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スペシャル

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取材・構成:多根清史
*特別マンガ『ピコピコ少年』特別篇は、当ページ後半に掲載!

【PART 1】
“ノスタルジックゲーム漫画”として並び語られることも多い『ピコピコ少年』『岡崎に捧ぐ』。実際、著者の押切蓮介さんと山本さほさんは子ども時代を過ごした地域が近く(神奈川県川崎エリア)、その作品世界で描かれる原風景にはどこか相通じる感触があります。そこで編集部ではゲーマー漫画家双璧によるガチゲーム対談(&対戦)を2回にわたり決行。まずはPART 1、川崎の有名ゲーセン<ウェアハウス>での約2時間の対決後の対談です。

【PART 2】
前回の対談から2ケ月後――機は熟した。二人が漫画家になる以前からゲームを一緒にやりこみ、作品にも登場する親友(『ピコピコ少年』の山田君、『岡崎に捧ぐ』の杉ちゃん)をそれぞれ引き連れての二人対二人ゲーム対戦が実現(その詳しい模様は同時掲載の押切先生によるレポート漫画をご覧ください…)。もはや勝ち負けを超越してしまったアフター対談がこちらです!

協力:くーすけ君

ゲーム友達との出会い

山本先生、スキを突いて「す漬けいか」ゲット
山本先生、スキを突いて「す漬けいか」ゲット

――お互いの友人が参加してのゲーム大会で盛り上がったわけですが、お二人のマンガの中でも、ご友人は活躍されてますよね。

杉ちゃん 僕、(押切先生と山本先生のマンガの)両方読んでます。

山田 僕も読んでますよ。

押切 山田は最近になってから読むようになったよね? 

山田 僕の事いつの間にか(作中に)出されていたし。しかもけっこう詳細に、人柄から振る舞いまでねえ。

――読まれてどう思いました?

山田 まあ全部フィクションですよ。僕はいたってマジメです。

押切 ウソこけこの野郎。女のこととか書かれるとは思わなかっただろ?

――一方、杉ちゃんのほうはマンガの中でいい扱いですよね。

杉ちゃん でも書いてあることがぜんぶ本当だから嫌なんですよ。小学校時代の触れてほしくないエピソード2つが細かく描かれてるんですから。

――しかも、山本先生の描かれる絵がご本人そのもので言い逃れできませんよね。

杉ちゃん ソックリだってよく言われますよ。地元でも「本人だ」って思われてるんじゃないかな。そのかわりなのか、優しくしてもらってますね。たまに飯おごってもらったり。

山本 最近は居酒屋に行っても、お会計の時、出さないですからね。

押切 山田もそうですよ。

――そうやって円満に友情が保たれてるんですね。それぞれ出会った初めての記憶はあります?

山本 小4だよね。

杉ちゃん ぜんぜん覚えてる。最初からインパクトあったから覚えてる。

山本 転校生でしょ、私。

杉ちゃん そう、転校生でやって来て。山本さんが真ん中を切って開けたら絵が飛び出てくるメッセージカードみたいなのを作ってて、「この子絵が上手いんだ」ってすぐわかったから。

山本 たぶん、一番最初に仲良くなった。岡崎さんより先でした。

杉ちゃん 自分の中では「俺よりすごい子来ちゃった」ってのはあった。漫画も描けるし。絵が上手い人でも漫画ってなかなか描けないのに、この子は当時からストーリー漫画とか描けたから、この子には勝てない。でも学力だったら勝てそうだなって。

山本 いやあ、記憶にはないけど、一番仲良くなりやすくて、気も遣わないですしね。私はグループに属するのが上手くなくて、二人とも一匹でいる同士みたいな。

杉ちゃん 僕はみんなと仲良いんだけど、特にグループには入ってなくて。それで同じように漫画が好きで絵が好きだったという。

山本 その後も中2まで、5年間くらいクラスが一緒で、基本的に甘える、中3くらいで初めて杉ちゃんとクラスが別れて緊張して、女子グループに属する努力を初めてして。杉ちゃんいなかったからどうしようって思って。

杉ちゃん 僕はなんにも思ってなかった。ちょっと遠くで見るくらいがいいなって感じ。

――押切先生と山田さんは?

