らしやすくなった実感(リバブル)がなければ意味がない。まず、富山市民が住みよい暮らしが前提で、結果としてコンパクトシティへと導かれる。その意味で富山市は、LRTだけでなく中心市街地の再開発やさまざまな施策がかみ合っている」

一方、東京大学都市デザイン研究室の永野真義助教は、「ハードとソフトの関係性」に着目。「さまざまな政策が人を動かすという視点に立って繰り広げられている」と評価する。

「もちろんLRTは人を動かすが、それを軸に定期券などの取り組みが合わさり、ハードからソフトまで包括的に構成されている。人口が減った分、都市の活力を維持できるかが課題となるが、それを理解して一番実践しているのが富山市なのでは」

こうした富山市の施策がほかの自治体から「先進的な事例」だと評価される背景を、富山市政策参与の深谷信介氏は、「確かに先進的だと思うが、単に新しいもの好きということではなく、富山市が潜在的なニーズをきちんとキャッチし、政策を進めているということ。それがほかの行政や一般の方には見えておらず、先進的に映っている」と分析した。

富山市の政策の今後についても深谷氏は、「多くの家庭にとって子どもが小学校に上がるまでが変化が大きい時期。今でも多くの施策はあるが、もっときめ細やかでシームレスな施策を提供し、まち全体で次世代を育てられる環境を整備していければ」と意気込みを語った。

ハードとソフトが絶妙にかみ合った、徹底的な市民目線でのまちづくりを実践する富山市。今後、その姿勢に学び第2、第3の富山市が生まれるかもしれない。

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。