スティーヴン・キング 怖がりだから見つけられる日常生活の恐怖

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現在、映像業界ではスティーヴン・キングが大ブーム。2019年だけでも『IT』チャプター2、『ドクター・スリープ』、『イン・ザ・トール・グラス』の3本が映画やドラマ化され、2020年初頭には『ペット・セメタリー』も劇場公開されました。

今日に至るまで、多種多様なトラウマを読者や視聴者に与えてきた作家、スティーヴン・キング。しかし、実は本人、大の怖がりだそうです。だからこそ日常潜む恐怖の欠片を拾い上げることができ、キャラクターに投影することで共感性の高い「怖さ」を持つ物語を生み出すことができるのです。

『イット』のジョージィがそうであるように、キングも暗闇が怖くて仕方ありません。寝る時は必ず電気をつけ、両足は万が一、冷たい手で掴まれないよう、毛布でくるむ。さらに「文明の力」も恐れるキング。人間が作ったから、同じく壊すこともできる。そんな当たり前の考えを覆した『クリスティーン』は、機械の反乱への恐れが描かれています。

多くの恐怖は、彼自身の記憶や心理の深いところに沈殿しています。洗濯への恐れは「もし書けなくなったら、再び自分はクリーニング屋に逆戻りしてしまうのでは」という売れない時代のトラウマに基づいたもの。興味深いことに、彼の作品内では洗濯をするという行為が毎度、印象深く使われています。事実、無実にもかかわらず服役する『ショーシャンクの空に』の主人公は、罰として洗濯を課せられている。そういった自身の経験に結びつく恐怖の源の最たる例は、父親でしょう。

既に、彼の初期の作品である『キャリー』から、父親は不在でした。その後『シャイニング』に始まり『1922』や『イット』、『黙秘』などで「父」は家族に危害を与える邪悪な存在として描かれます。しかし、真の恐怖は父そのものではなく、家族を愛するキングが父と同じ道をたどることでした。その葛藤は『ドクター・スリープ』で、より直接的に描かれています。

あらゆるものを怖がるにもかかわらず、なぜキングは恐怖を書き続けるのか。1983年に行われた公立図書館での講演で、彼は次のように語っています。

「社会には恐怖感に満ち溢れた人々がいて、精神科を使う。僕はそうした精神療法を、小説を書くことで行い、しかもそれでお金をいただいている。最高ですよ、とてもやめられません」

怖がりだからこそ人が何を怖がるかが分かり、それはすなわち人を怖がらせる方法も分かるということ。本人が言う通り、やめられない仕事なことは間違いないようです。

◆ケトルVOL.52(2020年2月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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