スペシャル対談

「コンドームをつける“動作”を
マンガでは省かずに描きたかった」
宋美玄(産婦人科医) × 岡藤真依

『少女のスカートはよくゆれる』より

2019.3 取材・文=野口理恵

『少女のスカートはよくゆれる』で少女たちのさまざまな性の悩みを描いてきた岡藤真依。単行本の発売を記念して、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている産婦人科医の宋美玄先生に、性を描くこと、性教育について話を訊いた。

「性」を教えることの難しさ

『どうにかなりそう』
『どうにかなりそう』
岡藤真依、イースト・プレス
『少女のスカートはよくゆれる』
『少女のスカートはよくゆれる』
岡藤真依、太田出版

岡藤真依(以下、岡藤) わたしも先生と同じ神戸出身で、高校は甲南女子(南女)なんです。

宋美玄(以下、宋) じゃあこの制服も南女…でもないか。

岡藤 前作『どうにかなりそう』では南女や松陰の真っ白いワンピースを参考にしていました。

地元の人にはわかる(笑)。岡藤さんの作品は性教育というより切ない感じのリアルな恋愛ですよね。 

岡藤 この作品を読んで女の子たちが少しでも性に興味を持ってくれたらと思っています。

「性」に関していうと、マンガの方が露骨に描いているところがありますよね。わたしたちが産婦人科医が性教育をするよりもよっぽど自由度が高いと思います。

岡藤 そうですね。わたしも女子高生だった当時、女子校で周りに男の人がいなかったから、友だちとエッチなマンガを読んで、“セックスのようなもの”を知りました。『少女のスカートはよくゆれる』第1話の冒頭で、保健の先生からコンドームのつけ方を習うシーンは、わたしがたぶん高校2年生のときに実際に受けた授業です。ただ、その先の、どう行為するのかはぼやかされたりして。保健体育の授業で保健室の先生が来て、セックスというよりは避妊について教わる時間でした。

『少女のスカートはよくゆれる』より
『少女のスカートはよくゆれる』より

高2までは、性教育の授業はなかった?

岡藤 中3のときに1回、出産のビデオを見させられましたが、それだけでした。

わたしの母校ではセックスの教育はありませんでした。学習指導要領では、避妊や性感染症、中絶については入っていますが、性交渉そのものについては教えないことになっています。いまの教科書だと「性の情報は“きちんとしたところ”から得ましょう」と書いてあったりして。「だったらあなたが教えてくださいよ!」と思うんですけど。「18歳までの性交渉は望ましくない」ということになっているんです。なので性交渉そのものについては教えてないところが多いと思います。

「性教育を行う場合に,人間関係についての理解やコミュニケーション能力を前提とすべきであり,その理解の上に性教育が行われるべきものであって,安易に具体的な避妊方法の指導等に走るべきではないということについておおむね意見の一致を見た」
文部科学省:「健やかな体を育む教育という観点から,今後,学校教育活動全体で取り組むべき課題について」より

岡藤 まさにそこを教えてほしかったと大人になったいまは思いますね。それにしても「18歳までは性交渉は望ましくないから教えない」というのも…。

『少女のスカートはよくゆれる』
『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』
宋 美玄、ブックマン社

そう。では18歳になったら、いきなりセックスをしてよいのかという(笑)。学校ではセックスのリスクばかりを教えるんです。では、18歳になったらどこかで教えてくれるのかというと、そういう機会はないんですよね。2010年に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』を出版したとき、まわりから「こういうのが必要だった」と言われ、当時は「みんなやっぱりこういうのが知りたかったんだな」と思いましたけど、2018年にNHKの「クローズアップ現代+」(2018年7月17日放送「セックス・若者たちの本音 ~世界のミレニアル世代調査~」)に出たら、「AVは教科書でない」「こういうのして、とか言えない」など、「10年前から女の子の悩みは同じ」というような内容なんです。若者たちが情報を得るツールはどんどん進化していて、紙でなくてもマスターベーションの“おかず”を得られるけど、そのマスターベーションのおかずはファンタジーでしかない。なかなか現実を学ぶことがないという感じなんです。

