のん『創作あーちすと NON』

お試し読み

のん/『創作あーちすと NON』

『創作あーちすと NON』に収録されている「あとがきにかえて」対談を、全文公開します。
本編の内容を想像しつつお読みください。
聞き手は本書カメラマンの鈴木心氏。
のんさんが約10年ぶりに帰省した、故郷からの帰り道での会話です。

聞き手=鈴木心

※テキストのみの掲載となります。写真は本書でお楽しみください!!

(故郷から東京へ戻る新幹線の車中にて)

鈴木 故郷への撮影旅行、おつかれさまでした。久しぶりの帰省でした?

のん 中学校卒業以来ですね。ほとんど変わってなかったんですけど、中学校は変わり果てていて、知らない学校になっていました。そこに、自分のよく知っている先生がいて、すごく違和感が(笑)。学年主任だった先生が、当時とまったく顔が変わってなくてびっくりしました。

鈴木 のんさんも変わってないから(笑)。

のん いやあ、どうなんですかね。あと、小学3年生まで住んでいた実家のあたりが、敷地がめちゃくちゃ小さく感じてビックリしました。家の前の田んぼも、あの2倍くらいあるイメージでした。

鈴木 僕が今日、一番印象的だったのはMスタジオですね。Mスタジオがなかったら、のんさんの生き方がだいぶ変わったんじゃないかと思って。のんさんがやりたいことって、大人たちが学校で教えられないことだったりすると思うんです。だから、独学でやるしかない中で、まさやんって「否定しない人」だと思ったんです。「やりたいことやってごらん、手伝ってあげるよ」って言ってくれる、まさやんみたいな大人が身近にいて、そのまさやんが作った志高い場所(Mスタジオ)があって、そこに子どもたちが集まっている、という状況の賜物だなと思ったんです、のんさんの活動って。で、それが、のんさんが上京した後も、いまだに続いているという。だから、Mスタジオの中に「のんさんコーナー」があるんだと思うんです。あれって、まさやんが続けてきたことの結果として、現在ののんさんの活躍があって、のんさんを身近に感じることで、まさやんも「これからも子どもたちをキャッチアップしていこう」と思えるし、のんさんにとってもMスタジオがいつ戻ってきても変わらず接してくれる場所になっているという。たぶん、これまで、のんさんに対して態度が変わってきた人もいっぱいいると思うんですけど……。

のん たしかに、まさやんにMスタジオで会えたのは、本当に良かったですね。私が中学生の時は今のMスタジオとは別の場所でしたが、毎日ってくらいギターを弾いたり教えてもらいに通い詰めていました。まさやんもてっちゃんも当時のまんまですごく嬉しかったです。

鈴木 あとは、自然との距離感。だいたい普通、家の近くに猿が60匹現れたりしないじゃん。

のん 昔、何度か現れてました。キーキーキーって。

鈴木 やっぱり普通じゃないことが普通な環境ってのが大きかったのかもね。みんな生き続ける中で常識にがんじがらめになっていくんだけど、のんさんにとってはそれがない。普通、街で育つとおもちゃ屋さんとかゲームセンターがあって、物を買ったり、お金を払って遊ぶんだけど、そうじゃなくて、そこらへんにあるものすべてが遊び場ってのが、のんさんにとっての当たり前だったというのが、今のものづくりの原点になってる気がしたんです。だから、僕はあの場所(生家)が終始心地よくて……。

のん いいところですよね?

鈴木 本当いいところ。今ね、看板がない町の風景を探すのが難しいんです。だいたい企業や商品の看板があるんだけど、生家のまわりってほとんど看板がなかったよね。

のん あー、そうかもしれない。

鈴木 その風景が今も変わらずに残されているのってすごいと思った。

のん 中学校は変わり果てていましたけど(笑)。

鈴木 僕が今回の一連の撮影で、のんさんから学んだことは、「好きなことをやらなきゃ」ってこと。僕にとって写真は好きなことだったんですけど、いつしか仕事になって、まわりのことを考えるようになっちゃっていたんです。だけど、好きなことをやっている時って、のんさんみたいに「自分がそれをやりたいかどうか」だけですよね。で、結果、それでみんなが喜んでくれたらラッキーだし、みんな喜んでくれなくても、自分が吐き出したいものを吐き出さないと、いつまでたっても気持ち悪いままじゃないですか。僕も、写真がいつしか仕事になってたんですよ。好きなものだったはずなのに。それを自覚させられて「いかんいかん、自分も好きなことをやんなきゃ」って、撮りながらずーっと思ってました。

のん 素敵ですね。それは楽しみです!