押切 なんで仲良くなったのか全然覚えてない。たぶんクラスで一緒になったのが、中学1年だったよね。それ以降、全然違うクラスで、高校も違うしさ。なんであんなに遊んでたんだろ?

山田 僕はゲームが好きで、ゲームが好きなグループがあちこちあったので、たまに混ぜる。このグループとこのグループを混ぜようかなって。

押切 僕はゲーセン組だったし、その中にいなかったじゃん。メダルゲームとか一緒にやった覚えないでしょ。僕の中でゲーセン仲間と家庭用ゲーム仲間は区別してたんですよ。一緒にゲーセンに行ってたら、君だって格ゲー上手くなってたはずなんだよね。

――なぜ親友になってるのか不思議ですよね。

押切 僕がパソコン買うまで、この人の家に入り浸りだったんですよ。まずインターネット環境があってエゴサーチができる、そっから覚えたよね。僕、18歳くらいからエゴサーチをしていて。

山本 早い!

押切 「押切蓮介」って検索すると出てくるのが気持ちがよくってね。ヤンマガのホームページに新人の漫画をアップする習慣があったから、この人の家に行って自分の漫画を見ていたという。

山本 へー、すごい最先端。

押切 この人は本当にパソコンに詳しくて、パソコン以外のところはバカだなって思うことはたくさんあるんだけど。

杉ちゃん 山本さんも、パソコン早かったよね。

山本 私もたぶん同時期なのかな、中学生の時ですよ。『マジカルドロップ』のファンサイトに入り浸ってました。

杉ちゃん あと『たまごっち』のお墓とかさ。山本さんはホームページも持ってたし。

山本 中学生のときにホームページ持ってて、校長先生に呼び出された。書いちゃいけないこと書いてたんでしょうね。

押切 え、どういうこと?

杉ちゃん ほんとにダメな事書いてたよね。クラスメイトを茶化すような内容をひたすら書いてたり。

山本 最初に担任の先生に(ホームページのことを)教えたら、先生が面白いって言っていろんな人に広めちゃって…。

――ネット炎上でも最先端を行ってましたか。

山本 だから時代が良かったなって。私、今の時代に生まれてたら完全に潰されてる。

――前回、山本先生が過去を覚えてるのは岡崎さんのおかげという話がありましたが、押切先生もよくディテールを覚えていますよね。

押切 漫画を描こうと思ってるとき、ふと出てくるんですよ。学力がゼロで社会科とか覚えていないのに、ゲームやったときに何時だったか、どういう口調だったのか、雨が降ったとかはよく覚えていて。

出会った時から予感はあった

最終バトルはコインゲームで渋く締められた
最終バトルはコインゲームで渋く締められた

――友人のお二人は、出会った時からこの人は漫画家になるなって思ってました?

杉ちゃん 思ってましたよ。山本さんは小学校のころから学校で漫画連載してましたし、きっとなるだろうなって。

――山田さんから見た押切先生はどうでした?

山田 美術部だったから、いろいろ描いてましたよ。彼が描いてたファイルが2冊ほどウチにありますよ。

押切 それさ、早く燃やしてもらっていい?

――早くから絵を描いていたけど、漫画家を目指したのはもう少し後だったんですね。

押切 そうですね、高校を卒業した瞬間にやろうと思った。

山本 そこはたぶん全然違う。

押切 うん、別にこの人(山田くん)と相談するとか、そういうやり取りはなかったんで。

――実際デビューされたときどう思われました?

山田 デビュー作の題名が、僕の友達の名前をまんま使ってて。フルネームで「オグロマサシ」(『週刊ヤングマガジン』掲載『マサシ!!うしろだ!!』)。訴えられそうなネタがいっぱい。

――お二人とも昔のゲーム体験が現在のマンガに繋がっていますが、その予感はありました?

