周防監督が語る伊丹映画の魅力「面白さとリアリズムの両方が味わえる」

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2019年の邦画界の注目作品が、周防正行監督の4年ぶりの新作『カツベン!』(12月公開)です。社会現象になった『Shall we ダンス?』(1996年)、大学の相撲部が舞台の『シコふんじゃった。』(1991年)、痴漢冤罪を描いた『それでもボクはやってない』(2007年)など、数々の話題作を発表してきた周防監督ですが、『カツベン!』は、映画がまだサイレントでモノクロだった頃に活躍した「活動弁士」の物語。成田凌、黒島結菜、竹中直人らが出演します。

久々の新作に大いに期待が集まる周防監督ですが、大きな影響を受けたのが伊丹十三監督です。周防監督は、大ヒットした『マルサの女』の2作のメイキングで監督を務めましたが、伊丹監督からどのようなことを学んだのでしょうか? 『ケトルVOL.47』で、このように語っています。

「なかなかOKが出ないのは日常茶飯事。じゃあ、OKが出るのはどんなカットなのかというと、まず伊丹さん自身が面白いと直感できるもの。直感できないときは、僕が『なぜ視聴者はこれを面白いと思うのか』という理由をきちんと説明でき、その説明を伊丹さんがなるほどと納得できればOKなんです」

NGばかりだったからこそ、「一発OK」をもらえたときはよく憶えているという周防監督。ただ、『ファンシイダンス』(1989年)ではキツいダメ出しを食らいました。同作は、本木雅弘演じるお寺の家庭に生まれたバンドマンが僧侶になるために修行に奮闘する物語でしたが、伊丹さんの評価は厳しいものでした。

「伊丹さんはあの作品、好きじゃないんです(笑)。主人公がどこへ行こうとしているのかわからない、良くも悪くも日本映画だね、といわれてしまいました。だったら、主人公がどこからどこへ行くのかはっきり分かる、娯楽映画の王道のようなものを撮ってやるとつくったのが『シコふんじゃった。』でした」

周防監督の作品を「良くも悪くも日本映画」と評した伊丹さん。その根底には、アメリカの娯楽映画に負けない作品づくりへの意志がありました。周防監督は、『マルサの女』を例に、このように解説しています。

「そもそも公開当時『マルサ』という存在を知る人が、ほとんどいなかった。あまり知られていないものにある面白さを発見し、さらにアクションや推理的な要素も盛り込んで、娯楽映画として成立させていますよね。良い意味で日本映画らしくなく、ハリウッドにも負けない作品づくりを目指したことが、ここに表れていると思います」

ハリウッドを思い浮かべていたとは、やはりスケールの大きさは驚異的。周防監督は伊丹さんについてこのように語っています。

「やっぱり伊丹さんは、日本で起こっていること、日本の現実、つまり日本人そのものを描き出そうとしていたと思うんです。人に会い、取材を重ねる映画監督でしたし、作品をつくった末、暴力にさらされることだってありました。それでも撮り続けたし、娯楽映画としての面白さも追求し続けた。だから伊丹作品は、面白さとリアリズムの両方が味わえるのだと思います」

伊丹さんが残した映画はわずか10作品ですが、その意志は周防監督に確実に受け継がれているようです。

◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)

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ケトルVOL.47-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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