鈴木 おかげで踏ん切りがついたというか、だから「アーティスト」という肩書も、のんさんの場合、はまんないね。のんさんは「アーティスト」じゃなくて、もっと違うものだと思う。アーティストはアートが売れなきゃやってけないけど、のんさんって売れるか売れないか関係ないじゃん。趣味人?(笑)

のん そうかも。

鈴木 結果、受け入れられているんだけど、最初から売ろうと思ってやっているわけじゃないよね。

のん そうですね。でも、「面白い」ってことに関して自信はあります。根拠のない自信が。

鈴木 みんなが面白いと思ってくれる、という自信がある?

のん そうですね。自分が面白いと思ってるからですかね。

鈴木 それって昔からそうだった?

のん 今の方が少し大人になりました。小学生の頃とかは無敵時代です。それこそ根拠もなく自分が一番だと思ってました。でも、みんなそうですよね?

鈴木 それが大人になって分をわきまえて……でも、のんさんはそれがずっと続いてきたんだと思う。自分が楽しいと思うものはみんな楽しいはずだ、を証明してきたというか。だって、小学校の同級生の全員がこうなったわけじゃないでしょ? 多くの人は続けていくうちに、「これはお金になるから、こうした方がもっと受けるだろう」とか、変な欲が出てきちゃって、そうなると仕事の人に変わっちゃうんだよね。

のん たしかに「うけるために」「お金のために」は考えないですね。面白いか面白くないか、笑えるか笑えないか、だけ(笑)。

鈴木 あと、役者じゃないよね。「絵」とか「音楽」とか「服作り」の中のひとつとして「役者」があるだけで、演技以外のいろんなことをやる役者じゃない。そこも、今回すごくよく分かった。僕の知っている身近な役者さんは、映画観る、台本読む、練習するというサイクルの中で……絵を描いたり、音楽演奏はしない(笑)。

のん (笑)。

鈴木 あと、もうひとつ今回よくわかったのは、素ののんさんっていないということ。 

のん どういう意味ですか?

鈴木 役者やってる人って、「演技をしている時以外、プライベートではふつーなんです」っていう人がいるんだけど、のんさんは常時のんさんだから。

のん それ、桃井かおりさんにも同じこと言われました。「役者は普通、貝殻に入って仕事してるのに、あなたはひとりだけ貝殻から出て仕事してる感じがする」って。

鈴木 それが昔からそうなんだなっていうのが分かった。だから、すごく世の中から誤解されているよね、のんさんって。

のん お!

鈴木 それで、「のんさんって実はそうじゃないんだ、こういう人なんだ」って伝えると、おそらく一定数の人たちは離れていくと思う。

のん そう思います(笑)。

鈴木 でも、そのぶん、のんさんじゃなきゃダメだって人もきっと出てくるから。だから、いつになるかわからないけど、のんさんにもぜひ「N(のん)スタジオ」を作ったらいいんじゃないかな。次の子どもたちのために、のんさんができることがあるはずだから、いつか第二のまさやんになって……。

のん うわあ、まだ想像がつかないですね。

鈴木 今って「将来何になりたいの?」って訊かれると「消防士」とか「パイロット」とかみんな答えるけど、別に「既存の職業」って型に自分を押し込めなくてもいいじゃん。現在ののんさんを見ていて、そういう部分で心が楽になる人もいると思う。

のん やりたいことをやる、という仕事。

鈴木 それがのんさんの仕事だよね。職業:やりたいことをやる人(笑)。そんなのんさんにとって、今回の本作りはどうでした?

のん めちゃくちゃ面白かったです。いろんな大御所の方たちとお話をしたり、好きな絵を描いたり、服を作って富士山に行ったり。やりたいことがやれた気がします。

鈴木 これまでの仕事って「のんさん、あれしてください」「これしてください」だったと思うんだけど、今回はのんさんから出てくるまでみんなが待った。そうじゃないと面白いものにならないから。

のん ありがとうございます。「富士山に行きたい」とか「大きな絵を描きたい」って言ってる時は、夢としては良いけど「できるのか……?」みたいな、いきあたりばったりなところがあったんですけど、やってみたら自由に動けるというか、すごく覚醒した感じがありました。

鈴木 持ってる引き出しがはんぱないし、「女優然としていなくちゃ」という縛りがなくて、自分の中にあるものは何でも出せる。たとえば、いきなり女優がバレエの動きを始めたら「???」ってなるけど、のんさんを撮る場合は何でもありなのが面白い、のんさんらしいなと思います。あと、力んでないんだよね。やるぞ! って気負わないところが僕は毎回印象的で。すーっと入っていくよね。