杉ちゃん 昔からゲームが好きだったのは知ってましたしね。それこそ一緒にゲームをやったり、プレステの『moon』と『UFO』(『UFO -A day in the life』)を交換して、お互い借りパクするっていうね。で、大人になってからもずっとゲームやっていたし、自分の体験で嘘じゃない感じがすごくいいと思います。

――本当にゲームが好きじゃなかったら、FPS(一人称視点シューティング。要するに銃撃ゲーム)をネタにしないですよね。

杉ちゃん ゴリゴリの洋ゲーをやりこんでる女性ゲーマーはなかなかいないんで、そこを考えても信用できるなって。

押切 ヘッドショット(頭部をピンポイントに射撃)をちゃんとやるじゃないですか。それでわかります、この人はやりやがるなあって。

――一方、押切先生もゲームが好きな部分はブレてないんですね。

山田 そうですね。ジャンルがゲームと妖怪とカンフー映画、そこはずっと変わってなくて。中学生のままで止まってる。

杉ちゃん 僕も感覚がずっと止まってるというのは、そのとおりだと思いますね。

山田 ずっとゲームセンターに行ってたよね。

押切 そんなにゲーセンに入り浸ってた? あんまり記憶ないんだけどさ。

山田 ずっとゲーセンにいたよ。ゲーセンにしかいなかった。

杉ちゃん 山本さんも町田の50円で『マジカルドロップ』ができる店でずっとやってて。それを後ろで見させられたんです。ちょっとルールが特殊で、説明されないと何が起こってるのかまったくわからないなって。

山本 ちょっと上手いから、たぶん見せたかったんだ。

杉ちゃん 岡崎さんもいて、優しいから「わー、すごい」と言ってあげて。僕は「(東急)ハンズ行きてえなあ」と思いながら。グロいやつも見せられましたよ、岡崎さんち行った時に。硫酸男が出てくるやつ。

山本 あー、『クロックタワー3』だ。

杉ちゃん 僕は見たくないんだけど、このムービーを見ろって。なんでトラウマ植えつけられなきゃいけないんだと思いながら。

――怖いから一緒に見てもらいたかった?

山本 そういうグロいゲームだとわかってるから、むしろ感動していて。ぜひ感動をシェアしたいっていう。

杉ちゃん ストーリーを把握してるわけじゃないから、なんでグロいシーンだけを味合わされるんだってことはありました。

――押切先生も山田さんとゲームの感動をシェアされました?

押切 こっちはお互いゲーマーなんですけど、この人は底が浅いんですよ。山田くんはゲームを集めるのが好きなんだけど、10の中の1~3くらいで止めるんですよ。僕は1から10までやる。『RPGツクール』でも、僕はぜんぶ作んなくちゃ気が収まらない。この人は2くらいで飽きちゃう、フィールド作って終わり。でも、僕がストーリ―も全部考えてオチまで考えてじゃあ誰にやらせようかというと、この人しかいないんですよ。

杉ちゃん 彼がいてくれたからゲームを最後まで作れたという。

押切 そう。『ピコピコ少年』にも書いたけど、首をかしげるんですよ。あれはゲームシステムに対する疑問だったの? それともストーリーなの?

山田 『ドラクエⅢ』と一緒なんですけど、絶対こっちに行かないといけないよという感じのマップの作り方をしてるので、あえて逆から行ってみたら行けたみたいな。

押切 この人、デバッガー(ゲームの不具合を検証する仕事)なんですよ。純粋にストーリーを楽しんでほしいのに、粗探しするから。

山本 私、あれ(『RPGツクール』で作ったゲーム)って杉ちゃんにやってもらったの? 岡崎さんだっけ。

杉ちゃん いやー、覚えてないな。プレステでも(『RPGツクール』シリーズは)出てたけどね。

――お二人とも『RPGツクール』を最後までちゃんと完成するまで作るっていうのはすごいですね。

杉ちゃん 関係が似てますよね。僕のほうがゲームの知識はあるけど、実際に上手くて最後までやり遂げるのはそっち、みたいな。

――友人が面白いゲームに導き、マンガ家さんがそれをとことんやりこむという図式ですね。

杉ちゃん 僕がこのゲーム面白いんだよって言ったら、その紹介でハマったりとか。それこそ、太田出版の『超クソゲー』とか買って二人で読んでたよね。

山本 認めたくないですけど、やっぱりすごい影響受けてますね。私が打ち込み系の音楽が好きなのも、杉ちゃんの影響だと思う。すごい根っこにいる感じですね。

押切 似てるなー、そこらへんも。山田くんに影響されて、マイク・ヴァン・ダイクとかハマってたもんね。

杉ちゃん 当時、僕も山本さんに貸してたんですよ。お勧めのテクノ貸してって言われて、その時にね。

――逆に、以前と比べて変わったなってところあります?

