丸屋九兵衛が『GOT』を語った
丸屋九兵衛が『GOT』を語った
映画・演劇・ドラマ

歴史マニア・丸屋九兵衛が超人気ファンタジー作品『GOT』を語る

HIP HOP、R&Bを専門とする編集者、ライターとして活躍してきた評論家の丸屋九兵衛だが、その興味の対象は学術分野からサブカルチャーまで幅広い。そんな丸屋が、いわゆる「おたく」なテーマについて語る人気のトークショーが【Q-B-CONTINUED 】だ。

2019年12月7日にBasement GINZAにて開催された第31回目のテーマは「2010年代を代表する傑作ファンタジー」として全世界で人気を集めたドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GOT)。とはいえ丸屋は2019年4月のイベントでも『GOT』を取り上げたばかり。なぜ、ここまで入れ込んでしまうのだろうか?

それは同作が<万人受けする大河ドラマ>であると同時に、SF、歴史、軍事といった丸屋の大好物が詰め込まれた<オタク向けのマニアックなファンタジー作品>でもあるからだ。今回は丸屋が最も多くのことを語った「歴史」という切り口から、かいつまんでトークの内容をお伝えしていこう。

◆史実のサンプリングと再構築が「GOT」のリアリティの源

『GOT』に登場する服にはボタンがついていないことをご存知だろうか。「衣服を閉じるパーツとしてのボタンが登場したのは13世紀のドイツ。その後にヨーロッパ全体に普及したため、七王国時代(409〜825年ごろ)や、ランカスター家とヨーク家が争った薔薇戦争(1455〜1485年)をモデルとした『GOT』の世界には存在しないんです」と丸屋は語る。また当時は現在のような二枚の金属板をボルトで繋いだ鋏も普及していなかったため、髪を切るシーンにも一枚の金属板を加工した「握り鋏」が採用されているという。

その他にも歴史マニアも唸るディテールが数多く詰め込まれている『GOT』だが、中でも色濃く反映されている(と言われている)のが、英国の中心であるブリテン島の歴史だ。主な舞台である<ウェスタロス大陸>は、ブリテン島南端に、上下反転したアイルランド島を合体させた姿で、物語に登場する国や民族もまたブリテン島の歴史を参考に創作されたと言われている。

例えばウェスタロスの先住民<森の子ら/巨人/ホワイトウォーカー>は、ブリテン島の先住民であるピクト人、東の大陸エッソスから来て、先住民と争うも和解した<最初の人々>はケルト系のブリトン人やゲール人を思わせる。また大陸エッソスから来て<最初の人々>を追いやった<アンダル人>のモデルが、ブリテン島に渡来してケルト系を駆逐したアングロ・サクソン人であり、ウェスタロス大陸を征服したヴァリリア貴族<ターガリエン家>のモデルがブリテン島を征服して王となったフランス諸侯ノルマンディー家であることは、ほぼ間違いないと言っていいだろう。

また英国史において、ブリトン〜ゲーリック期とアングロ・サクソン期の間には、ローマ帝国による植民地支配の時代が存在する。当時、文化の最先端をひた走っていたローマ人たちが、先住民ピクト人の野蛮さに恐れおののいて築いた防御壁「ハドリアヌスの長城」こそが『GOT』に登場する高さ700フィート(=約213メートル)の<壁>のモデル。しかしハドリアヌスの長城は、元々4〜5メートルとかなり小ぶり。現在は風化や近隣住民による「再利用」などによって更に小さくなっているため、実際に長城を目の当たりにした『GOT』原作者ジョージ・R・R・マーティンは「壁、ちょっと大きくしすぎちゃったかな…」と苦笑したという。

◆英国史上に残る実在の人物をミックスしてキャラクターを創作?

同作に登場するキャラクターの設定もまたイングランドに実在の人物の特徴を組み合わせて作られているという。例えば、物語の鍵を握るトリックスターの<ピーター・ベイリッシュ(通称リトルフィンガー)>は『君主論』で知られる思想家のマキャヴェリと清教徒革命で王を倒して独裁体制を敷いたオリバー・クロムウェル、若き暴君<ジョフリー・バラシオン>は「不義の子だった」との噂があるイングランド王太子エドワード・ランカスターと早世したイングランド王エドワード6世、そしてランカスター朝最後のイングランド国王ヘンリー4世を組み合わせて作られたキャラクターだと丸屋は推察する。

こうした「本当を組み合わせて作った嘘」の集積こそが、剣とドラゴンが登場するド定番のファンタジーを「歴史マニアも唸る本当にありそうなフィクション」へと昇華し、作品を世界的ヒットへと導いたのだろう。原作者のジョージ・R・R・マーティンは次のように語っているという。

「フィクションとは本質的に作り話であるがゆえに、核の部分では何らかの本質を貫くべき」(ジョージ・R・R・マーティン)

ちなみに今回取り上げた『GOT』の元ネタは、ほとんどが公式に明かされているものではない。しかし謎は謎のままで良いのだろう。答えの出ない元ネタ探しを通じて、英国史を学ぶ豊かな時間を過ごさせてくれることもまた『GOT』の魅力といえるはずだ。

なお丸屋による『GOT』をテーマとしたトークショーは、2020年1月に大阪でも開催される予定。『こんな記事では全然物足りない!』とおっしゃるマニアックな皆さんは是非とも足を運んで、丸屋氏の濃厚な『GOT』トークを思う存分楽しんでいただきたい。

2020年1月6日(月)
今こそ『ゲーム・オブ・スローンズ』総決算!
【Q-B-CONTINUED in Osaka】DAY1
OPEN 18:30 / START 19:30
前売り2000円 / 当日2500円 ※要1オーダー500円以上

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