『ケトルVOL.51』(プレステ特集/太田出版)
『ケトルVOL.51』(プレステ特集/太田出版)
ゲーム・アニメ・コミック

グランツーリスモ開発者 「人と競うことの楽しさをフェアにしていきたい」

Amazonより
『ケトル VOL.51』 上田文人、原田勝弘、吉田修平、外山圭一郎、後藤禎祐、押切蓮介、米光一成、速水健朗、隅…ほか

ゲームの世界でシミュレーションを重ねたプレイヤーが、現実世界のカーレースで優勝してしまう──夢のような話ですが、これは実際に起きた事件。2016年、岡山で開催された全日本F3選手権第6戦で『Gran Turisumo(以下GT)』プレイヤーであるヤン・マーデンボロー選手が優勝を果たしました。

1995年の発売から、多くのゲームプレイヤー、もといカーマニアを唸らせてきたGTシリーズ。“実在する自動車を登場させる”“現実の自動車の動きに限りなく近い挙動”といったこだわりの要素は、根っからの車好きであるゲーム開発者・山内一典さんが考案したものですが、このゲームを生み出すまでには、数々の苦労があったそうです。

「最初に企画書を提出したときは却下されましたね。当時、ゲームにリアリティを追求する、ということ自体が考えとして無く、かつ実際に自動車メーカーのライセンスを受けて作ることに前例もありませんでした。その後、ファミリー向けレーシングゲームの制作を経て、技術的な面での実現可能性が高まり、PS向けソフトとして、GTのプロジェクトが始動します」(山内さん。以下同)

GTを作るにあたって、はじめに山内さんはトヨタやホンダ、ダイハツなどの国内大手自動車メーカーへのライセンス交渉から始めました。そして、最初にライセンスを獲得したトヨタを皮切りに、徐々に他のメーカーからもライセンスを獲得。実際の制作に入ると、物理シミュレーションを導入し、実際に運転する時の自動車の動きに限りなく近づけることを目指しましたが、やっと納得できるクオリティに達したと感じたのはここ10年程の話だそうです。

「2008年にシトロエンと組んでコンセプトカー『GT byシトロエン』を開発した頃から、ようやく本物の自動車産業の皆さんが、パートナーシップを結びたい、と思えるくらい精度の高いものになってきたと感じました。そして今のプレイヤーの中にも、GTで自分が使っている自動車を実際に購入する層というのが存在するらしく。GTが最初に出た20数年前、当時20代のGTをプレイしていた人が40代とかになって、社会的な成功を収め、フェラーリやポルシェを買ったりするんです」

コンセプトカー発表と同年の2008年、GTからレーシングドライバーを生み出すプログラム「GTアカデミー」が始動。2018年にはFIAと合同による世界選手権「FIAGT選手権」も開催され、まさに、バーチャルがリアルの垣根をどんどん越えていっているのです。山内さんは今、GTを「フェアに誰でもモータースポーツを楽しむためのツール」と捉えています。

「もともとモータースポーツは貴族にしか味わえない趣味でした。スポーツカーを買えるほどのお金を持っている人だけがレースに出られるのではなく、ビデオゲームがお金の面をカバーすることで、フェアなコンペティションが生まれると思っています。そういう意味で、ゲーム機は今後もっと社会的な存在になっていくんですよね。

だから僕は、ゲームにおける体験をもう一段広い意味で捉えます。簡単に言うと、ゲームを通して人を幸せにできると思ってるんです。むしろGTにはそれだけの責任があると思ってます。僕が最新の『GT SPORT』で掲げる目標は、今後100年のモータースポーツをデザインすること。それはもうリアル・バーチャルの域を超えるプロジェクトです。自分が向上していくことや、人と競うことの楽しさをフェアにしていきたい」

ごくごく一部の人のものから、より多くの人が楽しめるものに──GTの世界観は、これからもモータースポーツの新たな地平を切り拓いていきそうです。

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