岡藤 「やり方」を学ぶのは、男の子ならAVだし、女の子にいたっては少女漫画とか映画だったりします。でも、全然わからなくて「あのシーンは実際はどうなってんだ」と悶々としたり。結局、女の子は男の子に任せるしかないというか…。

例えば思春期の男女を無人島に放置したらセックスするかというと、性的な衝動でどうにか欲を満たしたいと思っても、ペニスを膣に入れるというのは、教えてもらっていないと思いつかないんです。

岡藤 自然とそういう流れにはならないんですか。

ならない。人間や猿の一部も同じです。

岡藤 では、周りを見て、そういうものだという知識を得ているんですね。

そうなんですよ。

岡藤 本能ではないんだ。

本能ではペニスを膣に入れるという行為にはたどり着かないんです。だから何も知らないまま結婚して、男女ともにセックスの仕方がわからないといって診察に来る人もいます。そのため、自分で知識として得たセックスが、AVや商業ポルノだったら、それが教科書だと思うのはある意味当たり前ですよね。「AVが教科書ではない」と言うのであれば、では「教科書ってなんなの」となる。だからベースになるものを教えたほうがよいと思います。

岡藤 最近、女性向けのAVを見たときに驚いたのは、男の子がコンドームをつけるというシーンがあるんです。これは大発見でした。ある作家さんの作品で、コンドームをつける流れを意図的に省いているというのを聞いたことがあって、今回の作品では男の子がコンドームをつけるという一連の動作を描きました。コンドームをつける動作って、話の流れを遮ってしまうようで、映画でも小説でもカットされてしまいがちなんです。

中高生にとってはそこが大事なんですけどね。

『少女のスカートはよくゆれる』より

多様な性の価値観

最近、学生に性教育をしようとすると男、女という前提でやっていたら進まないので、まずはLGBTから学ぶようです。でも、実際LGBTの話からやると大半の子が寝てしまうんです。当事者でないから遠い世界の話だと思うようです。では興味をもつようにと、ネタっぽく話すのも今度は弊害になってしまうのでいけない。ニュートラルに、コレクティブに面白く話すのは難しいですよね。デリケートな問題だし、思春期特有のちょっとした同性愛的なところもあるし、一方で本当のLGBTもある。

岡藤 思春期特有のちょっとした同性愛はたしかにありますね。友だちへの独占欲だったのかと思いますが、女子校だと心を寄せる相手が女子しかいないから、そうなってしまったり。そのときの一瞬の「男子の代替」としてその人を好きなのか、それとも本当に好きなのか。わたしはそこまでセンシティブにならなかったのですが、悩んだ子もいるみたいで。学校で身体の仕組みは教えてくれるけど、そういう心の問題を教えてもらいたかったな。

『少女のスカートはよくゆれる』より

でも、実際、それを教えられる先生が学校にいるのかというと、いないんです。

岡藤 では、どうやって学んでいけばいいのでしょう。

一番近いのは外部講師を学校が招くということかな。でもそういう性教育も学校側から「セックスについては喋らないでね」とストップがかかる学校もあります。セックスは人によっては愛情表現だけど、別に愛情表現とは限らないじゃないですか。例えば別にセックスがしたい人同士がしたらいけないのか、二人がしたければすればいいし、生殖のためだけにセックスする夫婦もいる。セックスというのは、愛し合った二人だけしかやってはいけませんと教えたほうがいいのか、というのもあるわけです。

岡藤 たしかに。

学校がそういう価値観に注文つけてくるとこもあるんです。結局、セックスというのは最終的には人に迷惑がかからなければタブーはないわけです。そういう産業もあるわけだし、産業そのものを否定する教育というのもおかしい。学校側や保護者側が求める教育と外部講師の選び方には、様々な側面からの価値観が関わってくる。「性教育」と称して、出産の素晴らしさの授業だけやって終わりという学校もあるので。中高生に教えるための、性教育のエキスパートの養成もやっているんです。でも学校が呼んでくれないと成立しない。

