【初対談】
最果タヒ×今日マチ子
『センネン画報+10years』
発売記念

「詩」と「漫画」

鳥澤 光=取材・構成

2018年5月11日。『センネン画報』の初めての単行本が発売されてから10年の月日が流れたこの日、『センネン画報 +10 years』が完成した。ブログ掲載時同様のオールカラーにして増補改訂版。今日マチ子のデビュー10周年を記念した新しい『センネン画報 +10 years』について、詩人の最果タヒが作家自身と語り合う。

『センネン画報』<br>太田出版
『センネン画報』
太田出版、2008年
『センネン画報』<br>太田出版
『センネン画報 その2』
太田出版、2010年
『センネン画報』<br>太田出版
『センネン画報 +10 years』
太田出版、2018年

最果タヒ 『センネン画報』持ってきました。こっちの2巻は人生で初めて買ったサイン本なんです。

今日マチ子 わ~ありがとうございます! これ、絵柄を全部変えるという無茶なことをしていた頃のサインですね。懐かしい。

最果 とても大切な1冊です。『センネン画報』は、SNSを通してブログの存在を知ったのが最初で、そこから、な、な、何だ、この夢のようなブログは! と夢中で遡り、単行本が出ていることを知って本屋さんに買いに行きました。

今日 ブログも読んでいただいていたんですね、ありがとうございます。私が最果タヒさんを知ったのは、自分のデビューより前で、新聞の詩歌コーナーを読んでいたら「10代の詩人」として最果さんが紹介されていて。その後、私が『モーニング』で「みかこさん」を連載していたときに、同じく講談社の『別冊少年マガジン』で最果さんが詩を書いて漫画家さんとコラボレーションをする「空が分裂する」を連載されていて。実は私も依頼をいただいたんですが忙しくてお受けできなくて…ずっと心残りだったので、今日お会いできて嬉しいです。

最果 私もやっとお会いできて嬉しいです! 『センネン画報 +10 years』の発売に先立ってゲラを見せていただいたんですが、既刊の2冊と比べて、並びがかなり変わっていますよね。『センネン画報』では、作品の中でカメラや文房具などのモチーフが連続して出てくるんですが、そのモチーフの切り取り方が、女の子側からの視点なのか、男の子側からの視点なのかで大きく違っていて、その描き方が、彼らはそれぞれ違うことを感じているのに、うっすら繋がっていることを象徴していて面白かったです。新しい単行本では、これまで並んでいなかったページが並んだり、逆に並んでいたものが離れて配置されたりして、そうした繋がりがまた違う見え方をしています。構成はどうやって決められたんですか?

今日 『センネン画報』1巻に収められていた「海から36km」という短編マンガをごっそり取ったことでバランスがかなり変化したんです。描いた時期にもばらつきがあったので、時間についても段差が出ないようにし、かつ、春夏秋冬の季節ごとに並べていきました。

最果 以前の単行本では、断続的なものが繋がっていたところが、今回はもっとゆるやかな繋がりになっているのかな。読んでいて気持ちがよかったです。

今日 『センネン画報 +10 years』の方が淡々として、もともとのブログのリズムに近いかもしれません。リズムというと、詩も、ブログや雑誌と、詩集とでは、読んだ時の印象がかなり変わりますよね?

最果 そうですね。詩集にまとめる場合は、まず印刷されるということで文字の印象が大きく変わりますし、行間、字間、文字組、フォントといったデザインで言葉の印象も変わるので、それを踏まえて順番を考えます。読みやすさだけでなくて、読んで、詩のまわりにある空白を挟んでから次のページに行く、そのときの間がよいものになることを目指して考えたりもします。

今日 本を読んでいてリズムに乗れたときって快感ですよね。余白も含めたリズムに、あ、今一緒になってる! と感じられる、音楽的な気持ちよさ。『センネン画報 +10 years』のブックデザインは、デビュー時からお世話になっている川名潤さんにお願いしています。川名さんは『センネン画報』にとても思い入れを持ってくれていて、自分のことが描かれた、自分の作品として受け止め、消化してくれているので、その愛情がすごくありがたいです。

最果 詩はどんなものを読まれるんですか?

今日 すごく詳しいわけではないんですが、親の本棚にあった寺山修司などを小学生で読み始めて好きになって。大人になってから、高村光太郎や宮沢賢治などの近代詩を読み直すようになりました。日本の近代詩によって、「みんなが叙情と認識しているようなものがここにあった!」と学び直したような感じです。私の作品は「叙情的」と評されることが多いんですが、私としては叙情全開にはしたくない。でも詩の表現に触れたことで、私の好きなものと読者が求める叙情が重なって、原稿の上での表現もうまくついていけたと感じる瞬間がありました。

最果 今日さんの作品、特に『センネン画報』に「叙情」を感じるのはもちろんなんですが、それだけじゃないというのが私にとってはすごく魅力的です。自分たちの生活に根ざした感覚が描かれている。センチメンタルな部分だけを切り抜いてみせるものが世の中に多いなか、それだけでなくて愛嬌なんかを全部ひっくるめて、人そのものが存在しているように感じます。だからこそ、過ぎていった10代への懐かしさと同時に、今の自分が持っている感覚も見つけ出すことができる。今日さんの物語性の強い作品を見ていると、現実から目をそらしたり、ちょっとぼやかしたりするためではなくて、残酷なことやきついことを直視するためにメタファーが使われているんですよね。『センネン画報』で人そのものに迫る形で叙情を取り入れていたからこそ、物語においてもメタファーが強く意味を持って、あり続けているんだと思います。

