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文=編集部 撮影=AKi *お菓子写真は全て本書より。 ©福田里香/太田出版
*「ぽこぽこ」公開当時の記事を再掲載しました。

ぽこぽこで2012年~2013年にわたって連載された「まんがキッチン おかわり」が、このたびめでたく単行本化! 『ガラスの仮面』から『進撃の巨人』まで、汲めども尽きぬまんが愛に形をあたえ、お菓子で作品の世界観を表現するという福田マジックがたっぷり味わえます。 刊行を記念して、福田さんに本書の魅力を語ってもらいました。

まんがDJによる「読み合わせ」のススメ

『まんがキッチン おかわり』目次
『まんがキッチン おかわり』目次。
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「ポーの一族」萩尾望都
「ポーの一族」萩尾望都
ばら科のフレーバーウォーター

―― どの作品を取り上げるか選ぶのは、難しくなかったですか?

福田 ……結局、DJなんだなって思うんです。

―― DJですか?

福田 はい。表紙がよしながふみさんと決まったら、もう次の大扉は大島弓子さんの「このコマ」しかありえないんです。で、続く本編のトップページは羽海野チカさんしかありえないんです。そして、羽海野さんときたら、萩尾望都さんしかありえない。萩尾さんの『ポーの一族』を選んだらもう、ヴァンパイアつながりで、水城せとなさんの『黒薔薇アリス』、となる。

―― まさにDJ! 偶然ではなく、必然の順番なんですね。

福田 うんうん、そうなんです。そうしたら、私の中で、次は『ガラスの仮面』しかありえないんですよ。バラつながりです。とくると、次は名香智子さんの『レディ・ギネヴィア』。この2作は同世代の作家さんによるものですが、作中に登場するヒロインの相手が、かたやダントツ童貞臭で、かたや、ダントツヤリチン(笑)!
DJってそうでしょ? たんに似た曲をかければつながるわけじゃなくて、まったく違う曲の、たとえばテンポだけを合わせてパンって切り変えるから、お客さんはその妙味を感じながら曲にのれるわけで。 この本では、完璧にこの「つながり」を意識して、構成してみました。

―― 予告された必然。美しいです!

福田 『レディ・ギネヴィア』の次は、一条ゆかりさんの『こいきな奴ら』。名香さんはほんもののお嬢様で、一条さんはまんがで一旗揚げようと東京にやってきた田舎の女の子です。正反対の生まれ育ちの女の子が、ヨーロッパの上流階級をそれぞれ描いたということです。
そして、荒川弘さんの『鋼の錬金術師』! 一条さんが若い頃、男性まんが家や男性の評論家に「女性まんが家はメカが描けない」と散々いわれ、一条さんはなにくそと、アシスタントさんを入れて、完璧な車やチョッパーバイクを描くんです。私は子どもながらに怒っていた。じゃあ、少年まんがの金字塔といわれたまんがでは、少女の洋服を完璧に描いているのか?というと、まあ、ひどい格好をしているわけです。そういう散々な服の描写でも、おもしろいまんがだからと思って不問に付してあげていたのに(笑)、「少女まんがが描く車はマッチ箱に丸いものが付いているだけ」なんていわれる筋合い一切ないわ!と、私はひそかに憤っていたのに、メディアがなかったからいい返せなかったんですね。

―― そして時代は変わり、荒川弘さんが登場して、誰にも負けないメカを描いたわけですね。

福田 はい。『こいきな奴ら』と『鋼の錬金術師』は「きょうだい」つながりというのもありますが、荒川さんが描くメカに、文句のいえる人などいないわけです。30年間で時代を経て、作家を経て、ここまできたことを思うと、まんが史的に感無量じゃないですか。そして、『シュトヘル』! もう、誰も画力に文句はいえないわけです。荒川弘さんと伊藤悠さん。この2人の空間把握能力とか、画力の凄さ……、もう完璧です。

―― (笑)。そういう意味では、この本は、これ以外ではありえない流れで完璧に組まれた、確信犯的な本なんですね。

福田 そうです。そして、『シュトヘル』がロードムービーというか、外に出ていく話だとしたら、次なる『進撃の巨人』は閉じ込められる話ですよね。『シュトヘル』では、チンギス・ハンが人の指を食べたりする描写もあるように、『ハガレン』ではホムンクルスが人間を食べるし、『進撃』はいわずもがなで3作ともに、人を食べるというカニバリズム的な話が出てきます。『ハガレン』から『シュトヘル』『進撃』と続くこのあたりの流れは、「何人殺しているか」というところ。『ハガレン』では、早い段階で、ある重要人物をひとり殺しているだけ。たくさん死んでいる印象がありますが、じつはそんなに死なないんですね。対して『シュトヘル』や『進撃』は、バンバン人が死んだり、食われていて対比がおもしろいです。

「海月姫」 東村アキコ
「海月姫」 東村アキコ
Jellyfish さま御用達 Jellyfish Jelly

―― なるほど。そんな通奏低音があったとは。

福田 で、『進撃』に込められたギャグセンスに拮抗するのは、もう東村アキコさんしかいないということで、『海月姫』の登場です。また、この2作に共通していいなと思うのは、あまり男女の差なくジェンダーが描かれているところですね。「尼~ず」の存在に代表されるように、東村さんの作品は、一見恋愛の話に思われがちなんですが、実際に読んでいくと、同性間のコミュニティの話が多くなるんです。『海月姫』が他人同士のコミュニティなら、次なる『海街diary』は、姉妹のコミュニティの話で、かつ、鎌倉のお話。そして街つながりということで、今度は「角島県」という、鹿児島県をモデルにしたお話である『娚の一生』につながっていきます。そのあとは、西村しのぶさんの『一緒に遭難したいひと』という、神戸・大阪のお話へと流れていきます。

―― このようにして、最後の1ページに至るまで、脈々と流れが続いていくわけなんですね。

福田 DJ的な感覚で、次々に「読み合わせ」が気持ちいいようにと考えました。

―― 今回、食べ物同士の「食い合わせ」があるのと同じように、作品にも「読み合わせ」がある、というのが面白かったです。

福田 だから、スタートが違えば、全く違う人選になっていた可能性もあります。その「読み合わせ」に合わせてお菓子にもヴァリエーションをつけて、次のページを開いた時に似たお菓子にならないようにと意識しました。焼き菓子が来たら、そのあとは違うものをとか、蒸し菓子のあとに乾燥させたお菓子とか、ケーキがきたら和菓子が登場、などなど、こだわって作りました。


〈プロフィール〉

福田里香
福田里香

ふくだ・りか。
福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。
お菓子研究家として雑誌や書籍を中心に活躍している。オリジナリティ溢れるレシピ本のほか、独自のフード理論を展開するエッセイなど著書多数。
レシピ本に『フレーバーウォーター』 『自分でつくるグラノーラ』(文化出版局)、『フードを包む』(柴田書店)、エッセイ本に『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』(太田出版)などがある。
本書のシリーズ第1弾『まんがキッチン』(アスペクト/文春文庫)も大好評発売中。