『ケトルVOL.55』は「はじめての本」特集
『ケトルVOL.55』は「はじめての本」特集
読書・コラム・レポート

内容や不備を確認する校閲者 極限まで正確さを追求するその仕事ぶり

Amazonより
『ケトル VOL.55』 さやわか、大森望、宮崎智之、橋爪大三郎、池澤夏樹、玉城ティナ、米代恭、遠野遥、野中モ…ほか

Webを主戦場に活動し、ツイッターのフォロワー数が14万人を超えるライターのカツセマサヒコさんが、初の著書となる小説『明け方の若者たち』を6月に上梓。Webメディアでは校閲者が携わることは稀で、きめ細かな朱字が新鮮だったそうです。同作に朱字を入れたのは、数々の名作を校閲してきた幻冬舎の校閲部。内容や不備などを確認する校閲者がどれだけ正確さを追求しているのか、実際に朱字が入れられた箇所を教えて頂きました。

●「ひげ」という言葉の漢字の違い

実は「ひげ」という言葉、生えている箇所によって漢字が異なります。口まわりは「髭」、頬は「髯」、顎は「鬚」。初校で何の気なしに「顎に蓄えられた髭」と書いたカツセさんですが、校閲者から「顎に限定する場合『鬚』を使いますが、そのままでよいですか?」と指摘が入りました。

それによってカツセさんは「口元に蓄えた髭」と表現を訂正することに。たった一文字の漢字ですが、顎だけに生えているのか、それとも口まわりに生えているのかで登場人物の描写は大きく変化します。カツセさんにとっても表現の奥深さを感じさせる朱字だったそうです。

●間違いに対する指摘がある安心感

数年にわたって物語が展開する本作。カツセさんは、エクセルで年表を作り、それに照らし合わせながらストーリーを組み立てていったそうです。ところが、途中で時系列にズレが。そういう間違いに対しても校閲者から鋭い指摘が入ります。

「サッカーでたとえると、校閲者はディフェンダーですよね。きちんと後方で守ってくれる人がいるという安心感があるからこそ、自分はフォワードとして思い切り走り抜けることができました」

とカツセさんは安堵を口にします。

●「おつかれさま」と「お疲れ様」

作品では、僕から彼女へは「おつかれさま」、僕からその他の人へは「お疲れ様」、彼女からは「おつかれさま」、その他の人は「お疲れ様」と、同じ言葉でもその都度の話者によってひらがなと漢字が使い分けられています。

実はこれ、偶然の産物だったとか。初校の段階ではただの表記揺れだったのですが、そのことに気づいた担当編集者がルールを整理。結果として、登場人物の距離感を説明するための小さくも重大な機能として働くことになりました。カツセさんはこの指摘があった時、「この人が担当編集で良かった」と思ったそうです。

●差別用語を使うことで伝わること

世の中には知らないだけで様々な差別用語があります。たとえば、曲のタイトルで有名な「女々しい」も実はその一つ。ただ、小説の場合、言葉の持つニュアンスや発言する場面によっては言い換えが利かないこともあるため、そういう表現をあえて使うシーンもあります。「気が狂いそう」も本来であれば避けるべき表現の一つですが、そのまま使用することで登場人物のどうにもならない心情を伝える大きな役割を果たしています。

◆ケトルVOL.55(2020年8月17日発売)

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