のん そうですね。ちょっと話がずれるかもしれないですけど、今回いろんな絵描いたり、いろんな方と対談をして、反射的に動いたり話したりするのを心掛けたんです。そしてわりと実践できた気がしているんですけど、演技も同じでひとつの役があったとして、反射的に演れた時の方が上手くいくんです。なので、この経験を演技に活かせるなあと思いました。撮影に入る時、集中できるときはできるんですけど、空回りするときもあるので……。もちろん役の気持ちとして反射的に動くためには、現場に入るまでにどう解釈するか考えておくのがベースですけれど。その上でいつも柔軟に現場で動けるように、フラットな状態に集中させる感覚を少し掴んだ気がしました。

鈴木 のんさんって、打ち合わせの時とか、ちょっと違うなと思ったら「違うんです」ってなるじゃん。一見、何も考えてないように見せてるんだけど、何か違和感を感じた時に、これは違いますとはっきり表明するのも今回印象的だった。嗅覚が鋭いな、って印象だった。

のん そうですかね。

鈴木 たとえば撮影中に「あ、このカメラマン、合わないな。大丈夫かな?」と察知することってある?

のん よくわからないですけど、撮影してもらっている時に「この人、私に全然興味ないんだな」と思うと、いきなり不安になります。「大丈夫かな? もうちょっと興味持ってほしいんだけど……」って。

鈴木 ある意味、ポジティブだね(笑)。こいつ、とは思わない。 

のん いや、こいつ、って感じです(笑)。「こいつ私に全然興味ねぇー(泣)」って……生意気ですよね。

鈴木 いや、そんなことないって。役者さんによっては何枚撮っても全然動いてくれない人がいるんだけど、のんさんの場合、それはないじゃん。撮影にのらない時ってあるの?

のん のらない時、あります。ヘンな方向にされてる! って時は、踏ん張ります。違う方向にずらします。汚い感じとかえろい感じにされると思ったら……よくあるんですよね。

鈴木 嫌です、とは言わずに違う方向にずらしていく?

のん 嫌ですと言うと、できないみたいで悔しいから(笑)。

鈴木 その色っぽいことへの抵抗って何なの?

のん どろっとした感じじゃない色っぽさなら好きなんですけど。難しいですね。エロエロな感じが出せないので。

鈴木 それを仕事で求められたらどうするの?

のん やらないです。それは私には生み出せないものなので。

鈴木 そこがはっきりしてるのもいいよね。そういう引き出しがそもそもない?

のん 生活感のある色っぽさというか、生々しさがあるものというか。そういうものが苦手なんです。もうちょっと夢のあるファンタジーめいた方が好きです。

鈴木 だからみんな「素」が見たい、と思っちゃうんだよね。

のん 素、ないのに(笑)。

鈴木 そこだけが見えてこないから、みんな見たいと思っちゃう。でも、実は、ない。そこがみんなにわかってもらわないといけない部分だよね。業界で、のんさんと仕事したい人って、ものすごく多いんだけど、きっと「誰も知らないのんを俺の手で引き出したい」っていう……。

のん あ、それ苦手!

鈴木 クリエイターって、自分の手柄にしたがるじゃん? 俺のディレクションによってこういうものが生まれました、みたいな。

のん そうなんですね。そういう役、来ます。

鈴木 でも、「永遠の少年少女」って方が希少価値高いよね。

のん そうですよね。私も、実は一番難しいんだなと思います。

鈴木 のんさんの場合、どこかで見たことのある何か、が出てこないんだよね(笑)。みんなが大人になる中で、それこそのんさんが子どもの頃に見てた近所の猿のように芸能界の片隅でキャッキャやっている感じ?(笑) 追っていくと逃げるけど、放っておくとまた山から降りてくるという、そのままでいてほしいですね。

のん そうですね。片隅で楽しくやっていきたいです(笑)。今回、ひとりでものを作ってるのも好きですけど、やっぱり集団で何かを作っていくのは面白いな、とあらためて思いました。今までは女優然としていなくちゃ、という意識が強かったんですけど、のん(創作あーちすと)になってからはあーちすとという自由な感覚を解放させてもいいんじゃないかと思いつつ、今回はその部分がフィットした気がします。やりたいことはやってしまえばいいんだな! と思ってます。

(2017年2月11日収録)

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プロフィール

のん
(本名・能年玲奈)

1993年7月13日生まれ。
女優、創作あーちすと。趣味・特技、ギター、絵を描くこと、洋服作り。

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