【#わたしの大好き】Cafe Mambaのアメリカーノ

暮らし
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雑誌『ケトル』は、6月号として「みんなの大好き」特集を制作中。みんなの大好きをつくる方々と、各々が好きなものに焦点を当てた内容になります。そして現在、note公式アカウントでは、特集「みんなの大好き」にちなんで「#わたしの大好き」をテーマに1000〜1500字のコラム・エッセイを募集中。新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく様々なものと距離を取らざるを得ない日々が続きますが、「いまは触れらないが、収束後は……」「外では難しいが、今は家の中で楽しんでいる」「あらためて自分にとって大切なものだと気づいた」など、大好きなものや、愛が深まったものへの想いを寄稿いただいてます。今回はその中から、mineoさんの原稿を紹介させてください。

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”大好きなものは何か”。簡単でいて難しい問である。というのは、尋ねるには易いが答えるには難しい、ということだ。”好きなもの”ならたくさん思いつくが、”大好き”となると格段に難しくなる。女性はそれを簡単に言ってのけてしまったりするのだが。

ということで、私の”大好き”は表題にもあるとおり、ニュージーランドの首都ウェリントンにあるカフェ、Cafe Mambaとそこで飲むアメリカーノである。

今現在、訳あって日本に一時帰国しているが、普段はウェリントンを生活の拠点としている。そこでの暮らしは東京なんかより遥かにスローで、日頃のストレスが顔に出ているような人はまったくと言っていいほど見かけない。私自身もそうした生活を享受しているのだが、そのうちのひとつの習慣が、仕事前にかならずこのカフェに寄ってアメリカーノを飲むことだ。

●’’落ち着いた”カフェ

私ぐらいの年頃だと小洒落た、イキった雰囲気のカフェに皆行きたがるが私の場合は真逆で、そういった人たちの少ない、雰囲気も含め静かで落ち着いた場所が好きだ。日本にいたときもチェーン店ではなく、薄暗くて紫煙が充満していて、昼間からスーツ姿のおっさんが新聞を広げているような弛緩しきったカフェを探してはよく入っていた。

ウェリントンではどうかというと、チェーン店なんかより個人でやっているカフェのほうが遥かに多くて、その大半が若い人が時にキビキビ、時にのんびり接客している感じだ。しかし、Lambton Quayという大通りからひとつ折れた小径に店を構えているCafe Mambaの店員は、全員(おそらく)40代のお母さんたちだ。それだけで落ち着く。学校が休みになると息子が手伝っていたりする。ほぼ毎日通っているからいわば常連なわけだけど、鬱陶しいほどにかまってこないのもまた良い。

たまに気がついたときには何か天気のこととか、最近あったニュースについてとか、そういうことを一言二言話すぐらいの距離感である。かといってよそよそしいかといえばそうではなく、いつもより早く行ったりすると”もうそんな時間だったかしら?”とおどけてみせたりする。調度良い心地よさの距離感なのだ。

仕事がはじまる30分〜1時間前ぐらいに行ってゆっくりコーヒーを飲みながら過ごすのだが、その時間があると無いではその後の気分がまったく違う。

●理想的なアメリカーノ

そんなCafe Mambaで必ず頼むのが、アメリカーノだ。

元々コーヒーを甘くして飲むのが好きでないので、ブラックでしか飲まない。そうなると、日本だとドリップが主流だからいくらでも選択肢はあるのだけど、エスプレッソ主流のニュージーランドだとロングブラックかアメリカーノか、ということになる。しかしロングブラックだと、吝嗇な性格には少なく感じるので自ずとアメリカーノ一択になる。

アメリカーノは、エスプレッソを熱湯で薄めてドリップと同じくらいの濃さで飲むスタイルだが、だからこそエスプレッソを淹れた時点で味に違いが出てくる。理想の味を求めて様々なカフェを渡り歩いたがどこも薄すぎたり酸っぱすぎたりして、最終的に辿り着いたのがCafe Mambaだった。途中で嫌にならない、冷めても飲める味なのである。サンフランシスコに行った時に飲んだブルーボトルコーヒーのブレンドもそんな味がしたのを良く覚えている。ウェリントンでは、日本のチェーン店のように作り置きなんて言語道断、必ずオーダーが入ってから一杯ずつ淹れるのはどこの店も変わらない点、とても贅沢なコーヒー行脚をしたと思う。

お気に入りのカフェに毎日のように通い美味いコーヒーを飲む、という日常の一部が今となってはとてつもなく非現実的なことになってしまった。一刻も早くその日常に戻りたい次第である。かしこ。

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いただいた言葉の一つ一つが、また誰かの文化との出会いになれば幸いです。お好きなものについてぜひご寄稿ください。宜しくお願い申し上げます。

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。