岡藤 『少女のスカートはよくゆれる』の第1、2話では、トラウマを抱えた子が保健室の先生と話をするシーンがあるのですが、実際に悩みを抱えた子は誰に相談するのがよいのでしょう。

『少女のスカートはよくゆれる』より

保健室の先生をやっている人に聞くと、そういう人たちに来てもらえると嬉しいと聞きます。そこが保健室のいいところですね。でも、保健室の先生も、あまりにも深刻なことは抱えきれない。でも家庭、学校、友達、それ以外でも、どこかで誰かが助けてくれないといけないのだけど。そういう意味で、日本は性教育のセーフティーネットがボロボロ…。例えばスウェーデンだと、性教育小屋のような施設やセンターがあります。そこで学校側から生徒を派遣してみんな性教育を習う。そこに行けばピルもくれるし性病も調べられる。

岡藤 日本にはないですね。

そう。イギリスにもそういうセンターがあります。ちなみにわたしの母校では「ピルは危ない薬だから飲んではいけません」と習いました。知り合いの娘さんも学校でそういう教育をされたというので先生に抗議したけど、なんの返事もなかったそうです。

岡藤 わたしもピルは避妊薬としか習っていないです。生理を正しくする作用もあるんですよね、そういうのも全然教えてもらえなかった。大人になってから知りました。

「性」を描くこと

岡藤 先生は結構刺激的なタイトルで本を出されていますけど、出版時に抵抗はありましたか。

最初はありましたね。そんな売れると思わなかったから本名で出したら売れてしまい(笑)。まあ、一応真面目な本なのでいいかなと。

岡藤 わたしは性に関しての作品をデビュー作からずっと描いているのですけど、まだなんとなく吹っ切れないというか、いけないことをしているような気持ちがいまだにあって。

性のタブー感、恥ずかしさという感覚は、いまの日本ではみんなもっています。あまりにもあけすけな作品はなかなかついていきづらいですよね。そういう感覚は大事にするべきだと思います。

岡藤 読者に寄り添える着地点をいつも模索して描いているのですが、こういう寄り添う感覚が必要なのかなと思っています。描いていたときは全然自信がなかったのですが、読んでくれた友だちが子どもに女の子が生まれたら読ませたいと言ってくれて。「自分を大事にする」ことが描かれているから読ませたいと言ってくれたのが、すごくうれしくて。

わたしも子どもの月経が来たくらいに読んでほしいと思いました。性については子どもたちにも誤魔化さずに伝えていきたいですね。

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『少女のスカートは
よくゆれる』

著: 岡藤真依
発売: 2019年4月12日
ISBN: 978-4-7783-2297-7
A5判上製/1,500円+税
*全国書店&通販サイトで発売
*初回特典:限定しおり ※全3種のうち1種がランダムで封入

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プロフィール


宋 美玄
SONG MIHYON

産婦人科女医・医学博士。1976年、兵庫県生まれ。2001年に大阪大学医学部医学科を卒業。子育てと産婦人科医を両立しつつ、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。主な著書に、『産科女医からの大切なお願い 妊娠・出産の心得11カ条』(無双舎)、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)、『幸せな恋愛のためのSEXノート』(ポプラ社)、『ずっとずっと愛し合いたい セックスしつづける男と女のルール』(幻冬舎)他。
公式サイト: http://www.puerta-ds.com/son/


岡藤真依
MAI OKAFUJI

兵庫県神戸市生まれ。乙女座。B型。漫画家、イラストレーター。思春期の少年少女の、未完成な性をモチーフとした作風で注目を集める。京都精華大学芸術学科卒業。『どうにかなりそう』(イースト・プレス)が発売中。
公式サイト: http://okafujimai.com/

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