「何度も言っているのに、部下に伝わらない」 この問題をどう乗り切る?

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近年、世間をしばしば騒がせる単語が「パワハラ」。2018年にアマチュアスポーツ界で相次いで起きたパワハラ事件は記憶に新しいが、組織において一定の指導は必要だ。高度経済成長時代は強固な上下関係がプラス方向に作用したが、経済成長モデルが崩壊し、ひとつ間違えばパワハラを訴えられるようになった今、どうやって部下と付き合えば良いのか? 『ノルマは逆効果 ~なぜ、あの組織のメンバーは自ら動けるのか~』(藤田勝利・著/太田出版)では、このように解説している。

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「何度も言っているのに、部下に伝わらない」
「部下を指導しているのだけど、なかなか育ってくれない」

このような悩みを頻繁に聞きます。「上司」「先輩」の重責を担う皆さんの苦労は痛いほどわかる(私もかつてそういう経験をしていましたので)のですが、この手の話を聞くたびに感じる疑問があります。それは「その部下から、あなたは信頼をされていますか」ということです。

上下関係が崩壊しつつある現代、人が人を動かす上で最後に必要なのは、信頼関係だけです。すなわち、

「この人の言うことには噓がない。共感できる」
「この人は、エゴではなく、使命感で仕事をしている」
「この人のヴィジョンを聞いていると、自分もワクワクする」
「この人は、人間として尊敬できる」
「この人は心底、自分のことを思って言ってくれている」

といった信頼感だけが、人が動く前提になるということです。一体いつから、日本企業はこの「信頼関係」という根幹を軽視するようになったのでしょうか。

◆今、必要なのは、「上下関係」よりも「横の関係」「前後の関係」

マネジメントに関する研修プログラムなどを行っている時に、「どのような上司がいてくれたら、仕事をしやすいですか」といった質問をすると、毎回上位というかほぼトップにくる回答が、「相談しやすいこと」です。逆に、「こういう上司は本当に一緒に働きにくい」という上司像の最も多い回答が、「話を聞いてくれない上司」です。

これらのコメントから見えることは何でしょうか。それは、今、特に若手の社員が必要としているのは、上下の関係ではなく、横の関係だということです。上からの目線で、行動や業績を管理する上司ではなく、適切な問いを投げかけてくれる、相談をしやすい、そういう「横にいて、様々な意見交換をしながら、アドバイスをくれる」存在を求めています。それは必ずしも「愛想がよい」「付き合いが良い」ということではありません。寡黙で一見派手さのない人であっても、「この人には相談しやすい」という人には、部下からの信頼が集まります。

さらにもう一つ。「上司に対する期待」で上位にくることとして、「トラブルが起きた時、自分でどうしても解決しきれない時、手助けをしてくれること」があります。部下が自力で打開できずに苦しんでいる時には、率先垂範で自ら矢面に立ってリードする前後の関係も、信頼関係を築く上で不可欠です。

◆ノルマではなく「自分の言葉」で語ることが信頼関係に繫がる

ピーター・ドラッカーが信頼関係について語ったこの言葉を、私はとても重要な教訓としていつも噛み締めています。

「信頼するということは、リーダーを好きになることではない。常に同意できることでもない。リーダーの言うことが真意であると確信を持てることである。」(ドラッカー 『未来企業』より)

自身も納得できていないノルマ数字をいくら部下に語っても、信頼関係は築けません。ノルマに頼るのではなく、自分の心から湧き出る思い、「真意」を込めた言葉で語ることで、初めて信頼を得ることができるはずです。

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最近の若者を「甘え」「ゆとり」と切り捨てるのは簡単だが、そもそも会社は自由意志によって働くもの。今までの「黙って上の言う通りにやれ」というやり方がおかしかっただけのことで、ある意味で健全な変化だ。時代はまもなく平成から次の時代に移るが、上司が意識変革の先頭に立てば、自ずと道は拓けてきそうだ。

◆『ノルマは逆効果』藤田勝利(2019年2月19日発売/太田出版)

【関連リンク】
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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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