今日 かわいいだけの夢物語として作品を受け止められてしまうこともあるので、その部分を汲み取っていただけるのはすごく嬉しいです。

最果 「詩的」なだけではないですよね。だから『センネン画報』以降、物語性のある作品をどんどん描かれているのを目の当たりにして、個人的にはすごく納得がいきました。私は、詩を書くことと小説を書くことってやっぱり同じではないと思っていて、その二つにおける「詩的」がどう違っているのか、それはいつも考えていることでもあるので、それだけに、今日さんの作品の広がりには圧倒されます。

表現と変革。
作家を成長させるもの

今日 これが自分だ、自分の表現だ! と思えるものを見つけてもいずれは飽きてしまう。この表現はもう飽和状態だから別の方法を探そう、という瞬間は結構あるんです。だから煮詰まってしまった時はチャンス。さぁそろそろ次だ! みたいな気持ちになりますね。

最果 煮詰まったらチャンスってすごい! 『センネン画報』というひとつの作品の中でも変化がありますよね。

今日 小さな変遷と小さなさよならはたくさんありますね。描き始めの頃はかなりサブカル寄りで頑張っていたなぁ(笑)。漫画だから文字を入れなきゃ、と吹き出しにセリフを書いたり、吹き出しがなくなってもまだまだしばらくは文字が残っていたり。『センネン画報』のブログは、ほぼ毎日描いていたこともあって、飽きては実験し、やりすぎたりサービスしてみたり、スクリーントーンを貼ったこともありました。途中からコピックで彩色するようになり、ある時点から枠線が綺麗になっていき。千数百枚描くと、やっぱりだいぶ変わっていきますね。最果さんも、ブログで詩を書き始められたんですよね?

最果 詩というより日記として書いていたものが「詩」だと言われるようになり、そこから「これって詩なのか」と詩を意識して作品を作るようになりました。自分としては、気持ちのいい1行を書いて、それにつられて続く1行を書いて、とやっているけど、これは一体何? という迷いとともに書き続けていました。詩の雑誌や投稿サイトへ投稿しても、デビューしてもやっぱりよくはわからない。それから『別冊少年マガジン』の編集さんが声をかけてくれて「空が分裂する」という連載が始まりました。漫画雑誌で漫画家さんやイラストレーターさんに絵を描いてもらう。読者は、漫画は読むけどあまり詩に触れてこなかった人たち。という状態で、やっと読者の目を強く意識するようになって、自分の作風を解体して理解する作業に入れた。「読まれる」っていうことが自分にとってはとても大切だったんだって、そこで気づいたんです。その連載を2年ほど続けた後に、ツイッターで詩を書くようになって、今に至っています。

今日 自分なりの表現というものって、8割方できてしまったら読者に投げて、自分は次に行きたいという感じって……ありませんか?

最果 あります、あります。すごくわかる。

今日 読者には喜んでもらいたい、でも新しい地平も開拓したい。だから、しりあがり寿さんの『表現したい人のためのマンガ入門』にあった「読者に見捨てられると食えないから、でもとりこまれると自分を見失うから、読者とつながる小指一本に力を込めます」という言葉をいつも心に抱いて描いています。

最果 期待されているのはこういうものだろうな、とわかってしまったらそれはもう書けなくなってしまいますよね。

今日 それをやり始めると、最初のうちはみんな喜んでくれるけど、自分自身は自家中毒で苦しくなってしまうんですよね。最果さんは、詩と小説以外に挑戦したいジャンルってありますか?

最果 最近、歌詞を書かせていただいたんです。詩を書くことと、メロディがあるところ、枠があるところに言葉を載せることって全然違って、勝手がわからないこともあってすごく面白いです。この春から流れている東京メトロのCMソングの歌詞を書いたんですが、私はもともとブランキージェットシティの歌詞に影響されて文章を書き始めたので、遠目で見ていたものが近づいてきてくれたのは興奮しました。あとは絵本も書きたいんですが……。

今日 絵本ってものすごく難しいジャンルだけど、本当にいい作品はずーっと残り続ける、芸術のすごいところに位置しているものですよね。

最果 最先端ですよね。いつか、生きているうちに、子供向けの絵本を書けたらな。今日さんはいかがですか?

今日 ここしばらく軽い作品が続いたので、巨大なトレーラーを運転するような重めの作品を描きたいです。あとは東京オリンピックが近いので、東京をテーマにした絵をツイッターであげて肩慣らしをしているところ。モノクロで時空が歪んだ東京を描いているんですが、最終的にはダンテの『神曲』のような、ものすごい分厚く壮大な作品が作れたらいいなと思っています。

プロフィール

最果タヒ
(さいはて・たひ)

詩人、小説家。現代詩手帖賞、中原中也賞、現代詩花椿賞。最新詩集「愛の縫い目はここ」(リトルモア)、エッセイ集「きみの言い訳は最高の芸術」(河出書房新社) 小説「十代に共感する奴はみんな嘘つき」(文藝春秋)ほか
「最果タヒ.jp」 http://tahi.jp/

今日マチ子
(きょう・まちこ)

東京都生まれ、漫画家。東京藝術大学美術学部、セツ・モードセミナー卒。2004年から毎日ブログにて綴った1ページ漫画『センネン画報』が注目され2008年に刊行。2006年、2007年「センネン画報」(ウェブ)、2010年『cocoon』、2013年『アノネ、』が文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。2014年『みつあみの神様』他で第18回手塚治虫文化賞新生賞、2015年『いちご戦争』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。著書に『みかこさん』『U』『吉野北高校図書員会』『ぱらいそ』『猫嬢ムーム』他、多数。
「今日マチ子のセンネン画報」 https://juicyfruit.exblog.jp

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『センネン画報+10years』

著: 今日マチ子
発売: 2018年5月10日(木)
ISBN: 978-4-7783-2290-8
160ページ/オールカラー/A5判上製
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