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『エロマンガ表現史』への自治体による有害図書指定に関して

2018.10.17/一般書


2017年11月弊社刊『エロマンガ表現史』(稀見理都・著)が、2018年3月16日、北海道青少年健全育成条例の規定により、「有害図書類」に指定されました。指定の理由は、「著しく粗暴性を助長し、性的感情を刺激し、又は道義心を傷つけるもの等であって、青少年の健全な育成を害するおそれがあると認められるため」とのことでした。

本件についてはこれまで、メディアからの個々の取材に対して弊社の公式見解をお伝えしてきましたが、その後の事態の経過もふまえ、以下にあらためて声明として記します。

『エロマンガ表現史』の企画意図は「漫画における身体の記号的表現の進化史研究」にあり、文字どおり人間の身体を視覚的技術のもとに描写する“エロマンガ”は、そのために外せないどころか最も重要な領域だと当社は考えています。その認識のもと、同書では起源のひとつとしての春画を含め、多数のエロマンガ作品の図版を引用の範囲で掲載していますが、北海道青少年健全育成審議会ではそのことが問題とされたようです。

しかし上述のように本書は漫画という視覚的表現の解説書である以上、これら実例の掲載は不可欠です。さらに収録図版の掲載にあたっては、読者がこれらの表現の歴史的変遷を辿って研究するために最低限必要な点数と大きさにとどめ、すべてをモノクロで掲載しています。これらの図版類の掲載が”著しく青少年の粗暴性を助長し、性的感情を刺激”するとまでは考えにくいのではないか、というのが当社の見解です。

付記すれば、『エロマンガ表現史』が北海道で有害図書類に指定されたのとほぼ同時期(同年3月23日)には、『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)が滋賀県で有害指定されていますが、こちらも「いわゆる“エロ本”の自動販売機」という現在ほぼ見られなくなった過去の文化的・民俗的機器とそれが存在する風景の写真が主内容であり、メディア史研究そのものと考えられるべき書籍です。この2冊がそれぞれ同時期に異なる地方自治体から「有害指定」されたことは、個々の書物が持つテーマや文脈を無視した短絡的な判断がなされ、かつそのような傾向が加速しつつあることの顕れではないかという危惧を覚えます。題材そのものと、それに対するアプローチを混同することは、一種の思考停止であり、歴史や過去事例の調査研究行為そのものを否定することに等しいと考えます。

もちろん、ある表現作品のどこが「粗暴性」や「性的感情」を助長・刺激するのか(またはしないのか)は、美的・主観的な問題でもあり、人によってその基準は違っていることでしょう。だからこそ、ある特定の表現物を公に「有害」だと定義することには慎重な配慮が求められるべきであり、公的機関がそのような指定に至るまでの経緯、議論の過程は、広く社会に公開されるべきものだと考えます。しかし今回、北海道青少年健全育成審議会は、有害図書指定に至った審議の議事録すら残していませんでした。

公的機関による、表現物の内容に関する審議の過程が結論ありきのブラックボックスと化していることに対して、弊社は出版社として大きな違和感を表明するとともに、そのような「不健全」な状況に変化が生じることを、強く願います。

2018年10月17日 

株式会社 太田出版 
代表取締役 岡聡 

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