『ケトルVOL.57』はいくえみ綾特集
『ケトルVOL.57』はいくえみ綾特集
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月は孤独、雪は事件… いくえみ作品に登場する「モノ」は何を語る?

Amazonより
『ケトル VOL.57』 いくえみ綾、ともさかりえ、中村涼子、乙武洋匡、佐藤千亜妃、倉本さおり、加藤茶、北村薫…ほか

2017年にドラマ化され、大きな話題となった『あなたのことはそれほど』を始め、『G線上のあなたと私』(2019年)、『いとしのニーナ』(2020年)など、映像化が続く漫画家のいくえみ綾さん。登場人物の細やかな心理描写が読者や視聴者を惹きつけるいくえみ作品では、“モノ”が象徴的に何かを語るシーンが数多く登場します。

●月は孤独、かつ孤高の存在
『子供の庭』で、普段はぶっきらぼうな男の子・麦が母親を思い出すシーン。目線の先にはブラインド越しに浮かぶ月。彼は眩しそうに目を細め、手を伸ばします。「つきがこおりのようねえ」というモノローグが印象的なのは『以心伝心のお月さん』ですが、いくえみ作品では頻繁に「月」が孤独の象徴として用いられます。

慕っていた相手が再婚すると知った時、涙を浮かべる先には朧月(『POPS』)、子供たちに別れを告げる父親の背中には三日月(『バラ色の明日』)。まるで孤独感を投影しているかのよう。ただ、2014年以降は月を「孤高」と捉えるシーンも登場します。

『トーチソング・エコロジー』で、自分自身を変えようと苑が動き出す時に輝くのは月。『私・空・あなた・私』で「あたしは大人たちを理解できないそれもいっこの答えなんだと想った」とれもんが悟る時も満月。「孤独」と「孤高」は紙一重。太陽の光によって月の姿が変化するように、登場人物らの感情によって、月の見え方が変化するのです。

●雪が降っている時のシリアス率=68.8%
北海道を舞台にした作品が多いからか、いくえみ作品は雪のシーンが多いのが特徴。特に1985年から90年代初めの作品にかけては、単行本1巻ごとに平均3回は雪が降るペースです。歴代でもっとも長い(ページ数を割いている)雪のシーンも1985年に発売された『エンゲージ』第1巻に登場。正雄が主人公・千絵を追いかける場面は15ページにもわたり、すれ違う男女の姿を描きます。

同作で正雄の弟・良雄が千絵に「バイバイ」と正雄の伝言を伝えるシーンでも、静かに降る雪が切なさを際立たせる……。雪のシーンには別れや喧嘩、失恋といった深刻なエピソードが多くなっています。

『君の歌がある』で永見子が熱に倒れるシーンや、『プリンシパル』で和央の母親が病院に運ばれるシーンに至っては吹雪。ただ、最終話間際で降る雪には期待して良いかも。『POPS』では雪の寒さにやられ風邪を引いた三島のもとを薬子が訪れヨリを戻しますし、『ベイビーブルー』のハグシーンも雪。雪が良いムードを演出することもお忘れなく。

●花は秘めた想いを伝えるサイン
『潔く柔く』に登場する亜衣は花屋さん、『私・空・あなた・私』のイズミは庭師。いくえみ作品では植物を愛でる人々が多く登場しますが、時として植物が、キャラクターの秘めた想いを代弁することがあります。

特に象徴的なのは『君たちはガラス』で、入院した梗二のために、さやかがミモザの花束を贈るシーン。ミモザの花言葉は「秘密の恋」であり、姉の恋人である梗二は叶わぬ恋の相手。しかし花を受け取った梗二はミモザという花の名すら知りません。なんという切なさ……。

『太陽が見ている(かもしれないから)』で、日帆は白百合の花に喩えられますが、その花言葉は「威厳」(百合全般は純粋・無垢)。『潔く柔く』で主人公の名前にもなった花・カンナの花言葉は「快活」。『いとしのニーナ』で幼少期の清貴が母に手渡すハルジオンは「追想の愛」であり『バラ色の明日』でカブがナナに枝ごとプレゼントする桜は「優美な女性」です。

ちなみに北海道ではライラックの咲く時期の冷えこみを「リラ冷え」といいますが、ライラックの花言葉は「友情」。『プリンシパル』で和央と糸真が一緒に住み始めた日がリラ冷えなのも無関係ではないかもしれません。

◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)

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