オンライン演劇の挑戦の三浦直之 コロナ騒動は演劇をどう変える?

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コロナ禍により演劇界が沈黙を余儀なくされる中、「オンライン演劇」という試みに挑戦したのが、三浦直之さんが脚本・演出を務める劇団・ロロ。ビデオ通話ツール・Zoomを活用し、短編劇プロジェクト『窓辺』を生配信しました。演劇の魅力は、俳優の息遣いを肌で感じられることですが、三浦さんはオンライン演劇に挑戦する中で、自身の「演出家」という役割の捉え方が変化したそうです。ケトルVOL.54(2020年6月16日発売)で、このように語っています。

「僕は今まで、すでに観客席が整えられた環境でしか演劇をやってこなかった。でも、オンライン演劇は、観客席が設計されていません。『窓辺』で痛感したのは、ただ作品を作って俳優が演技するだけでは演劇にならないということでした。

もともと演出家がもつ役割の起源というのは、舞台美術に通じます。だから演出家という仕事の中に、客席をどういう風に作るか、という環境づくりも自ずと組み込まれていたんです。オンライン演劇を始めてから、特にそのことを考えるようになりました。オンラインを続けるにしても、劇場に戻って演劇を続けていくにしても、その経験はポジティブに働くかな、と思っています」

これまでの常識では、観客の居場所は舞台の向かい側にある客席。しかしオンライン演劇では、観客ひとりひとりの住む自宅が客席となります。三浦さんは「鑑賞する環境」にも演劇の可能性を探ることができるのでは、と気づきました。

「一つは、家の中の特定の場所を劇場にしてしまうこと。劇場は演劇に集中されるように設計されているけど、家の中はノイズが多いですよね。例えば演劇が始まったとき、観客には家の中で特にプライベートな空間で鑑賞してもらうのはどうかなと思いました。プライベート、かつ余計な情報も少ない場所……トイレ・シアターはありえるかもしれないですよね(笑)。上演する時間だけ観客はトイレにこもり、オンライン演劇を観てもらうんです。

もう一つは、家の中にいろんな情報が溢れている状態を逆手に取ること。実は家の中での鑑賞体験って野外劇に近いんですよね。野外劇は車の走る音や、周りを歩いている人など、外の情報が多い。室内に情報が溢れていることは、野外劇の環境につながるかも、と思っています」

今回、上演された『窓辺』は、離ればなれになった人々が、ディスプレイを隔てて対話する世界を描いた作品でした。ポスト・コロナ時代を迎えたロロは、次にどのようなテーマの作品を生みだすのでしょうか?

「ソーシャル・ディスタンスを経験したからこそ、抱きしめ合うという行為がどういうことなのかを、より深く考えていくことになると思います。僕はもう一度、恋愛や性愛について描きたいと思いました。性愛って考えてみると、めちゃめちゃ濃厚接触なんですよね。生身の身体に触れることや、触れることで生まれてしまう暴力性に、どうやって人が向き合うかに興味があるんです。コロナを通し、問題への意識がより深まったと感じました」

コロナ騒動はいまだ猛威をふるい、人々の心は暗く沈みがちですが、“人と会う”“人と話す”“人と触れ合う”といったことの大切さを改めて考えさせる機会になりました。劇場は密集が避けられないため、新たな形を模索する動きは今後も出てくるはず。苦悩を通過した演劇界がどんな表現を生みだせるのか、真価を試される時を迎えているようです。

◆ケトルVOL.54(2020年6月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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