藤田和日郎 「どんなに怖い物語でも、最後は明るく終わらせたい」

カルチャー
スポンサーリンク

昨年から今年にかけて、作品の映像化が相次いでいる“モダンホラーの帝王”スティーヴン・キング。現在、週刊少年サンデーで『双亡亭壊すべし』というモダンホラーを連載中の藤田和日郎さんは、キング作品からモダンホラーのなんたるかを学び、そして漫画家となったそうです。どんなところにその影響が現れているのでしょうか? ケトルVOL.52でこう語っています。

「人間って自分にとって嫌なことを何かしらカテゴライズして安心したい気持ちがあると思うんです。たとえば、説明しがたい恐怖を化物のせいにするとか。これはキングがよく使う手法の一つですが、僕はその化物に『とら』と名付けて一番強い味方にすれば少年漫画的に面白いんじゃないかと考えました。そうして生まれた作品が『うしおととら』です。

キング作品にはバディものはあまりありませんが、弱い人間が恐怖に立ち向かって最後に勝つ展開は共通していますよね。ほら、『デッドゾーン』でも事故に遭って全てを失った数学教師が、大義のために行動するじゃないですか」

そうした恐怖の取り扱い方法だけでなく、段階ごとに事象を重ねていくことで物語にリアリティを感じさせる語り口、物語の運び方などもキングをお手本にしたという藤田さん。じっくり物語を進めるキング的な手法は、『双亡亭壊すべし』でも取り入れているそうです。

「少年漫画の場合、主人公は最初の2、3ページで登場させるのが定石とされています。そうしないと読者が飽きてしまうから。でも『双亡亭壊すべし』の場合、主人公が登場するまでに10ページぐらいかけているんですね。モダンホラーを題材にするなら、それくらいは設定の説明に費やす必要があると思って。まだ早いまだ早いと、焦る気持ちを抑えながらじっくりと物語のベースとなる背景を描写していきました。キング作品と比較したら、それでも早いですけどね(笑)」

ただ、一方では「そのままやってしまったら『キングがやればいいじゃん』となってしまう」と、キングに近づきすぎないようにしているのだとか。『双亡亭壊すべし』は今後、どのように展開していくのでしょうか?

「本当は10巻程度で終わらせる予定だったんですけど、気づけば15巻まで発売されているんですよね(笑)。だから、そろそろクライマックスに向けて描いていこうと考えています。一つ決めているのは、バッドエンドにしないこと。先ほども話した通りキング作品の中には『なんでこんなものを読ませたんだよ』と文句を言いたくなるくらい気持ちが落ちるものがあります。

でも、僕の漫画ではそれはしたくありません。読者に向かって嫌なことを言いたくないんです。そうでなくても読者となる若者たちは、現実で親や教師から口うるさく注意されたりしているかもしれませんから。どんなに怖い物語を描いていたとしても、最後には『明日も頑張るか!』と前向きな気持ちになれる。そんな明るい終わらせ方をしたいですね」

キングの作品は、想像し得る最悪の結末を用意することでも知られていますが、『双亡亭壊すべし』はそういった“心配”は不要なよう。この先、“終わって欲しくないけど、結末が読みたい”という葛藤が続くことになりそうです。

◆ケトルVOL.52(2020年2月16日発売)

【関連リンク】
ケトル VOL.52-太田出版

【関連記事】
スティーヴン・キングとジョージ・ロメロ 「帝王」と「巨匠」の共通点
「ホラーの帝王」スティーヴン・キングを作り上げた4人の作家たち
スティーヴン・キング 怖がりだから見つけられる日常生活の恐怖
スティーヴン・キング 子供ならではの想像力を言葉に換えて恐怖を演出

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
ケトル VOL.52
太田出版