杉ちゃん 昔はマンガのとおりで。めちゃくちゃな子でしたよ。やっと分別は付くようになってきたよね?

山本 相当まともになったよね。岡崎さんにもめっちゃ言われて。

押切 そんなにハチャメチャだったんですか?

山本 本当ヤバくて。岡崎さんからも最近、「ツイッターをやめて」って言われて。まともな山本さんを見たくないっていう。本当はもっとすごい人なんだから、って。

――岡崎さんにとってのヒーローだったという。

杉ちゃん 小学校の頃とか、自分が面白いと思ったら止まんなくなっちゃう感じだったね。絶対怒られるのに、いつまでもやめないのがお約束でしたよ。でも、やっと世間に伝わりやすい感じになったのかな。

――やっと理解できるレベルに落ち着いてきたという。

杉ちゃん そうそう。根本は変わってないから、そこが相変わらず魅力なんだろうなーと思います。

――一方で押切先生も、『ピコピコ少年』の中でのエピソードはかなりクレイジーですよね。

押切 あー、溝の口ってけっこうヤバいところだったし。

杉ちゃん そうですね、

――思いっきり肯定されてますね。

杉ちゃん けっこう近いからわかるけど、ちょっと治安が悪いんです。

押切 カツアゲとか毎日普通にありましたよ。そんな中で、僕らはカツアゲされたことがない部類。なんかゲーセンでヤバいと感じたら、バッと外に出るっていう。いろいろ危機管理能力はあったよね?

山田 動物的な感覚はあったよ。

押切 ちょっと目を付けられてんなと思ったらスッと逃げたりとか。ぼくはよく××××のゲーセンに通っていたんですが、危険と隣り合わせだった。わかるよね? あの店。不良のたまり場で怖い店なんだけど、行ってしまう。でも、山田くんと一緒にいる時、そういうことは1回もなかったよね。

山田 うん、なかったね。

押切 山田くんは運が強いし、こんなに人の悪口も愚痴も言わない男は初めてでしたよ。中学からそう思ってたってことは、根っからそういう思考がないんでしょうね。そこは尊敬してるんだよ。

――そういう山田さんから見て、押切先生が変わった点はないですか?

山田 基本的には同じですね。ただアルコール飲むようにはなった。

押切 山田くんは生活水準が全然変わらなくて、貧乏なのにセレブなの。

杉ちゃん ダメじゃないですか。

押切 昔からそうなんだよね。金持ってねーのに、なんでそんなもの買うの? っていう消費癖があるんですよ。とにかく、発売されたばかりのゲーム機をぜんぶ欲しがるんです。
それで買ったらそれを愛するか思ったら、愛さないんですよ。セガサターン買ったぞって言っても別にそんなに遊ぶことはなくて、僕のほうがやってたんじゃないかな。


〈プロフィール〉

押切蓮介(おしきり・れんすけ)

1979年生。1998年『ヤングマガジン』でデビュー。著作に『ピコピコ少年』 『でろでろ』他多数。現在『ピコピコ少年』 『ハイスコアガール』(「ビッグガンガン」)、『ぎゃんぷりん』(「漫画アクション」)、『狭い世界のアイデンティティー』(「モーニング・ツー」)等を連載中。

山本さほ(やまもと・さほ)

1985年生。2014年、『岡崎に捧ぐ』をウェブサイト「note」に掲載し話題に。2015年より「ビッグコミックスペリオール」で『岡崎に捧ぐ』連載開始。現在同作の他、『無慈悲な8bit』(「ファミコン通信」)連載中。

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